VRレスバトル
「って、ログアウトしてないしッ! 何してるんですか皆さん! トランプなんて現実でだって出来るでしょうが! 異端の技術を使ってやることがテーブルゲームっておかしいでしょ!」
僕らが本当にログアウトしているかの確認のために戻ってきたと思われるV倫の女性がログインするなり声を荒げた。さっき演説してたオジサンの裏にいた人だな。使いっ走りかな? ふむ。僕は一旦8切りで場を流し、5の3枚出しで先行制圧イチ抜けを試みた。
「おっと、そりゃ考えが甘ぇんじゃねぇか?」
7の3枚出し……くそっ、見誤ったか。もう少し様子見をするべきだったな。他二人はどうか。
「パス」
「……パス」
なるほど。どうする。キングの3枚出しはまだ早計に過ぎる気がするが、ここであのレッドに流れを持っていかれるのは避けたい。ヤツは先の勝負で一位。確実にジョーカーを握っている。
……吐かせるか? いや、それをして僕の順位が落ちたら本末転倒。手札は悪くない。ジョーカーも一枚ある。癪ではあるが、今回もヤツに一位を獲らせて僕はこのまま二位をキープ。しかる後に都落ちさせて王座は僕が頂くとしようか。三本勝負で最後に一位だったプレイヤーが勝ちのルールだ。次の試合で首を落とす。
「パス」
「パスじゃ無いッ!」
V倫の方は僕らがオープンテラスから引っ張ってきたテーブルをぶっ叩いて吠えた。これだから素人は。僕はため息を吐きながら反論した。
「いやここはパス一択でしょ。まだ2を3枚出しするのは早過ぎる」
「そこッ!? 知りませんよそんなこと!」
叫び散らすV倫の方を気にも留めずに三位、四位のモブがスッと目を細めて僕を見る。食い付いたか。嘘に決まってるだろう。ただのブラフだよ。
僕は2を二枚しか握っていない。素引きしたし、前回三位のモブは僕に1を寄越した。となれば……レッドが2を二枚握っているだろう。四位がジョーカーと2を二枚素引きするという豪運を発揮していなければ、であるが。
僕のアプローチに気付いたか? 一位のレッドにさり気なくハンドシグナルの合図を送る。他の二人にバレないくらいの小さな頷きが返ってきた。やはりレッド連中は話が早い。ヘイトは買ってやったんだからさっさと上がりなよ。だが革命は無しだ。いいね? よし。
ふん。せいぜい油断するといい。がら空きのその背中はいずれ僕のジョーカーが刺す。正義に敗北は許されないのだ。
「いや普通に続行しないでいただけますか!?」
「るせぇなぁ。今良いとこなんだから静かにしとけや。準々決勝なんだぞ? これからって時に茶々入れるんじゃねーっての。芸人なら場の空気を読むことに終止しろよ。手ぇ抜くな。まだ『ケーサツ』のほうがそこんとこの理解があるぜ?」
「それによぉ、トランプは現実でもできるってそれはギャグか? んなこと百も承知だってぇーの! だがなぁ、ココでやる大貧民は現実とはちげぇーんだよ!」
「思ったことが表情に出るからな。戦略とか精神性がモロに出るからおもしれぇんだわ。んで、慣れりゃそれすらブラフに使えるって寸法よ」
「奥が深いんだよね。リアルでやるのとは比べ物にならないくらいに」
NGOには娯楽がなかった。釣りやカジノといった、片手間で遊べるちょっとしたミニゲーム的な要素がまるで無かったのだ。
そんな折にプレイヤーが生み出したのが簡易式チキンレースなのだが、その絵面の酷さは我らがクソ運営すらをもドン引きさせるものであった。
流石にこれが大衆娯楽として親しまれている状態はどうなのかと思ったのだろう。運営はひっそりとメニューのショップにトランプを追加した。
VRでトランプかよと冷笑を浴びせたのは昔の話。読み合いの妙をギュッと凝縮したような名試合が続々と展開されたことで、僕らはやっぱり完成度の高いテーブルゲームって面白いわと認識を改めたという歴史がある。
まぁここの住民的には簡易式チキンレースのほうが人気みたいだけど。あれは簀巻き役の確保がね。レギュレーションを整えるってなると大人数のトーナメントには向かないんだな、これが。僕らはそんな事情と歴史をV倫の方に説いた。
「知りませんよ! 動画で見たことありますが、あんな野蛮で知性の欠片も感じられない遊戯をするなんて狂ってますッ!」
「ド正論で草」
「これに関しては反論できねぇわ」
「まぁ、俺らはそれを加味した上であえてやってるからね? あえてね。だからへーきへーき」
「簀巻き役もなかなか奥が深いんだよ」
「狂ってる! 狂ってるッ!!」
顔を真っ赤にしたV倫の方がテーブルをガシと引っ掴み、そのままチャブ台のようにひっくり返した。何するのさ。
「あーあーこりゃ続行不可能だな! 仕切り直しと行こーぜ?」
三位のモブが手札をバラ撒いてニッと笑った。……アイツ、相当手札が悪かったと見える。これ幸いとゲームを終わらせたな? 狡い考えだ。審判は……無言。イレギュラー判定の適用か。やむなし。
改めてトランプを購入しシャッフルしていると、肩を震わせたV倫の方が拡声器を購入して妨害行為に乗り出した。
『VRゲームのようなー! 人の暖かみを感じない冷たい世界に入り浸るとー! あなた達のようにー! 人を人として扱わない残忍な精神が作られていきます!』
「おい、どうするよコレ」
「集中できねーよ」
「不快で顔が歪んだら読み合いが成り立たないよね」
「巻いて転がしておくか?」
『そういうところです! まさにそういうところですよ!』
突如始まった大貧民大会が予想以上の盛り上がりを見せたため、本来は楽しいオモチャであるはずのV倫の方がノイズにしかなっていない。ふむ。僕は提案した。
「僕、演説の途中からの参加だったからガバガバな結論しか聞いてないんだよね。もう一回頭から演説させて、満足してもらって穏便にログアウトさせるのってどうかな」
「狩りに出払ってて聞いてなかったヤツも居るし、いいんじゃねぇの?」
「勝負はその後で再開するか」
「ケー」
という流れで進むことになった。
▷
『お集まりの皆様はこのゲームの評判の悪さを知っていますか? 我々は愕然としております! 人殺しにテロ行為、生物の殺傷にハラスメント行為。これらの悪行が野放しにされ、あまつさえ誰もが慣れきってしまっている現状。こんな悲惨な環境が存在しているという事実を、一体どうして認められるでしょうか!』
V倫の手口は単純だ。まずは耳障りの良い尤もな主張で聴衆の興味関心を惹く。聞く耳を持ったと見るや、どこからキャッチしたのか分からない怪電波を垂れ流して聴衆の脳を破壊。突飛で奇天烈な結論を刷り込むことで洗脳を施すという悪辣ながら効果的なやり方を主とする。詐欺師のそれだね。
純真無垢な者たちは彼らの主張を事実であると信じ込んでしまうのだ。そうして仲間を増やしながら各所で傍迷惑な活動を続けては煙たがられている。
VRは政府が秘密裏に開発してる人格破壊装置とか、ディストピア計画の初期構想とか、彼らはそんな電波を一体どこから受信してきてるんだろうね?
『このゲームの評価は国内のみならず国外の方々からも酷評されています! 一年以上前になりますが、あの事件はご存知の方も多いでしょう。女性プレイヤーと見れば見境なくしつこく付きまとい、ストーカーまがいの悪質行為に手を染めるプレイヤーがネットの海に晒されたあの事件を!』
おっと流れが変わったぞ。
会場がにわかにざわつく。どうやら先程の演説とは違う流れのようだ。ていうかこれホシノの件だよね。この場にいる全員が既にオチを察していることなど露知らず、V倫の方は得意げな顔で続ける。
「ゲーム内の女性に浅ましくも劣情を催し、個人情報をペラペラと晒して交尾を持ちかける、脳を下半身に支配された猿が生息するゲーム。海外からそんな酷評を下されたのがこのゲームです! 皆さん、こんな評価をされているゲームに入り浸っていて恥ずかしいとは思わないのですか!?」
これには会場の皆さまも草スタンプの大盤振る舞い。
全くもってその通りだという賛同の声があちこちから上がるなか、会場をビリッと震わせる大音声が客席から響いた。
「ちょっと待てやあぁァァッ!!」
ホシノである。
ザッと立ち上がったホシノは肩を怒らせて歩きながら吠えた。
「黙って聞いてりゃ散々っぱら人様のこと馬鹿にしてくれんじゃねぇか。あ? えぇおい。釣り配信なんてクソみてぇな企画を実行に移すような性格が終わってるボケより先に被害者を糾弾するってのは筋が通ってねぇよなぁ。てめーらのそのネットの記事を鵜呑みにするスタイルはいい加減やめたらどうなんだ? 飲み込んだネタを消化せずにケツからヒリ出しやがってよぉ。相変わらずクソみてぇな団体だな?」
ここでホシノ渾身の舌鋒がキラリと光る。相手はレスバ糞雑魚の名をほしいままにするV倫。さて、どう打って出るつもりなのか。
「そもそもそんな企画に釣られる方が悪いのでは?」
これは意外! 冷静で端的な正論は長文相手に刺さる一手だ。思わぬカウンターを食らったホシノが言葉に詰まる。これは分からなくなってきたか。
「どう見るよ」
「……ホシノなら覆すでしょ。ペラ回しにかけては彼の右に出るものは居ない」
「賭けるか?」
「いいね。百万」
僕はホシノのよく回る口に投資した。
気圧されたホシノは、しかしフンと鼻を鳴らして虚勢を張った。ナメクジのような視線を鋭く這わせてアバターを査定する。口端と瞳が歪む。それには嘲りが多分に含まれていた。
「女性プレイヤーに見境なく付きまとう、だぁ? ちげぇな。俺は俺の基準を満たせねぇヤツには手を出さねぇ。てめぇみてぇなヤツには、な」
イキったホシノがビッとV倫の方の顔を指差した。
「その顔、ランダム生成キャラじゃねぇな? ひでぇセンスしてやがるぜ。極端な小顔にピンク髪。ババくせぇ自己投影が透けて見えるようだぜ!」
ホシノがバッと両手を広げて笑う。そしてスッとサムズアップ。クルッと手首を回して親指を地に向け、クイクイと動かした。
「気合入れてメイクしたみてぇだが……不合格だ。残念だったな? キャラデリして出直せや」
ドストレートな煽りに会場が沸く。重箱の隅をつつくような揚げ足取りからのレッテル貼りと現実への追及。お手本のようなクソムーブだ。しかし強い。これは決まったか?
「このアバター、視覚を閉ざして適当に作っただけなんですけど?」
んんノーダメージッ! まるで見当違いの指摘だったッ!
「当たり前じゃないですか。こんな異端の技術を用いた洗脳器具に真剣にのめり込むとでも?」
どうやらホシノは切り口を誤ったようだ。
一見すると強がりの言い訳に聞こえそうな反論であるが、V倫の活動方針とマッチしているという事実が正当性を担保する。
「それに、人のセンスをどうこう言えた立場ですか? そんなホスト崩れのキャラで息巻いて……もしかして何かコンプレックスでも持っていらっしゃるので?」
これは痛いッ! キャラクターに自身の影を重ねているという指摘は、裏を返せば自分もそうであるとの自己紹介にほかならない。モテたい欲を拗らせたキャラクリに鋭いメスを挿れられたホシノが呻く。
「それは……」
「前時代的。そんなんだからこんな空虚な世界で女漁りに精を出すんでしょうね」
「ッ……!」
ぐうの音! 百点満点のぐうの音ッ!
顔を真っ赤にしたホシノが何かを言おうとして口を開くも二の句が出てこない。
浅い呼吸を繰り返していたホシノは、どうやら限界を迎えたらしく虹色のポリゴンとなって天へと昇っていった。ホシノー! エモペナ発症するくらい悔しかったのかー!
「ふん」
勝者の笑みを浮かべたV倫の方が再び拡声器を片手に演説を再開する。僕は百万Gをコイン化させて指でピンッと弾いた。レッドネームのモブが嫌らしい笑みを浮かべながらパシッと受け取る。次は勝つよ。
『このような悪質プレイヤーが話題になったのは一度や二度ではありません! それどころか、最近になっても度々世間を騒がせております!』
最近の事件に絞ってきたか。とすると……戦争を引き起こしたレッドネームや街の中でドンパチやってた『ケーサツ』連中に矛先が向くかな。
『人の住居を爆弾で吹き飛ばす愉快犯の話がSNSを騒がせたのは記憶に新しいでしょう』
ん?
『あの悪夢のような映像を見たとき、私は人命軽視の極地を垣間見た気分でした!』
んんー?
『花火で遊ぶような気軽さでテロ行為に手を染める狂人が潜んでいるゲーム。皆さん、こんな評価を下されているゲームに入り浸るなんて、世間の目が気にならないのですか!?』
これには会場の皆さまもイイネスタンプの大盤振る舞い。
何でだよ。全くもってその通りだという賛同の声があちこちから上がっている。ちょっと待ってよ。僕はザッと立ち上がった。
「はー調査不足も甚だしいなぁ。情報リテラシー能力が低すぎるよ。愉快犯だって? 酷い侮辱もあったもんだね。人の脳よりもまず自分の頭を心配したほうが良いんじゃないかな?」
僕はV倫の方の小さい脳みそを本心から心配しながら距離を詰めた。不快に顔を歪めたV倫の方がポツリと呟く。
「どこかで見た顔だと思ったら……アナタだったんですね、愉快犯の爆弾魔は」
「その愉快犯って何なのさ。僕は頭のおかしいプレイヤーに対しての制裁を一手に担っているっていうのに」
「破壊活動が制裁? 爆弾魔の言うことは理解できませんね。まずは話し合いで解決するのが理性を持つ人の在るべき姿というものです!」
は? 何をヌルいことを言っているんだこいつは。僕はほとほと呆れ果てた。一体どんな調査をしたらそんな結論に至るのやら。
「このゲームのプレイヤーに話し合いが通じるわけ無いだろ。爆弾で吹き飛ばす以外の選択肢があると思っているのか」
「あなたは何を言っているんですか?」
「真理を説いている。悪を正すには相応の力が要るんだ。爆弾魔、ね。あんまり好きな表現じゃないけど、分かりやすくはある。そうだね」
僕は努めてにこやかな笑顔を浮かべた。
「僕は正義の爆弾魔だ」
「あなた頭大丈夫ですか?」
大丈夫に決まっている。だが正義とは得てして無理解の的になるものだ。それはもういい。理解など求めることが間違いである。僕はただ己の信念に従うのみだ。
「そもそも爆弾の作成などという非人道的な要素が存在していることがおかしいのです! 人斬りといい、生物の殺傷といい、現実で禁止されていることを許容するゲームというのが不健全であると言っているのです! 自分の意思で、主観で行うVRならば尚の事! 違いますか!?」
「違うよ。そもそもが詭弁なんだよね。人道を主張しておきながら、僕らの事を人以外の何かとしか認識してない。まずは色眼鏡を外しなよ。僕らが現実とゲームの区別を付けられない人間であるって前提で話を進めてるんだよね。大層なお題目を掲げてるくせに、自分らが一番人を見下してるよ。何様なのさ。僕らを手頃な叩き棒に見立ててVRのシステム全般を批判するのは辞めてもらえないかな?」
会場が沸く。面白がった聴衆が思い思いのスタンプを繰り出して僕の正論を強固に補強した。
僅かに顔を顰めたV倫の方は即座に減らず口を叩いた。
「それは卑屈に過ぎる考え方ですね。被害妄想です。我々はただ、野蛮なゲームを開発する会社や進んでそれに手を出すプレイヤー、そしてそれを許容するVRというシステムの是非を問うているのです! 技術次第ではもっと有効な使い方があるでしょうに、何故暴力的な要素を含んだモノばかりが濫造されているのか! そして誰も異を唱えないのか! 我々はそこにある闇を許さない、それだけです」
「君らの主張は聞いてないよ。人道を信じてるなら僕らのことを放っておけばいいと、そう言ってるんだ。僕らは現実で人斬りなんてしてないんだからさ。あぁ、政府が秘匿してるとかいう妄想は持ち出さないでね?」
「……本当に良識があるのならばもっと他のゲームに手を出すと思いますけどね」
お、苦しくなってきたみたいだね。これはそろそろボロを出しそうだ。僕はあえて彼女に喋らせることにした。
「へぇ。例えばどんなゲーム?」
「暴力的な要素なんていらないんですよ。動物を思いのままに愛でることが出来るゲームとか、博愛心に満ちたものを開発すればいいのです!」
ほう、ほう。動物を愛でる、ね。実に……醜い。僕は努めてにこやかな笑顔を浮かべて反論した。
「それって、現実では色んな責任が付きまとうのが面倒くさいからVRに逃げるっていうことだよね。購入して世話を見続ける気は無いけど、VRならいつでも捨てられるから便利って言いたいわけだ。それ、むしろ動物の存在を軽視してない?」
「ちがっ、邪推です! VRなら住居の問題とか、お金の問題とか……抜け毛に害虫とかの諸問題も気にならないでしょ!」
「おやおや? 僕の勘違いじゃなかったら……さっき演説してた男性は、VRの事を不都合な部分を取り除いた紛い物の世界って高らかに主張してた気がするんだけどなぁ? 貴女の挙げた要素は、まんまそれが当てはまると思うのですが如何に?」
会場からおぉーという声が上がる。矛盾の指摘。VRという世界を否定する彼ら彼女らがどんなに優れたゲーム内容を提案したところでそれは突貫工事で取り繕ったハリボテ。穴を空けるのなんて簡単だ。ガバガバすぎるよVR遊戯倫理機構。
「ッ……げ、現実では触れることの出来ない動物とか、飼えるかもしれないじゃないですか」
「ゲーム内でそんなことして大丈夫? 現実でどうしても飼いたくなったからって言って法律違反して取り寄せたりしない?」
「するわけないじゃないですか! 馬鹿にしてるんですか!? ゲームと現実の区別くらい付いてますッ!」
「その言葉が聞きたかったッ!」
僕はカッと目を見開いた。パチパチと拍手を贈り、遠い遠い回り道をして正解に辿り着いた彼女を賞賛する。
「その気持ちが、今まさに僕らが抱いてる気持ちなんだ。僕らだってゲームと現実の区別くらい付いている。ハイ論破。何度言っても君たちは信じてくれなかったけど、これでようやく分かったね? さ、馬鹿な活動は今すぐ辞めてお仲間にも伝えるといい。私達は間違っていました、とね」
僕はレスバ糞雑魚のV倫の方を論破した。こんなの否定に否定を被せてうやむやにした後に難癖付けて墓穴掘らせるだけじゃんね。いやぁ楽な仕事だったよ。
会場が再び沸く。金に輝くコインがあちこちで飛び交っている。賭けに勝った連中はヒュウと口笛を吹いて囃し立て、負けたやつらはブーイングと不満のスタンプを連打していた。ふん、自分の見る目のなさを恨むといい。
「……ません」
顔を真っ赤にして俯いていたレスバ敗北者がポツリと呟いた。
ん? 何かな? なにか言いたいことがあるなら聞くよ? 僕は笑顔を浮かべて勝者の余裕と懐の深さを見せつけた。
「あんな、下らない花火で、破壊活動を繰り返しているあなたにとやかく言われたくありませんッ!」
――――ほう。下らない。僕の作った花火が、下らないだって? へぇ。ふぅん。そうか。なるほど。なるほどね。
「おいおいおいやべぇぞ! 退避しろ! 早く!!」
「あーアイツ死んだわ」
「ライカンの目がキマってんぞ! 逃げろッ! 逃げろー!」
「レスバ(物理)が始まるぞー!」
「相手を黙らせたほうが勝ちって、そういうことじゃないんだよなぁ」
なにやら外野が騒がしいが、関係ない。
VR遊戯倫理機構。僕の花火をモニター越しにしか見たことがないからそんなふざけた感想が出るのだろう。
二度と侮辱の言葉を吐かせてなるものか。僕は花火玉を取り出した。
「ヒッ……! や、やめっ」
「下らないだって? ならば刮目するといい。そして瞼に、脳裏に焼き付けるんだ。僕の作品の素晴らしさを」
僕は高らかに指を打ち鳴らした。点火一秒。光の焔が華と咲く。
燦々と降り注ぐ陽の光をも塗り潰して瞬く白色光。心胆に心地良く響く爆音。五感を激しく、しかし優しく撫で付けるような余韻の波。実に素晴らしい。V倫の方はポリゴンとなって爆散した。
ああ、だけど……。僕は後悔のため息を吐いた。噴水が壊れてしまった。V倫の方は街の外へとリスポーンしたのだろう。もっと僕の自信作を見せてあげたかったのになぁ。
「ライカンよぉ! 街の外でさっきのやつを捕獲したって掲示板に書きこみがあったぜぇ!」
「おっ、ナイスぅ」
グンと接近してきたレッドが僕に望外の朗報をもたらした。どうやら逃げるのを阻止してくれたらしい。これで彼女に二度と忘れられぬほどの華美な思い出を刻みつけてあげられる。なんと素晴らしいことだろう。
さぁ行こうか。僕の傑作を認めさせるためならば、手間と時間を費やし、腕によりを懸けて作った全てを解放することに躊躇いはない。
目に物見せてやる。僕はにこやかな笑みを浮かべて街の外へと歩を進めた。




