アフターフェスティバル
ロールバックされた。
またかよと思う。このゲームを、プレイヤー達を、全てを取り巻く環境は24時間前に遡ることとなった。この短期間で二回もロールバックするとは……我らがクソ運営はプレイヤーのことを何だと思っているのだろうか。
なんというか、ここの運営は芸がないよね。致命的な状況になったらロールバックすればいいと思ってるフシがある。
いくらなんでも怠慢がすぎるよ。MMOの運営としてそれはどうなのって思わない?
「思うに、だ」
ヨミさんは僕の二の腕に短剣を刺しながら持論を語った。
「防衛戦イベントのようなものがあるのではないか、と睨んでいる。あれだけのことをやらかしたのに、また爆弾が規制されなかったのもそう考えれば理屈が通るだろう。火薬類を用いた兵器による迎撃戦だ。あくまで予想に過ぎないがね」
「防衛戦ねぇ。根拠はあるの?」
「公式怪文書に街に押し寄せてきたモンスターを兵器で撃退する話があるんだ。そういうイベントがあってもおかしくない」
またそれか。
誤字脱字、話の矛盾がふんだんに盛り込まれた小説と言う名の公式怪文書は、真面目に読んでいると頭がおかしくなってエモーションペナルティを発症するくらいの劇毒だ。
摂取には相応の危険が付き纏うため、まともに読み解けるのは『検証勢』の連中くらいのものである。有害指定図書かな?
「うーん……あんまりよくわからないんですけど、それとロールバックって何か関係あるんですかね? えいやっ!」
ふわちゃんは素朴な疑問を漏らしながら軽い調子で僕の心臓に短剣を突き立てた。
初手心臓……玄人か? それともルール説明を聞いてなかったのか。サシ刺しだというのに、後々になって自分に跳ね返ってくるリスクを恐れぬ一手。怖いものなしか? 僕は感動で咳き込んだ。
「むぅ……ポーション。関係ならあるさ。前回と今回のロールバックには共通点がある。恐らく、これは仕組まれたロールバックだ。運営が手ずから発動したものではない」
ポーションを僕の顔に振りかけながらヨミさんが検証の結果、及び推測を口にする。
「全ての主要な施設が破壊されてからきっかり六秒後にロールバックが発動している。恐らくはゲームオーバー演出なのだろう。街を守れなかった時点で自動的に巻き戻りが発生するシステムが組まれている。そう考えると辻褄が合うんだ。さすがの運営もプレイヤーがそれを作動させるとは思いもよらなかっただろうが、ね」
ヨミさんは僕の足に短剣を刺しながらニヤリと口端を歪めた。ほへぇという気の抜ける相槌を打ったふわちゃんが短剣を漁りながら言う。
「難しいことはよく分からないですけど……私達は負けちゃったってことですかね?」
「ああ、そうだな。完敗だよ。くくっ。【一世一代】といったな。あんなふざけたスキルがあるとは想像だにしなかったよ。君が本気を出すよう煽ったのは私だが、まさかあそこまで徹底して潰しに来るとは思わなかった。前言を撤回させてもらう。やはり君の代わりはいないぞ、ライカン」
「調子いいなぁ。完全に僕のことを切り捨てたくせに」
人のことをサイコパスだなんだと失礼なことを言っておきながらこの手のひら返しだ。呆れてものも言えないよ。僕は嘆息した。
「そう女々しいことを言わないでくれ。あのときは少し熱が入ってしまったが……冷静に考えると、ふわちゃんが君の代わりになるはずがないんだ」
「私は明日からブレギャラのリベンジが始まりますからね! ラスボスを倒すまでは他のゲームをやる気はないので、今日はちょっとした遊びと息抜きに来ただけなんです! えいやっ!」
ふわちゃんは軽い調子で僕の肺に短剣を突き刺した。急所二連……ブレイカーめ。プラ2以上だったら負けてたぞ。恐れを知らないこの刺し筋、将来大物になりそうだ。僕は感動で咳き込んだ。
「ぬぅ……駆け引きが、成り立たない……。と、まぁそんな事情でふわちゃんはしばらくはログインしないだろう」
「ブレギャラってそんな難しいの?」
「ラスボスだけ突出して難しいと有名だな。高いセンスと冷静な理詰め、多少の運が要求されるそうだ。ふわちゃんならあと二百時間はかかるのではないか、というのが大方の予想らしい」
「みんなして酷いこと言いますよねー。あと十時間もあればパパっとクリアしてみせますよ!」
ふんすと鼻を鳴らし、やる気に満ちた表情で両拳を握るふわちゃん。それを見たヨミさんは生暖かい眼差しを向けていた。これは恐らく本当に二百時間コースなのだろう。この顔がいずれ泣き顔に変わるのが透けて見えるようだ。
「まぁ、なんだ。そういうことだからこれからもよろしく頼むぞ、ライカン」
にっこりとした笑顔を浮かべたヨミさんが僕の肺に短剣を突き立てた。僕は死んだ。
勝者――ふわちゃん。
▷
第二試合目。
能面を貼り付けたような表情の二人が短剣を握って向かい合っていた。濁った目が互いを牽制するように昏く光る。これから始まるのは勝負じゃない。権利を勝ち取る戦争だ。
「週休二日、十七時間」
二の腕へと様子見の一刺し。
「……週休一日」
返す一手は足へ。両者ともまずは消極的な様子見だ。
だが、どちらも決して譲らないと言わんばかりの意思をひしひしと発している。これは長期戦になるかもしれない。僕は固唾を飲んだ。
「週休二日、十七時間」
条件に変更なし。僕の脇腹に短剣が突き立てられる。強固な意思を示すためだろう。長期戦になるかと思いきや、意外にも早く交渉決裂の亀裂が顔を覗かせる。シンシアはどうやら本気のようだ。
「……週休一日、十五時間」
あっさんが折れた。足への一刺し。どうしても週二休みは勘弁願いたい模様である。だがしかし、労働時間の短縮の譲歩をしているようにみえてその実、総労働時間は増えている。危うい策ではないのか? シンシアはそこまで馬鹿じゃない。
……探りの一手か。週休一日でもいいだろう? 言外にそう言っている。交渉の条件のそもそもの見直し。そしてそれが受け入れられないなら決裂もやむ無し、ということか。
「…………週休一日、十二時間」
ここでシンシアが強気に出た。週休一日を徹すというのならば労働時間を大幅に削るという意思表示。総労働時間は初めの条件よりも緩くなる。これは痛い。急所を突いた一撃。肺を貫く一撃に覚悟のほどが伺える。
「…………ポーション」
ここで小休止。
僕の身体を通して行われる労使交渉はいよいよ謎の緊張感を帯びてきた。聴衆が訳知り顔で勝敗を予想する声が飛び交うなか、あっさんが決意の一刺しを見舞った。
「週休一日、十五時間」
折れない。あっさん、折れないッ! 強気の交渉を突っぱねる脇腹への一手!
廃人ギルドは常に誰よりも先を往き、率先垂範を行動に移してきた。日和る姿は見せられない。そして、シンシアのこの横暴を許したら付いてきている部下たちへの示しがつかない。
胃がしみじみと痛くなるような板挟みの光景。しかしそんな内情を微塵も悟らせない強気な一刺し。これにはさすがのシンシアも気圧された様子。能面のような表情が僅かに崩れる。甘い認識で挑んだ、これはその報いだ。
「…………週休一日、十三時間」
ここでシンシアが歩み寄りの姿勢を見せた。逃げとも取れる足への一刺し。シンシアとしても勤め先が無くなるのは避けたいようだ。ボロい商売という発言……なんとかして好条件をもぎ取り、今後も甘い汁を吸っていこうという心算なのだろう。
たった一時間。だが牛の歩みも積み重なれば千里に届く。これに対し、あっさんの返答は……
「週休一日、十五時間」
折れず、枉げず……ッ! 弱みを覗かせたシンシアへと叩きつける挑戦状……! 迷いも躊躇いもない即断即決の二の腕刺し!
顔色を一切窺うことなく要求を突っぱねる傲慢さ。これが廃人の頭。これが一文字様。
雇用する側はここが強い。辞退するならそれでいいと言わんばかりの、立場を背景にした強気な交渉。地位に物を言わせたふるい落としは圧迫面接のような理不尽さを醸し出す。
あっさんだってシンシアに辞められるのは都合が悪いはずだ。どうしてそこまで強気になれる。その結果が、あのダイナミック辞表心臓貫きだというのに。
……それでも、示さなければならない規範がある、ということか。
廃人。リアルとバーチャルを天秤にかけ、躊躇いなくバーチャルに重りを載せることができる剛の者。その末座に加わりたいのであれば示すべき覚悟がある。それをあっさんは問うているのだ。
何ということだ……はじめから、試されていたのはあっさんの器じゃない。シンシアの覚悟だったのだ。
「……ポーション」
ここで小休止。
言葉と意思が複雑に混じり合い、刃となって僕の身体を貫いていく。簡易式チキンレースってなんなんだ。深く考えるとその闇に呑まれそうになるので僕は思考を断ち切った。
体力が回復し、霞んでいた視界が晴れていく。まばゆい光を放つ太陽のような恒星だけが僕の正気を保証してくれる。そんな気がした。
「……週休一日、十四時間っ!」
最後通牒。鳩尾へねじ込むような一刺し。シンシアはそれ以上は譲らないという強靭な意思を見せ付けた。
ここが分水嶺。是か非か。再び霞んでいく視界の中で僕が見たのは、閉じていた瞳をゆっくりと開くあっさんの姿だった。
凪いだ湖面のような表情。引っ掴んだ短剣を僕の心臓に突き刺した。あっさんの手がブンとブレる。内臓をシッチャカメッチャカにされた僕は死んだ。あっさんめ、ラグスイッチはルールで禁止だというのに。
「よろしく頼む」
「改めてよろしくお願いします……リーダー」
廃人ギルドのトップと二番手の和解がここに成立した。両者の関係は一時はどうなることかと危ぶまれたものだが、どうにか落とし所を見つけたことで大事には至らなさそうである。死後の十秒で僕が見たのは、固い握手を交わし合う廃人二人の姿であった。
週休一日、十四時間労働。普通にブラックでは? むしろ今まではもっと酷かったってこと? やばいな……アットホーム過ぎるよ『先駆』。
僕はそんな感想を抱きながらリスポーンした。
勝者――シンシア?
▷
第三試合目。
「簡易式チキンレースはあまり得意では無いんだがな」
「あはっ。やる前から敗けた時の予防線を張るなんてダサいなぁ」
ノルマキさんvsシリア。交える刃を変えての再戦だ。
対戦前の盤外戦術的にはシリアが一歩リードしているといったところか。なんでもそつなくこなすイメージのあるノルマキさんにも苦手な分野はあるようだ。ふむ。僕は難しい顔をしているノルマキさんに問い掛けた。
「意外ですね。ダメージ計算とか得意そうなイメージだったんですけど」
軽い世間話のつもりだったのだが、ノルマキさんがスッと瞳から光を消して虚空を見つめた。えぇ……こんなところにも地雷が? さすがにそれは予想外だって……。
「私はゲームでまで頭を使いたくないんだ。感覚派とでも言えばいいのかね。ダメージ計算表を見たときに蕁麻疹が出たんだ」
「の、ノルマキさんの手番ですよ……」
「好きな曲をアラームにした時みたいなものと言えばいいのかな。好悪が反転するんだ。刷り込みの一種だろうな。プラス値の高い短剣を引ける確率と部位別ダメージなどの詳細を頭で計算していると手が震えてくるんだ。私は一体何をしているのだろう、と」
「ノルマキさん! 持ち時間は三十秒ですよ!」
「チェェェックメェェェイッッ!!」
ノルマキさんは初手両肺二本刺しという暴挙に打って出た。対戦相手に初手ポーションを迫る禁じ手じゃないか。僕は脇に控えている『ケーサツ』所属の審判の顔をチラと見た。無言。セーフなのか……随分緩いな。
「えぇ? これ許されるのぉ? ずるいなぁー」
不満タラタラなシリアがポーションを僕の顔に振りかけながら口を尖らせた。
公の場で行われる簡易式チキンレースは審判の匙加減を読むことも要求される。どこまでがセーフでどこからがアウトなのかを手探りで確かめる必要があるのだ。
一発レッドも有り得る両肺刺しに対してイエローすら無し……ショチョーさんの指示か? エンタメ側に寄せてきた、と。正気とは思えない。放送事故になるぞ。
「それが許されるならぁ……えいっ!」
シリアは僕の下腹部に短剣を突き刺した。尊厳破壊……ッ! 重篤なマナー違反だ。さすがにこれは一発レッドだろう。僕は審判の顔を仰ぎ見た。沈黙。
バーリトゥード!? 配信しているんじゃないのか!?
クソっ! 『ケーサツ』はもうダメだ! まともな指示を下せる人間が残っていない! こんなのただの放送事故じゃないか! 今更か。僕は受け入れた。
「シリアくぅんよぉ……それはさすがに社会では認められないぜェ……」
「釘バットで人の頭を楽しそうにカチ割るノルちゃんさんが言えたことじゃないよね?」
「バイオレンスとセクシャルには壁があんだよ。暴力は友情だの努力だので希釈すれば王道ストーリーにだってなれるが、セクシャルだけはどうしようもねぇ枷がついて回るんだ」
「あはっ! 説得力が違うなぁー! ノルちゃんさんがハラスメントに敏感になって、ゲームの中でまで人に君付けするようになったって話、私大好き」
「……。エナドリ」
ポーションです。ノルマキさん。
元気になるクスリを僕の顔に振りかけたノルマキさんが神妙な顔で短剣をつまむ。盤外戦ではシリアに軍配が上がる、か。人の悪感情が好物のシリアにはノルマキさんの闇は効きが悪い。
精神状態の差。これがどれほど刺し筋に影響するのか……。
「……シュレッダー」
二の腕への消極的な一手。テンションが下がりかけている。まずいな……頻繁に闇を解放していた影響なのか、いつもの胸がしくしく痛むような勢いがない。
蓄積型の弱点だ。まずは溜めありき。前提条件を満たせない時、ノルマキさんの強さは極端に低下する。
「えいっ!」
対するシリアは淀みない。下腹部二連。マナーは踏み躙るものという独特な価値観を些かの躊躇いなく実行に移す狂人だ。弱みを見せたらとことんまで付け上がる。
審判は……動かず。なんのための審判だよ。ルールはどうした。
「…………むぅ」
「判断が遅いなぁー。そんなんじゃ左遷されちゃうよ?」
ここぞとばかりにシリアが揺さぶりをかける。非常に粘着質なやり方の背景には、ノルマキさんに手も足も出ずにボコられた恨みがあるのだろう。江戸の敵を長崎で討つようなやり方。サイコパスの名をほしいままにするシリアならではの刺し筋だ。
「……USB」
まるで精密機器を扱うように優しい足への一刺し。僕は死んだ。
「労災!?」
人災でしょ。
これ保険降ります? あ、無理? 無理だった。
勝者――シリア。
▷
第四試合目。
酷く濁った目をした二人が僕のことを見下ろしていた。まな板の上の鯉をどう捌くか思案するような目。
ユーリがなんの躊躇いもなく逆手に持った短剣を腹部にドスと突き刺した。
サスペンスのワンシーンのような光景。音楽担当がぺぺぺぺッ、ぺぺぺッ、ペーペー! と効果音を鳴らした。それっぽいのやめろ。もう悪ふざけじゃないか。
「フンッ!」
今度は鼻息荒くシラギクが短剣を突き立てる。カコーンという効果音。どういう表現なんだ。
「……!」
ユーリが鍵穴をこじ開けるかのように脇腹へと刺した短剣をグリッと捻った。殺意を隠そうともしない一撃。僕は抗議の声を上げた。
「ちょっと、刺した短剣を捻るのはルールで禁止だから! ルールはまもッ」
黙れと言わんばかりに反対側の脇腹に短剣が刺しこまれる。そしてグリッと一捻り。シラギクめ。こいつもルールを守る気がないのかっ!
「なにしてんの二人共? これそういう競技じゃッ」
「ポーション」
ユーリがドバドバと僕の顔にポーションをかけた。瓶を放り投げ、ドスと腹に短剣を突き立てる。
「ポーション」
シラギクが宣言するや僕の顔にポーションをかけた。ユーリと同じように腹に短剣を突き立てる。駆け引きもクソもあったもんじゃない。
「ポーション」
ユーリが自前のポーションを取り出してドバドバとかける。これは……上級? おいおい何してんのさ。僕は声を荒げた。
「二度漬けはルールで禁止だから! ほんとシャレになってないッ!?」
ユーリが短剣を心臓に突き立てる。こいつ……そのための上級かっ! もはや勝負の体を成していないじゃないか。
「審判! 審判!? ルール違反でしょこれ! なんで黙ってっぷッ」
シラギクが抗議の声を上げている僕の顔にポーションを振りかける。これも上級……こいつら、正気じゃないっ!
「やめッ、ちょ、シャレになってないから! ケーキのロウソクじゃないんだぞっ! なんで誰も何も言わないの? 頭おかしっぷッ」
「少しはッ! 反省ッ! しなさい!」
「……あなたは、もう、許さない……!」
「やめっ、審判! 審判ー! あっ死ぬ」
僕はウニみたいになって死んだ。
勝者? ユーリ。
▷
自宅を爆破され、リスポーン地点を噴水広場に固定された僕はその後も簀巻きにされ続けた。
簡易式チキンレースってなんなんだ。人に短剣を突き立てる蛮行が娯楽として消化されるなんてどうかしている。しかし誰も異を唱えることは無い。狂った暗黙の了解がほとんどのプレイヤーに浸透しているという事実に肝が凍りつく。
その後もフレイヤたんvsドブロクさんというシンシア被害者の会の両名が刺しあったり、ショチョーさんvsビストロさんというむさ苦しい二人が熱い駆け引きを展開したりした。
僕以外でやれという主張はレギュレーションの途中変更は認められないという一言で突っぱねられた。まぁレギュレーションは大事だよね。僕は納得した。
宴もたけなわ。総勢二十組ほどが刺し終わった時、野太い雄叫びとともにレッドネームプレイヤー達が突如として乱入してきた。
滅多にプレイヤーキルをしない連中が僕を刺し殺してレッドネームになったので興奮しているのだろう。何としてでもレベルを下げてやろうと意気込んでいる。あれだけやったのにまだ暴れたりないのかあの猿たちは。
違法賭博会場はその様相を一気に戦場へと変えた。放送禁止用語がふんだんに盛り込まれた怒声と罵声が飛び交い、刃が鳴らす音を狂った哄笑が塗り潰す。ひどい光景だ。これだからこのゲームのプレイヤーは頭がおかしいと言われるんだ。
簀巻きにされたままの僕はどうすることも出来ずにボケっと狂態を見つめていた。もう終わりだよこのゲーム。
諦観の思いで寝っ転がっていたところ、二本の投げナイフがトスッと僕の身体に突き刺さった。僕を縛っていた紐がしゅるしゅると解けていく。
……この正確さ、みずっちか。僕を解放するなんてなんのつもりなんだか。まあいい。
僕はすっくと立ち上がった。インベントリから大型爆弾竜虎を取り出す。
「っ!? おい、逃げろ!」
「退避! 退避ーッ!」
「ヤっちまえライカン!」
「はっはぁ! 祭りはこうでなきゃなァ!」
「アイツ全く反省してねぇぞ!」
「癇癪玉ァーッ!!」
頭のおかしいプレイヤー達が大声で叫びながら散っていく。モラルもマナーも現実世界に置いてきた無法者共に誅を下せるのは僕しかいない。
爛れた文化も、狂った思想も、全部、全部僕が光に変えてやる。
僕は――僕が正義だ。
僕は高らかに指を打ち鳴らした。




