悲劇的
血の花火大会事件。非常に物騒な響きのそれは、僕とシリアと『花園』メンバーで実行した民度浄化作戦の通称らしい。まったく、言いたい放題言ってくれるものだと辟易するね。
事件の被害は運営の最終手段であるロールバックにより全てが無かったことになったものの、関わったプレイヤーの記憶まで消せたわけではない。『花園』連中のように、割り切るという心の整理が出来ないプレイヤーは存外に多く、結果として見当違いの恨みを募らせたプレイヤーが凶行に走ることとなった。
不名誉な名称の事件の首謀者という濡れ衣を着させられた僕は、レッドプレイヤー主導のもと口にするのも憚られるような酷い目にあわされた。
挨拶代わりの闇討ちに始まり、長時間に及ぶ組織的なリスキルの基本セット。自宅爆破。はりつけからの火刑。簀巻き崖落とし。簀巻き海流し。草原に簀巻き放置。簀巻き市中引き回しの刑などなど、倫理団体の方々が聞いたらその場で憤死しそうな所業のフルコースを味わわされたのだ。
なんかもう凄いよね。凄い。人ってのはここまで理性のタガを外せるものなのかと感心しきりだ。肥溜めなんて揶揄されるのも納得の民度である。
これはゲームだ。現実だったら許されない殺人行為はプレイヤーキルとしてシステムに組み込まれ、死は一過性の現象の一つに成り下がる。
リアルに波及するような犯罪を犯さない限り、あらゆる行動の制限は取り払われる世界だ。それは自由度などと持て囃され、今やゲームのクオリティを測る上での指標の一つとなる。
プレイヤーはどこまでも自由だ。
所詮ゲームだし、という感覚が根底にあるから、現実では味わえないスリルや欲望を味わうために悪役を演じるのは分かる。僕はけしてそういった行為に手を染めるつもりはないが、一応は理解できる。
でもさ……最先端の技術が惜しみなく注ぎ込まれた、まるで現実のようなリアリティの世界で、やることが負の歴史の再現ってどうなの? そこまでいくと……ちょっと理解できない。
人がより善くあろうと築いてきた歴史に唾を吐き、あまつさえ中指を立てる行為が横行しているという事実に肝が凍りつく。これは悪ふざけの一言で済ませられる出来事じゃない。義務教育の完全敗北である。
最も理解できないのは、それらの事故映像が収められた動画が好評を博していることだ。由々しき事態である。
検閲に引っ掛かった動画は削除されたが、モザイクを掛けたり音声を一部ぼかしたりといった対策を取った上で再投稿され続けている。そしてわりと再生されている。
もう終わってるよこのゲーム。これだからこのゲームのプレイヤーは頭がおかしいと言われるんだ。
そんなんだから、花火大会事件で増えた新規プレイヤーはあっという間に姿を消した。
SNS映えを狙った連中が意気揚々と乗り込んできた結果、一時期は同時接続者数が三倍程に増えたものの、二週間が経過した今は通常営業に戻っている。
流行に乗ろうとしたミーハー集団は、僕が簀巻きにされてロープをくくりつけられ、【踏み込み】を使用したプレイヤーに引き回される地獄絵図を見て何を思ったのか。今となっては知る由もない。
このゲームは自浄作用ならぬ自濁作用とでも言うべき力が働いている。何かのきっかけで純粋無垢なプレイヤーが大量に入ってくると、強烈なアレルギー反応を引き起こしたかのように害悪プレイヤーが暴れまわるのだ。
ホシノ騒動のときに面白がってゲームに参入した新規プレイヤーは、イナゴのように殺到した底辺配信者たちの目覚ましい活躍によって駆逐された。
メアリス騒動のときに期待に胸を膨らませてゲームに参入した新規プレイヤーは、メアリスにボコボコにされたプレイヤーの憂さ晴らしの的になって駆逐された。
そして今回は処刑フルコースである。映えと呼ばれるネタ探しに参入した新規プレイヤーは、まかり間違っても個人アカウントには載せられないような光景を目の当たりにして消えていった。賢明な判断だと思う。
働きアリの法則という言葉がある。アリの集団の役割はそれぞれが一定の割合を保持しており、働き者ばかりや怠け者ばかりにはならないという法則だ。
NGOにもそういったものがあるのだろう。害悪プレイヤーの割合が八割付近を切ったら強烈な自濁作用が働くため、新規はごく少数しか残らない。残ったとしても、その多くはじきに害悪プレイヤーに変わる。
そうしてNGOは尖った生態系を維持しているのだ。まともな者から淘汰されるという、どこに出しても恥ずかしい文化の完成である。もうこのゲームの余命僅かなのでは?
やはりこのゲームには正義が必要だ。悪に屈さない強固な正義。それは僕以外には為せないだろう。今回の件で強く確信した。
仲間だった僕を裏切って傍観していた『花園』。
新規プレイヤーにかまけてレッドネーム達の凶行を咎めなかった『先駆』。
助けてほしいなら特殊爆薬を寄越せと強請ってきた『検証勢』。
自業自得などと訳の分からない理屈で救援に応じなかった『食物連鎖』。
揃いも揃ってみんな害悪だ。参ったな、滅ぼすべき悪が多すぎる。まさに肥溜め。金太郎飴のように、どこで切ってもクソが顔を覗かせる。なかなか無いぞこんな魔境。早いところ浄化しなければ。
差し当たっては戦力補充だ。爆破された自宅に代わる新たな自宅を確保し、日課の爆弾作りに精を出す。
以前の自宅はそれなりに愛着が湧いて気に入っていたのだが、建造物を直すには素材と金が必要になる。リスキルされ続けた僕の手持ちは貫禄のゼロ。薬草すら買えないのに、家の再建など夢のまた夢だ。
爆薬と容れものは事前に大量購入しておいたので問題はない。戦力を整え次第、レッドネーム共の巣窟に殴り込みをかけよう。今度こそ引退まで追い込んでやる。その過程でレベルが上がれば万々歳だ。
そう。今の僕には明確な目標がある。
レベル13。【一世一代】の獲得。
非常に強力なスキルだ。城を爆破するため中型爆弾に使用したが、まさかあれ程の威力になるとは思わなかった。威力特化の大型爆弾を僅かながら凌ぐだろうか。その強化幅は尋常ではない。
ということは、だ。【一世一代】を威力特化のカスタムを施した大型爆弾に使用したらどうなるか。
悪が滅びることになる。間違いない。
強化した大型爆弾を悪党どもの根城付近で爆発させたら一網打尽にできるだろう。高レベルのレッドネームプレイヤーを何十人とまとめて吹き飛ばせば、さらなる高みを目指せるかもしれない。【一世一代】スキルには可能性がこれでもかと詰まっているのだ。
『検証勢』のトチ狂った実験により、プレイヤーキルをしたときの獲得経験値はあらかた調べ上げられている。
レベル20のプレイヤーを百人キルすれば、理論上レベル19から20になれる。
レベルが上がりたてのプレイヤーをキルするよりも、もうすぐレベルが上がりそうな程に経験値を溜め込んだプレイヤーをキルした方が、キル対象が同じレベルでも得られる経験値は多い。
同じプレイヤーをキルし続けても経験値は得られない。最低48時間ほど間を置く必要がある。
などなど、尊い犠牲を払って得た情報がwikiで公開されていた。人道とか無いのかな。
ともあれ、貴重な情報であることには変わりない。
僕がレベル12から13に上がるまでにキルしたプレイヤーは、噴水広場前にいた猛者のレッドネーム数十人、有象無象の『ケーサツ』連合数十人、そして廃人が十人程度だ。あとはホシノが一匹か。ホシノはいいか。どうせレベル1だろうし。
非常にざっくりとした計算になるが、レベル15から20のプレイヤーを四、五十人近くキルすればレベルが上がるのではないかと踏んでいる。
険しい道だ。だが、だからこそ歩む価値がある。その道の果てに僕の目指す正義があるのだ。
害悪プレイヤー撃退のために消費してしまった爆弾は多い。まずは戦力補充。然る後に駆逐作業といこう。
新たな自宅で心機一転。せっせと爆弾を作っていると当然の権利のように玄関の鍵がピッキングされ、濃紺色の制服を着た男が三人ズカズカと上がり込んできた。
彼らは挨拶の一つもなく我が家に踏み入ると、流れるような手際でグレーの壁紙をペタペタと貼り付けた。リフォームを依頼した覚えは無いというのにおかしな話だ。
窓から採り入れた光が映える白い壁紙は、陰鬱としたグレーに挿げ替えられた。窓も塞がれたので室内は薄暗く、作業をするには適さない空間に早変わり。何ということをしてくれたのだろう。
申し訳程度の電気スタンドがスッと差し出される。
僕は立ち上がって部屋の電気のスイッチをパチっと押した。室内が明るくなって満足していると、男の一人がすかさずスイッチを押して電気を消した。なんなのさ。
家主の許可を得ることなく椅子に腰を下ろしたいかつい顔のおっさんがゆるゆると首を横に降る。
「無粋な真似すんなや」
「不法侵入しないでよ」
何が面白いのか、ショチョーさんはニッと凶悪な笑みを浮かべ、青と白の縦縞模様のどんぶりをテーブルに置いた。どこでも取り調べ室セットだ。
男二人が脇に控え、ショチョーさんが対面に座る恒例のフォーメーション。準備が整ったらしく、いつもの嘘くさい神妙な顔を浮かべたショチョーさんが口を開いた。
「ライカン。お前にはテロ等準備罪の容疑がかかってる」
全くもって意味の分からない話だった。『ケーサツ』連中はいつもこうだ。憶測と偏見で悪意ある邪推を並べ立て罪なき人に突っかかる。僕はやれやれとかぶりを振った。
「何を根拠にそんなこと言ってるのかわからないけどさ、僕がそんなことするわけないでしょ」
「すっとぼけてんじゃねェ! 既にネタは上がッてんだよ!」
お約束の流れでキレ散らかしたショチョーさんは、これまたお約束の電気スタンド攻撃を敢行する。恫喝している時のショチョーさんの表情は非常に楽しそうだ。そろそろ本職の方から苦情はいるんじゃないのこれ。
「この光景、クレームとか入らないの?」
「安心しろ。わりと好評だ」
どう安心しろというのか。視聴者層が終わってるとしか言えない。今更か。
僕は色々と諦めて無視することにした。日課の爆弾作りに戻ったところ、控えていた男の一人に速やかに容れものを取り上げられた。さっきからしつこいなあいつ。顔は覚えたぞ。
「血の花火大会事件。聞いたことくらいはあるんじゃないか?」
「あるけど、それがどうしたのさ」
「ならば話が早い。街を灰に帰したあの事件で使われたのは、大量の大型爆弾である事は既に調べがついている。そんなモノを準備できる人物は限られる……いや、該当者は一人に絞られた。そういうことだ、ライカン」
ガバ捜査にもほどがある。
血の花火……いや、民度浄化作戦のそもそもの発端は、暴れまわったレッドプレイヤーとそれに付き合ってドンパチやっていた『ケーサツ』連合のせいなのだ。僕はこのゲームをあるべき姿に戻しただけのこと。
だというのに、すべての責任が僕にあると言いたげな輩が多すぎる。テロだって? 馬鹿なことを言う。
今すぐにでも抗議の声を上げたいが、そうして話を聞き出して最終的に僕を無理矢理悪者に仕立て上げるのが彼らのやり口だ。付き合う義理は無い。
「黙秘権を行使しても?」
ニッと子供が見たら泣きそうな笑顔を浮かべたショチョーさんがスッとどんぶりを差し出してきた。いつもの流れだ。
また草をモシャる事故映像をお茶の間に届けることになるのだろうか。ショチョーさんがアゴで促してきたので諦観の境地でフタを取る。
カツ丼だった。ホカホカとした湯気と、眩いばかりのきつね色のカツ。ぷるぷるとしたタマゴが食欲をそそる。どうしたのだろう、随分とまともな食事だ。
出すもの間違えてない? そう思ってショチョーさんとアイコンタクトを取ったところ小さく頷かれた。合っているらしい。なんか逆に拍子抜けだ。
このゲームは色んな団体に配慮して過度な味覚のフィードバックを搭載していない。どんなに手間暇をかけた料理でも、ちょっと塩っぽいな程度にしか感じないのだ。
だからといって料理の価値が落ちるわけではない。むしろ、モシャるだけで料理と同程度の効果を発揮する薬草のほうが異常なのだ。
食は見て楽しめるという側面もある。その点、このカツ丼はなかなかにいい味を出している。
差し出されたのなら頂こう。そう思ったところ、ある事実に気付いた。まさか。まさかね?
「箸が無いんですけど」
「いいからいいから」
何も良くないよ。
え、正気? 手で食べさせる気? 事故映像とか通り越してそれもうイジメじゃんね。
まあ差し出されたら食べるけど。僕はカツをむんずと引っ掴んでモシャモシャと食べた。うん、ちょっと塩っぽいかな。
手でタマゴを切り分け、汁のかかったご飯と一緒にかっ食らう。うん、ちょっと塩っぽいかな。
ショチョーさんがなにやら難しい顔をしている。予想していた絵面とは違うのかもしれない。
「やめる?」
「……いや、続行で」
僕は続行した。
米のひと粒も残さず食べ切り、どんぶりを返して手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
食事を終えた途端、しかめっ面を作ったショチョーさんが何事もなかったかのように口を開いた。今の一連の流れいる?
「あの事件でお前は大多数の人間の恨みを買った。それはこの二週間でお前自身の身を以て知っただろう?」
「逆恨みだよ。とっくに無かったことになったのに見苦しいと思わない? それに、僕にかまけている暇があるなら悪質なレッドネームを取り締まりなよ」
「舐めるなよライカン。俺らがあいつらに勝てるわけねぇだろうが」
役に立たないなぁ。僕は嘆息した。
自警団ロールをしている『ケーサツ』ではあるが、マフィアみたいな連中である高レベルのレッドネーム集団には手を出せないでいる。地力が違いすぎて敵わないのだ。故にホシノや僕といったひ弱な人間をターゲットにする。
処刑フルコースの時もそうだった。頭のおかしい連中の蛮行を咎めるどころか、喜々として配信を始める始末。『ケーサツ』も立派な害悪プレイヤー集団なのである。まともなのは僕しかいないのだろうか。
「それにな、その『無かったことになった』ってのが問題なんだ。お前はまだ街を吹き飛ばすほどの爆弾を大量に抱えてるはず。つまり、起こそうと思えばいつでもテロを起こせるってことになる。違うか?」
「テロじゃなくて民度の浄化だよ。僕は新規プレイヤーと復帰勢が虐げられている姿を見て奮起したんだ。僕は」
「てめぇのイカれた思想なんざ聞いてねェんだよ! いいから爆弾を全て寄越せ! その力は個人が持つには過ぎた力だ。我々が管理する。それで全て丸く収まるんだ。早くしろッ!」
ダンとテーブルをブッ叩いたショチョーさんがまくし立てる。酷い逆ギレもあったものだ。もっともらしい言い分で誤魔化しているが……その目的は一つだろう。
「そんなに花火をネタにしたいの?」
あの事件から『ケーサツ』連中は事あるごとに僕から花火弾を取り上げようとしてくる。SNSを騒がせたネタを独占したいのだろう。浅ましい考えだ。
もちろん僕はそんなふざけた要求は袖にして取り合わない。僕は彼らにネタを提供するために今まで頑張ってきたわけではないのである。
ショチョーさんが顔を歪めた。両手のひらでテーブルを引っ叩き、立ち上がって吠える。
「当たり前だろうがッ! 配信のネタは鮮度が命なんだよッ!」
「知らないよ」
僕はすげなくあしらった。毎度毎度バカバカしい。
フゥと大きく息を吐き出したショチョーさんが電気スタンドを引っ掴み、僕の頬にグリグリと押し付けながら顔を寄せてきた。
「なぁ分かるだろ? あの話題性は大きな武器になる。然るべき形で披露すればこのゲームも息を吹き返すかもしれねぇ。協力し合おうぜ? なァ?」
頭のてっぺんから足の先まで数字のことしか考えていないくせに、もっともらしい理由を考えるものである。
ほとほと呆れ果てていると、ショチョーさんの目がチカチカと赤く光った。二回か。僕はチカチカっと目を赤く光らせた。
渋面を作ったショチョーさんがチカチカチカと目を赤く光らせた。まぁ落とし所だよね。僕はチカと目を赤く光らせた。
僕らのやり取りはショチョーさんが持っている電気スタンドに遮られていて映っていない。さりげ無しの職人芸が光る。
僕は親指と中指を擦り合わせながら言った。
「そんなにネタにしたいなら……身を以て味わって見る?」
「ッ! やめろやめろ! おい! 二人とも安全圏まで退避だ! 早くしろ! 急げ!」
ショチョーさんの手慣れた指示が飛ぶ。控えていた二人は弾かれたように家から飛び出していった。いつ見ても手際がいい。
カメラ役がいなくなったので僕はインベントリから花火弾を取り出してゴトリとテーブルに置く。代金だと言わんばかりに麻の袋が三つ飛んできた。もちろん頂く。ホクホク顔の僕に声が掛けられた。
「色は?」
「青」
「よし」
手短に確認を済ませ、中空を見つめながらその時を待っているショチョーさん。何かが気に入らないのか、むむむと唸ってから言った。
「ここはロケーションが悪ぃな。見晴らしが良くねぇ。ポジション取りに苦戦してやがる」
「そんなこと考えながら自宅を選んでないからね」
「なぁ、前の自宅に戻ったらどうだ? あれだけ見晴らしがいいと映えるぞ?」
「建て直す素材がないんだよね。直しておいてくれたら移住するけど」
「考えておく。……お、いい屋根を見つけたな……そろそろだ…………やれ!」
合図に従い僕は指を打ち鳴らした。
点火一秒。輝く炎が華と咲く。
降り注ぐ陽光すら塗りつぶす鮮烈の青。心胆を震わせる心地よい衝撃が昼下がりの閑静な住宅に響き渡った。ショチョーさんはポリゴンとなって爆散した。
僕の所有物でない壁紙もポリゴンに変わった。ふと窓の外を見やると、燦々と降り注ぐ陽光と周辺住宅の残滓であるポリゴンが光の乱舞を踊っていた。非常に幻想的な光景だ。
『ケーサツ』の配信を開く。
リスポーンしたショチョーさんが衆目監視のなか例の二人と合流した。カメラを向けられ、いつものように一目でふざけていると分かる真面目くさった表情をして言う。
『当ギルドは……火薬類製造保安責任者と、火薬類取扱保安責任者の資格を保有している方を募集しております……』
鉄板の爆死ギャグだ。年季の入り方が違う。
人が処刑される映像を娯楽として楽しむ癖がある視聴者たちは、人が爆死する事故映像もイケるクチなのだろう。コメントの盛り上がりが尋常ではない。
こんな配信に投げ銭を行う人はどんな考えをしているのだろうか。深い闇を覗き込んだようで気が気じゃない。
けどまあ。
それが望まれているというなら協力するのも吝かではない。僕はドロップしたコインを拾い上げた。ギャランティーってやつだね。
最近は金が貯まることがなかったのでいい機会だ。このままショッピングと洒落込むとしよう。僕は締めくくりに入った配信画面を閉じつつ足取り軽く家を出た。