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ホンモノを当てろ! 一問一答リアル暴露ゲーム!

 僕の顔をしたクズ四人とホシノの顔をしたクズ四人が『ケーサツ』連中と連絡を取り合ってからおよそ五分。

 並々ならぬ手際の良さでいつもの特設会場を組み立てた彼らは僕とホシノを噴水広場へと拉致し、クソみたいな企画への参加を促した。本当に、どうでもいいことにだけは全力な連中である。


 舞台の上にはホシノの顔をしたプレイヤーが五人並んで座っていた。頭にはプレイヤーネームを物理的に隠すための大きなシルクハットが被せられている。席は体型が隠れる造りになっているので、パッと見では誰が本物なのか見分けがつかない。


 五人揃ってダルそうに肘をついているホシノを前に、マイクチェックを終えたショチョーさんが吠えた。


「第一回! ホンモノを当てろ! 一問一答リアル暴露ゲェェェムッ!!」


 僕とホシノにとって一ミリのメリットも存在しないクソ企画の説明が行われていく。


 声を出したら一発でホンモノかニセモノかバレてしまうため、回答者は絶対に声を発さないこと。

 回答者の五人は出されたお題に対してフリップで正直に回答すること。

 スタンプやジェスチャーなどで紛らわす行為はしないこと。

 そして全ての質問が終わったら投票タイム。のちシルクハットが外されて結果発表といった具合だ。なんかちょっと凝ってて面白そうなのやめろ。


 終始ムスッとした表情のホシノABCDE。ニセモノは誰がホンモノなのか分からなくするため仕草を寄せている。きっと回答もホシノが書きそうなところを狙ってくるだろう。妙に気合い入ってるなぁ。満足気に頷いたショチョーさんが司会を進行する。


「それでは早速第一問だァ! まずは小手調べといったところでしょうか。お題は『今の気持ちを簡潔に書いて下さい』だ! それでは皆さん記入をお願いします!」


 なるほど、内面の調査。リアル暴露なんて銘打ったのでクソのような質問が飛んでくるのかと思いきやそんなことはないようだ。

 ツラツラと羽根ペンを走らせる五人。その手には迷いがない。ここでホシノの考えに寄せようと思考して手を止めたらニセモノであることがバレる。即座に回答を練り上げなければならない。ふむ、深いな。


「シンプルな問いほど奥深い! 場合によってはこの質問でホンモノがバレてしまうかもしれませんねェ! さぁ、五人とも記入が終わったようなので早速見てみましょう! オープン!」


 A:あそこの観客の子カワイイなー

 B:俺を除いた世界中の男が滅べばいいのに

 C:お前ら馬鹿じゃねぇの?

 D:ケーサツ死ね

 E:てかCONNECTやってる?


 CかDだろこれ。


「んんこれは全く分からない回答だぁー! 誰がホンモノなのか分からないぞーッ!」


 いやCかDだよ。多分Dだ。A、B、Eはもうネタに走ってるじゃん。


「さぁ全く結果が分からなくなったところで第二問! 『女性のどこが一番好き?』です! これはどストレートな質問だァ! 悪質な出会い厨でありながら自らの癖をあまり公開してこなかったスターライト氏のフェチが今、暴かれようとしています! 五人とも書き終わったようですね? ではオープンッ!」


 A:太もも

 B:乳

 C:性格

 D:ケーサツ死ね

 E:足の小指


 Dじゃん。


「割れた! キレイに割れましたねーッ! 私個人の予想としては性欲に忠実なAとBが怪しいんじゃないかと睨んでおりますッ!」


 いやDだよこれ。間違いない。観客ももう薄々察してる顔してるし。


「まるで結果が分からなくなったところで次の問題だ! えー、『今まで付き合った女性の数』です! んんー、絶妙っ!」

「おい、誰が得すんだよこのクソみてぇな企画はよぉ!」

「あーっとDのかた声を出さないでください! 声出し厳禁です! お止めください! 止めろッ!」


 やっぱりDじゃないか。というかこれもう続ける意味ないでしょ。


 いつものように茶番と化した放送だが、一度始めた以上は最後までやり通す気らしい。完全にボイコットする姿勢に入ったD以外のメンバーがフリップを立てる。


 A:0

 B:0

 C:0

 E:0


 見解の一致が産んだ美しきフォーカードであった。


「あーっと、見事に0が並びました! これは一体誰がホンモノなのか分からなく、おい! 勝手に帽子取るなって! やめろDー!」


「ライカン! おいライカンどこに居る! 舞台袖で見てんだろ! こいつら全員消し飛ばせッ! っ、触んなクソども! クソどもーっ!」


 企画を台無しにしたDことスターライトことホシノは『ケーサツ』プレイヤーに羽交い締めにされて連行された。企画がポシャった瞬間である。

 やれやれと肩をすくめたスクーライト、ヌターライト、ホシノ、れんらくさきおしえてよが退出と同時、舞台袖の僕らにシルクハットを手渡してきた。万が一にもズレないようしっかりと被ってから舞台へと向かう。


 五人揃ったのを確認したショチョーさんが咳払いを一つ挟んで仕切り直す。


「えー、先程は一部出演者の暴走がありましたことを深くお詫びいたします。次回以降、出演者の選出は厳正な審査を重ねることをここに誓います。さァお次はコチラだぁ! リアルがまるで知れないこの男! ライカン選手です!」


 僕は適当な席についた。ヤラセ防止のため席は指定されていない。これで誰がホンモノの僕なのかを知るものは誰ひとりとして居なくなった。

 ……椅子の高さが調節されている。身長差を誤魔化すためか。それに隣には仕切りがあるため他のプレイヤーの挙動を把握できない。ふむ、意外と凝ってるな。


「えー、非常に申し上げにくいのですが、ライカン氏は数々の暴挙……いえ、実績がありますので、まずはそちらのグローブを着けていただけますでしょうか」


『ケーサツ』のモブが分厚いグローブを差し出してくる。なるほど、着火対策か。指を鳴らすというモーションを封印されたら着火は不発になる。着ぐるみの中は割とスペースに余裕があるので発動できるが、このグローブを装着していたらそれも叶うまい。よく考えるものである。


 素直に応じる。よほど念入りに着火を封じたいのか、留め具部分に南京錠が嵌められた。システム由来の物でなく、一から設計した物には【解錠】が効かない。なんでこんなに本気なんだよ。


「……よし。それじゃあ身の安全が確保されたところで第一問! 『今の気持ちを簡潔に書いて下さい』! これはさっきと同じ質問ですねぇ。何を考えているのかさっっぱり不明なこの男、どんな空前絶後の回答が来ても信じられるし、むしろ逆に信じられなさそうだ! 書き終わりましたね? それではオープン!」


 僕はフリップを立てた。


 A:どこでオチをつければいいの?

 B:こんなグローブで着火を封じたつもりなのかな

 C:ギャラは高く付くよ

 D:ショチョーさんっていつもいるけどニートなの?

 E:今日の経験値はお前らだ


 僕からは他の回答者のフリップは見れない。だが、なんとなく、ろくでもないことを記入しているんだろうなーという予想がつく。


「おおっとこれは意外! 割れましたねー。ネタ抜きで誰がホンモノなのか分かりません! 玉虫色の正義を掲げる男の異名は伊達じゃない! あと俺はニートじゃねぇ」


 割れた。割れた、か。なのに誰がホンモノか分からないと。観客たちも随分と渋い顔をしている。予想しあぐねているのか。僕のパチモノたちの回答が気になるところだ。


「まあまあ、まだ第一問なので当然といえば当然でしょう。むしろ結果が分かり切っていた前半がおかしかったんですよ、ええ。ではこの流れで第二問! 『今のリアルでの職業はなんですか?』だ! 気になる! 気になるぞっ! それでは回答をどうぞ!」


 ふざけた質問が飛んできたな。こんなの一択しかないだろ。僕はフリップを立てた。


 A:そういう質問には答えない

 B:特定に繋がる情報は落とさないよ

 C:悪ノリが過ぎる

 D:答える義理は無い

 E:暗殺者


「…………なるほど、なるほど。いやはや……一人を除いて、本気で分からなくなってきましたねコレは」


 ネタ枠は一人か? 他の回答者は本気で僕に寄せてきているのか。まぁどうでもいいか。他人の行動で回答を変える必要はない。向こうが勝手に寄せてくるならそれでいい。


「えー、あまり深い部分へと踏み入るような質問は成り立たなそうなのでお題は選びましょうか。お次はこれだ! 『座右の銘』! これは分かりやすそうですねぇ! それでは回答お願いします!」


 座右の銘。なんか面接みたいだな。

 まあ奇を(てら)う必要はないよね。僕はさっと羽根ペンを滑らせてフリップを立てた。


 A:日進月歩

 B:正義

 C:時は金なり

 D:義を見てせざるは勇無きなり

 E:正義


「おぉー……。なるほど。これは……どうなんだ?」


 何その反応。そんなにおかしな回答はしてないつもりだぞ。


「ちょっと予想以上に分からない、ですね。Bか? いやでもAとCも怪しいな……Dは狙いすぎ? むしろEか? Eなのか!?」


 なんでちょっと本気で楽しんでるんだ。


「お題はあと三つですね。ちょっと本気でお題を選びましょうか……。じゃあこれだ! 『今まで付き合った女性の数』! これなら特定に繋がらないでしょう! いいですよねライカン氏ィ! ちゃんと答えて下さいねェ!」


 前半とお題被ってんじゃん。他人の恋愛経験ってそんなに顔突っ込みたくなる話題なのかなぁ?

 まぁ別に構わないけどさ。僕はフリップを立てた。


 A:0

 B:0

 C:1

 D:1

 E:10から先は数えてない


「いや分かんねぇなコレ! どっちだ!? ABかCDか!? むしろEか!? おいおい予想以上に面白くなってきたなオイ!」


 何故かテンションが上がってきたショチョーさんにつられて会場の観客も盛り上がっている。各々が勝手気ままな言い分で誰がホンモノかを語っていた。票は割れている。


「さぁ次のお題も慎重に選んでいきましょう! どれにすっかな……これで行くか! 『最近見て感動した動画、もしくは配信』! ライカン氏は動画の共有モードを滅多に使いませんからねぇ……その趣味嗜好は未だ闇の中! この回答がぼやけた輪郭を照らす光になるのではないでしょうかッ! さあ回答オープンだぁ!」


 そんなことでいいのか。僕はフリップを立てた。


 A:ビルの爆破解体動画100連発

 B:マカオ国際花火コンテスト

 C:ARフルオーケストラ『交響曲第7番 イ長調』

 D:フルダイブVR機器が出来るまで

 E:ふわちゃんブレギャララスボスノーダメクリア配信


「いや絞れた! 一人だけこれは絶対に違うってのは分かった! だけど、おい、絶妙だなっ! お前らやればできるじゃねぇか! まーじでわっかんねェぞこれ!」


 特設会場は謎の盛り上がりを見せている。ただのネタ企画だと思って軽い気持ちで見ていたプレイヤーが真剣な顔になってるの笑う。ただあちこちからEは無いという声が上がっているあたり、択は四つまで絞られているらしい。


「この勢いのままラスト行くぞ! 最後はこれだ! 『人生で一番後悔していること』! 人となりを知るにはいいお題だ! 特定に繋がらない範囲でお答え下さい!」


 最後のお題はわりとあっさりした無難なものだった。

 後悔ねぇ。僕はフリップを立てた。


 A:ありすぎて一つに絞れない

 B:後悔なんてしたことない

 C:競馬の予想があと一つズレてれば万馬券だった

 D:このゲームを始めたこと

 E:救い無きこの世に産まれ落ちたこと


「割れたァっ! いやぁこれは分かんねぇ! E以外の誰がホンモノでも違和感ねぇな! お前ら答えは決めたか!? こん中にホンモノがいるぞ! それじゃあ勢いのままに投票開始! 札をあげろー!」


 投票権を有する百人のプレイヤーが勢いよく、また自信なさげに札を上げ、やっぱり止めたと言って札を取り替える。どうやらよほどの接戦だったらしい。


「集計中だから札を替えるのはやめろォ! そうだ、動くなお前ら……まだか? ヨシ、投票結果発表! ジャン!」


 A:16票

 B:35票

 C:29票

 D:18票

 E:2票


 ほう。これはこれは。僕は結果に目を瞠った。

 再キャラクリが実装されたらやることが他人への成りすましという連中が、意外にもまともな回答をしていたという事実に新鮮な驚きを覚える。票が割れるということは、そういうことなのだろう。


「Bが頭一つ抜けましたっ! 私の個人的な予想はAだったのですが、どうやらEというネタ枠を除いたら最下位だった様子ですねぇ。だがDとは僅差! 人気なのはBとC! さぁ俄然結果が楽しみになってきましたねぇ! それじゃ焦らすのもつまんねぇから早速行くか! CMなんて無ェ! スタッフはそれぞれの回答者のシルクハットを外してください! 一斉にだぞ! タイミングは計れよッ! さぁ誰がホンモノだったのか!? 結果発表ォォーー!!」


『ケーサツ』のモブが僕の目の前にやってきてシルクハットを外そうとする。ふむ。僕は足元に大型爆弾を展開した。

 生産職連合との合作。感圧起爆方式のそれは着火を必要としない。ただちょいとスイッチを押すだけで信管が作動して起爆する。複雑な機構のため爆薬の量は限られるが、イベント会場と噴水を吹き飛ばすこと程度なら造作もない。僕のニセモノは爆散した。会場も吹き飛んだ。ショチョーさんも死んだ。


 爆炎の中、悠々と歩いて位置をごまかす。これで特定は不可能。軽々に僕のリアルを暴こうとするからこうなるんだ。成りすましも、リアルを探るのも重大なマナー違反だよ。


 手を縛っていたグローブが爆炎に焼かれて塵と化す。自由になった手を握り、解く。窮屈な戒めがなくなって気分がいいね。

 僕はいきり立って四方から襲いかかってくるプレイヤー一同を前に、努めてにこやかな笑顔を浮かべながら指を鳴らして大型爆弾に着火した。

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Aだと思うけど、どうなんだろう?
Cかなぁって思ったけどここまでリアル情報を開示しなかったライカンが付き合った人の数とか正確に書くのかというと疑問だし、問1がなかったらBが1番近い気がするんだけど実際着火封じられてるしなぁ 答えが気に…
[一言] ワイの中のライカン像はAが答えだって言ってるわ
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