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イカれたパーティー

『検証勢』の依頼で足を踏み入れたのは草原を抜けた先にある鉱山だ。山の麓にある坑道から中に入れば、薄暗く狭い迷路のような道が続く。

 石が転がっていて不安定な足場、跳び回りにくい地形、固すぎて倒し難いモンスターと嫌われているスポットだ。


 しかしながらまともな鉱石が採れるエリアが現状ここしかないので、鉱石が欲しいプレイヤーは足繁く通うことになる。鉱山に入った時点で入り口にリスポーン地点が追加されるので、モンスターをガン無視したゾンビアタックで鉱石をかき集めるプレイヤーも多いとか。


 とはいえそれは一般的なプレイヤーの場合。廃人連中、それもトップスリーともなると厄介なモンスターもただの作業になるようだ。


 ニメートル半はあろうかという巨躯が、膝窩への執拗な打撃を受けて天井を仰ぐように倒れ込む。手が届くようになった顔面にすかさず廃人が殺到する。複数人が寄ってたかって顔面に鈍器を振り下ろす様は、猟奇的殺人の現場に居合わせているような気分になる。


 石人形。坑道で遭遇するモンスターだ。

 狭い道を塞ぐような巨躯は全身が石で出来ており、半端な剣で斬りつけようものなら即座に得物を(なまく)らへと変える。個体によって大きく造形が変わるため、戦う際の定石が定まらないのが厄介な点だ。


 一般的なゲームに出てくるストーンゴーレムとの類似点が多いが、こちらは開発の悪意がスパイスのように効いている。


 体表に散りばめられた爆薬は、攻撃しようものなら爆発反応装甲のように岩の破片を撒き散らす。主な攻撃方法である腕振りや足踏みの際も爆発を伴い、攻め入る隙を与えない。

 猛攻を掻い潜り爆薬が塗布されていない部位へ一撃を与えても、弱点部位である頭部以外はろくなダメージが通らない。直接頭部を狙おうにも、低い天井と狭い通路が自由な動きを阻害する。


 苦戦し潰走したプレイヤーや無視して走り抜けようとしたプレイヤーには、その背後へ向けて爆発を利用したロケットパンチを見舞う。被弾した場合、ボウリングのピンよろしくふっ飛ばされて壁のシミになること受け合いの威力を有している。どうすればプレイヤーが嫌がるかを徹底的に突き詰めた結果生まれたモンスターである。


 そんな悪意の塊である石人形が、何も為せぬままポリゴンとなって爆散した。極まった廃人にとってこの程度は何の障害にもならないらしい。


「低ポ2核1」


「中ポ1爆1」


「……」


 言葉少なにリザルト照会を終えた廃人が、後方で傍観者と洒落込んでいた僕にギュンと近づいてくる。


 今回のパーティーメンバーはこちらの三人。


 廃人ギルド『先駆』の創始者、あ。ランダム生成されたデフォルトキャラをそのまま使用した結果、黒髪黒目という特徴無しカスタムになった男だ。

 人間性を犠牲にすることで得たVR適正の高さで敵を蹂躙する殺戮マシーンだ。効率至上主義思考は他人から顰蹙(ひんしゅく)を買うことも多いが、確かな実力と多大なる成果で口さがない連中を黙らせる。やっかみから一文字様などと呼ばれる廃人だ。

 職業はオールラウンダー。


 廃人ギルド『先駆』の二番手、シンシア。金髪碧眼ポニーテールの女騎士風カスタムだ。

 外面と愛想の良さから廃人ギルドの広告塔や客寄せパンダの役割を務めているプレイヤーだが、その振りまく愛想が純度百パーセントの演技であることを知っている人間は少ない。

 何かと軋轢を生みやすい廃人ギルドと他プレイヤーの間に潤滑油として割り込むために作り上げたペルソナだ。美人で愛想のいい女キャラに仲裁に入られたら、人はあまり強気に出られないという心理を突いた手口である。根本にあるのはやはり効率。廃人の鑑だ。

 折衝役だからといって実力が無いというわけではない。愛想の良さだけで潜れるほど廃人ギルドの門は広くないのだ。あっさんに次ぐほどのVR適正の高さで戦場を跳び回る姿は、いくら出来の良いキャラクタークリエイトでも中和できないほど気持ち悪い挙動だ。

 職業はオールラウンダー。


 廃人ギルド『先駆』の三番手、フレイヤたん。水色髪ツインテールのロリキャラカスタムだ。

 日曜朝に放送されていた女児向けアニメのキャラクターを完璧にトレースした顔をしている。その再現度の評価は高く、まるで本物だという声が挙がっている。

 惜しむらくは、首から下が不健康な成人男性の肉体であるというところか。現代的なシュルレアリスムとでも言うべきキャラクリは、直視しているとじわじわと不安になってくる。野太い声がキャラに似合わないため、滅多なことでは声を発さない。

 ネタキャラ臭が漂うプレイヤーではあるが、ふくよかな肉体からは想像できないほどキレのある動きでモンスターを翻弄する。貢献度ではシンシアに劣るものの、単純な実力ならば二番手との呼び声が高い。

 職業はオールラウンダー。


 お三方とも職業剣士は当然のようにカンストしており、今は槌使いという職に就いている。武器に掛かる倍率は剣士に及ばないものの、鉱山で戦うことになる敵は総じて硬く、刃物よりも金属塊でぶっ叩くほうがよく効くらしい。

 厄介な石人形を一分少々でポリゴンに変えたあっさんが言う。


「進むぞ」


 この淡白さである。

 厄介なモンスターという評価は世間一般のものであり、廃人にとっては路傍の石を蹴飛ばす程度の認識なのだろう。空恐ろしい話だ。僕は廃人達の力に恐れ慄きながらシンシアの背におぶさった。


「……ライカン、自分で走る気は無いのか?」


「無茶言わないでよ。あんな動きに着いて行けるわけないじゃん」


 シンシアが抗議の声を上げるが、僕だって仕方なくおぶさっているのだ。


 あっさんは人に配慮するという気概が無いので、乗るとしばらく動けなくなるような挙動をするのでパス。

 フレイヤたんはしがみついても少々不安定で振り落とされそうになるのでパス。

 消去法的にシンシアにおぶさるしか無いのだ。振り落とされないようにしっかりとしがみつく。


「……動き辛いんだが」


「あっさんとフレイヤたん先に行っちゃったよ。ほら、効率効率」


 僕が鎧をぺちぺちと叩いて急かすと、シンシアは大きなため息を吐き出してギュンと坑道を駆け抜けた。


 ▷


 僕たちが目指すのは鉱山の最下層と呼ばれる場所だ。ある程度の広さがある空間に加えて、今回の狩りの目標である岩玉と呼ばれるモンスターの出現率が高い。

 坑道でも湧くらしいが、狭い空間だと討伐難易度が跳ね上がるそうな。今回はダメージソースがろくに動けない僕依存なのでなおさら万全を期そうというわけだ。


 駆け抜けることしばし、立ち止まっているあっさんとフレイヤたんに合流した。行く手を石人形が塞いでいる。体慣らしがてら経験値稼ぎしようという流れだろう。


「右膝。必中一受け二三飛ばし」


「ケー」


「……」


 あっさんが指示を出し、二人が応える。フレイヤたんは指で丸を作っているので異論は無いということなのだろう。


 簡略化された意思疎通を終えた瞬間、爆ぜるような勢いであっさんが飛び出す。石人形が迎撃に移る前に、大きく振りかぶった槌を勢いそのままに右膝へと打ち付ける。一振りに対し、衝突音が複数回響く。

 ラグスイッチ。あっさんにのみ扱える謎の技術がもたらす恩恵は、単純なダメージ増と面制圧、そして強力なヘイト誘引だ。


 石人形の右脚による踏みつけを三角飛びで躱したあっさんがすれ違いざまに頭に一撃を加え、天井付近まで跳び上がった。あっさんの位置取りは攻撃の誘発を狙っていたのだろう。腕による振り払いを確認した瞬間にフレイヤたんが動く。


【踏み込み】で強化された脚力の使い方は応用が効く。片足のみで体を捻るように跳んだフレイヤたんが、コマのように回転しながら遠心力を味方につけた強力な一打を右膝に見舞う。ガインと不吉な音を上げた膝から石の破片が散り、石人形の体が僅かに傾ぐ。


 フレイヤたんへと移りかけたヘイトを、あっさんが顔面に一打を加えることで強引に引き剥がす。ここでシンシアが天井付近まで跳び上がった。次の手への布石だろう。


 HP75%を割った石人形が咆哮を上げた。必中攻撃だ。雑なモーションから繰り出される不可避の一撃があっさんを襲う。いかな廃人といえど必中攻撃からは逃れることは出来ない。しかし、その後のケアは抜かりない。


 インベントリからポーションを取り出したフレイヤたんが、ノールックでポーションをあっさんの方へ放り投げる。【空間跳躍】で体制を整えたあっさんが着地ついでにポーションを踏み砕き体力を回復させた後、間髪入れずに突っ込んだ。掛け声すら不要のよどみない連携はもはや芸術性を帯びる。


 シンシアが天井を蹴飛ばし、重力を味方につけた剛撃を右膝に叩きつけた。バキリと致命的な音を立てた膝にはクモの巣状の罅が走り、上体を支えきれずバランスを崩した石人形の後頭部にあっさんのダメ押しの一打が入った。


 どうとうつ伏せに倒れた石人形の頭に廃人共はまっしぐら。鈍器を振り上げて叩きつける。振り上げて叩きつける。

 こうなってしまえばもはや生存の目はない。あわれ石人形は再起の機会を得られぬままハメ殺されてポリゴンとなって爆散した。ピラニアのような狩りだ。情け容赦が微塵も感じられない。


「低ポ1」


「低ポ1」


「……」


 どうやら今回のリザルトはあまり奮わなかったらしい。モンスターを討伐するとお金とポーションなどのアイテム、各種素材が手に入るが、確率にわりと偏りがあるため赤字になることも珍しくない。

 討伐が面倒な石人形を相手取り、ゴミ報酬を引いても赤字にならないのは流石の廃人といったところか。


 ギュンと接近してきたあっさんが、戦闘後の余韻や興奮を感じさせない能面のようなツラで言う。


「進むぞ」


 この男は、なんかもうそういうロボットなのかと思ってしまうね。

 返答を待たずして駆けていったあっさんとフレイヤたんを追うために、僕はシンシアの背に再びおぶさった。

 ふと気になったので、ちょっと尋ねてみることにした。


「あっさんってさ、もしかしてAIだったりしない?」


「馬鹿なことを言うな。……と言いたいが、たまに私も疑いたくなる時がある。寝ながら狩りを出来るようになれと言われたときはちょっとギルド辞めようか悩んだ」


「ごめん、面白すぎでしょ」


「当事者としては笑い事じゃないんだけどな……」


 どうやら廃人ギルドも一枚岩ではないようだ。心なしか乱暴になったシンシアの走りは溜まった鬱憤を晴らすかのようだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 寝ながらゲームできるって効率厨の鑑だな
[一言] あさんは鳥みたいに脳を半分だけ休ませて狩りができるとかそういう超存在だった?
[一言] あは寝ながら戦えるの!
感想一覧
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