片棒担いで射出せよ
ヨミさんの後を付いて行くこと暫し。『検証勢』の根城に辿り着いた。
屋内では白衣をまとったプレイヤー達による奇行、もとい検証作業が行われている。
よくわからない金属によくわからない液体をかけている者。
複数人でよくわからない演劇をしている者。
よくわからない食材でよくわからない料理を作っている者。
剣によくわからないものをゴテゴテと装飾している者。
総合的に見てよくわからない。新興の怪しい集団と言われたら信じてしまいそうな光景である。
「室長。A851から854、ナシです」
「C775ナシです」
「D661から662ナシです」
「ご苦労。引き続き作業にあたってくれ」
機能解放制度。このゲームがクソと呼ばれる大きな要因の一つだ。
運営は『プレイヤーが世界を創る』というコンセプトを推しに推している。そのコンセプトは、プレイヤーの行動によって新たな機能が追加されるという形でこのゲームに組み込まれている。
面白そうなコンセプトに見えてその実、プレイヤーにとっては不便を強いられるだけなのですこぶる不評だ。
最先端の技術を擁しているNGOであるが、この傍迷惑な機能のせいで凡百のゲーム以下という評価を下されている。新要素発見のカタルシスよりも、不便を被るストレスが上回っているのだ。さもありなんと言うほかない。
大勢が見限ったゲームであるが、諸々の理由から未だに残っているプレイヤーもそれなりにいる。
現実と遜色ないリアリティの中、剣を振り回してモンスターを討伐するのが快感だから。
掲示板で運営を叩くのが日課になっているから。
アイテム製作の幅の広さが桁違いだから。
大半の糞要素に目を瞑り、臭い立つ腐臭を嗅がないよう鼻を摘めば良い所は転がっているのだ。かくいう僕も爆発の音や光に魅了されたクチだ。
残っているプレイヤーの中でも、『検証勢』はとりわけこのゲームに希望を見出している集団だ。隠されている全ての要素が解放された時、このゲームは他の追随を許さない神ゲーになると信じて疑っていない。
彼らはそんな危うい一縷の望みに賭けて、傍から見れば奇行としか表現できない行動を繰り返す。極稀に成果を残すので、一概に無駄とは言えないのがこのゲームのタチが悪い所だ。
『検証勢』の考えに共感し、支持するプレイヤーはそれなりにいる。ゲーム要素がトチ狂っているだけで、もともと土台は素晴らしいのだ。希望を見出してしまうのも仕方のない事だろう。
なんなら今から開発の首を挿げ替えるだけで神ゲーになると言われているが、機密の漏洩を危惧しているのか人員が変更されたという話は聞かない。まこと遺憾な話である。
『検証勢』によるNGO神ゲー化計画の首尾はどうなっているのか。僕はよくわからない金属に液体をかけ続けているプレイヤーを見てヨミさんに尋ねた。
「あれは一体なんの儀式なの?」
「錬金石なるアイテムを作れないか試している。錬金術師という職業に必須のアイテムだが、未だ採取例がないので発想を変えることにした。錬金石を作り出すという工程が初めの一歩になるのではないか、とね。創造がテーマのゲームにおいて錬金術師は要職になるのではと睨んでいるのだが、成果は芳しくないな。正しい手順かどうかもわからない上に総当たりだ。当然と言えば当然だがね」
うーん……聞いた限り、ゴールが見えない中でマラソンするようなものだな。気が狂いそうだ。その分当たりを引いたときは達成感があるものなのだろうか。
僕はあまり食欲をそそらない料理を作っているプレイヤーを見てヨミさんに尋ねた。
「あれは一体なんの儀式なの?」
「料理に追加効果を付与出来ないか試している。現状料理というシステム自体が死に要素にしかなっていない。副次的な効果があってしかるべきだろう。候補としては、定番のプレイヤー能力の向上あたりだ。モンスターのバランス調整が杜撰なのではなく、こちらの前準備が足りていないのではと考えた。まともな防具がないと必中攻撃でレベル3以下は即死というのは、明らかにゲームデザインとして破綻している。そこからの逆算だな」
「じゃああれは?」
「武器精錬、ないしそれに近いものが出来ないか試している。鍛冶師のレベルが上がることで武器の強化が出来るスキルが獲得できたが、それ止まりだ。廃人共のプレイヤースキルのゴリ押しでモンスターを狩っているが、一般プレイヤーからすれば火力不足だ。もう一段階上があって然るべきだろう」
どうやら色々と考えた上で奇行に走っているようだ。ゲームバランスのおかしさから逆算して予想を立てているようだが、普通に運営が調整下手なだけなのではないかという個人的な懸念は胸に秘めておこう。
「さて、本題にはいろうか。ライカン、君にはこれでモンスターの討伐にあたって貰いたい」
そう言ってヨミさんがインベントリから取り出したのは、ゴテゴテした銃に似たデカい物体と、先の尖ったデカい金属棒が十数本。ファンタジー感ぶち壊しな鉄臭い武装だ。
「えっと、なにこれ」
「試作撃発式徹甲杭射出機構。パイルランチャーと呼んでいる。好事家な鍛冶師連中との合作だ。着けてみろ」
とんでもない世界観の蹂躙を見た気分だ。戦国時代にミサイルが出てくるようなもんでしょこれ。
試しに手にとって見ると、意外にもそこまで重量を感じなかった。腕を通して装着すると、指先に引き金が掛かるようになっている。これを引くことで杭を射出するのだろう。
「大層な装備だけど、本当にモンスターに効くの?」
「通常の爆薬では威力不足が解消できなかったが、君の作る特殊爆薬なら必要十分な威力を見込めるはずだ。こちらとしては爆薬を融通してもらえればありがたいのだが、そのつもりはないのだろう?」
「まあね。悪用されたら事だし」
「ならば君にやってもらおう、となったわけだ」
「なるほどね」
経緯は理解できた。けど、『検証勢』の依頼にしては真っ当な内容なのが気に掛かる。
「武器の性能テストねぇ。思ったよりも地味な依頼だね」
「おっと、勘違いさせたかな。君にはそのパイルランチャーだけでモンスターを倒して貰うつもりだ。おそらく、数十発撃ち込む必要があるだろう。簡単な依頼ではないぞ?」
唐突に話が変わった。
このゲームのモンスターはプレイヤーに対する配慮というものが欠けている。【踏み込み】や【空間跳躍】といった機動力を大幅に向上させるスキルを用いてようやく戦えるレベルだ。
僕はてっきり廃人達が作り出した隙に一、二発ブチ込む程度の感覚でいたのだが、この武器だけでとなると……いけるか? 厳しいな。僕は自慢じゃないが動けるプレイヤーじゃない。
「どうしてもこの武器だけで倒さなくちゃいけない理由ってあるの?」
「ああ。公式怪文書92話に火薬を用いた射出機構のみで岩玉を討伐した描写がある。今回はその再現だ。魔法のみで猪を倒して最下級魔法のモーション発動が解放された前例がある。何かしらの要素が解放される可能性はあるだろう」
岩玉。鉱山エリアに出てくる敵のことだ。固くて不味い不人気モンスターという印象が強い。
鈍重そうな見た目に反し、転がりながら軽快に跳ね回る害悪さも兼ね備えている。僕なら五秒で死ぬ自信がある。
「そもそもどうやって勝つつもり?」
「私は戦闘に関しては門外漢なので細かい部分は廃人連中と詰めてくれ。そら、話をすれば、だ」
バンとドアが開け放たれ、ギュンと接近してきたのは先程人外の動きで弓使いを斬り伏せた廃人ことあっさんだ。
生き急ぎすぎているこの男は通常の移動ですら【踏み込み】を使用するため、見ていて非常に気持ち悪い。パラパラ漫画でページ数をごっそり飛ばしてしまった時のような動きをする。
「話は」
会話も非常に端的だ。あらゆる遊びと人間性を削ぎ落とさなければたどり着けない極地にいる。この男はそういう男だ。
僕は譲り受けたパイルランチャーと杭をインベントリにしまって言う。
「終わったよ。色々と心配なところは」
「行くぞ」
雑談すら許してくれない廃人は、話の腰をへし折って僕の体を米俵のように担ぎ上げた。職業レベルが上がると腕力も上がる。おそらくレベル20だろう、まるで抵抗できない。
他人事のような顔をしているヨミさんが言った。
「朗報を期待しているよ」
瞬間、景色がブレた。さっきまで室内にいたはずなのに気付いたら外に出ている。腹がクソ廃人の肩に当たっており、揺れるたびに心地悪い振動を与えてくる。
この男……本気か。人を担いだまま【踏み込み】の連続発動で街を駆け抜けている。
パワーを五倍くらいにしたドラム式洗濯機にブチ込まれたような気分だ。前後不覚どころか上下の感覚すらもおぼつかない。
進路変更の際に生じるGが内臓を掻き回すようだ。もはや目なんて開けていられない。なんかもう死にそう。
「ぐえっ」
一際強い腹への衝撃と、その後に続く浮遊感。
おい、おい、まさか……。
薄っすらと片目を開けると、眼下に街が広がっていた。街の中心の噴水広場、バザーが連なる目抜き通り、ポツンと建っている僕の自宅。全てが見渡せるほど高く、高く跳んでいた。
正気じゃない。この男、外壁すら超える高度のジャンプでショートカットしやがった。頭おかしいよこの廃人。
視点が傾いていく。街を見下ろす視点だったのが、空を見上げる視点へと。それすなわち、あっさんの足が空を向いているわけで――冗談でしょ?
「待っ……んいぃぃぃぃぃぃ!」
紐なしバンジーなんてレベルじゃない。安全装置の外れたジェットコースターにしがみついているような気分だ。
このクソ廃人は、あろうことか人一人を抱えたまま高高度からの【空間跳躍】で地面に突っ込んたのだ。
人生哲学とか座右の銘に効率の二文字を高々と掲げる男は、なんかもう、常識では測れない。効率って……何なんだ。
死にそうな目に遭うこと数回。RTAバリの変態挙動で草原を走破した廃人と僕は鉱山エリア前で本日の残りのパーティーと合流した。
僕はしばらく立ち上がれなかったが、その際クソ廃人共に早くしろと急かされ続けた。これだからこのゲームのプレイヤーは頭がおかしいと言われるんだ。またいずれ正義の鉄槌を下そう。僕はそう心に固く誓った。




