序章
親愛なるナターシャへ。
お元気ですか?
そちらは何も変わりはありませんか?
あたし? あたしは──、そうね。
驚かないでね。
実はあたし、春に見習いを卒業したの!
これでようやく、学者の卵を名乗れるようになったわ。
学者よ! 学者!
と言っても元々の階級が〈学者手伝い〉だったから、手伝いから見習いに上がっただけで本当の卒業はまだ先なんだけどね。それでも、父さんから貰った本を眺めてるだけのあの頃からすれば本当に夢みたいだわ。
とにかく私、カル=チェ・アーニャは今年の春から〈学者見習い〉になりました。
ちなみに、こっちでは階級が上がることを“クラスアップ”って言うみたいね。ほんと、ここ一ヶ月は昇級の手続きやら引っ越しの準備やらでずっとバタバタしっぱなしだったわ。
お返事遅くなってごめんなさい。
これって、最初に書くべきだったわよね。
それで今は、イゾラシアの南の方にあるマルシャっていう街で暮らしています。
そこの商店街で、道具屋さんをやってるの。
道具屋と言っても冒険者じゃなくて大学に通う学生さん向けのお店でね、魔法実験で使う道具だったりちょっとした試薬を売ってるの。
店なんて今までやったこともなかったけど、周りの人達が助けてくれるお陰でどうにかこうにかやっていけてるわ。
今はまだ店のことで手一杯だけど、もう少し落ち着いたら自分の研究の方も頑張っていくつもり。…….本当は、大学に入って研究に専念したかったんだけどね。
マルシャはとてもいい街よ。
暖かいし、街の皆は優しいし。食べ物も美味しいし。
何より、すぐ近くに海があるの!
海なんて初めて見たわ!
イゾラシアやフーゼと比べたらパクトは海そのものが少ないしイーゼンなんて山や岩ばかりで土や霧の匂いしかしなかったけど、ここではどこにいても海と太陽の匂いがしてくるのよ。
吹いた風から潮の香りを感じた時は、本当に感動しちゃった。あぁ、今すぐあなたをマルシャに連れて行きたいわ!
こっちはもうすっかり初夏の陽気だけど、そっちはまだまだ寒いのかしら。
トパリン山の雪は、もう溶けた?
まだ残寒の厳しい日が続くかもしれないけど、くれぐれも体調には気を付けてね。それと、おじさんとおばさんにもよろしく伝えといてください。
今回は、返事が遅くなって本当にごめんなさいね。次はもう少し早めに返せるよう気を付けるわ。
あっ、そうそう。
ラタンがよろしくとのことです。
あの子、随分とあなたに会いたがっていたわよ。まぁ、本人はあなたの作るミートパイが恋しいだけだって意地張ってたみたいだけど。
書きたいことはまだまだあるけど、とりあえずここまでにしておくわ。
それでは、また。
あなたに会える日を楽しみに待ってます。
愛を込めて、アーニャより。
目指せ完結!
作者のモチベの関係上小分けを通り越した細切れ投稿となってしまいますが、最後までお付き合い頂けると幸いです。
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