第五話 「辛辣」
「こうやって剪定するの」
と彼女は言う。
僕はそのまま固まった。しばらく声を発することが出来なかった。
「あのね、壁から直接生えているミミズは切っちゃダメだよ。二又に別れていたら、見比べて、下になっているほうのミミズを切るの」
彼女は僕の気の動転に気がつく様子もなく、説明を続けている。
彼女はまるで、僕に勉強でも教えるかのように真剣に、ミミズの剪定について講義している。
僕は恐ろしかったが、彼女の話は聞かなくてはならない、と思って必死に耳を傾けた。
ぶちっ。という音がして、再びミミズは切り落とされた。白い体液が壁を伝っている。
「やってみて」
と三島さんは言った。僕はハサミをぎゅっと握り締めて覚悟を決めた。
「わかった」
僕はゆっくり壁から生えているミミズに近づいた。熱を帯びた鰹節のように、ユラユラとそれは蠢いている。
「ここがいいかな。この木の棒みたいに突っ立っている、この、ちょっと太い子を切ってあげて」
僕は彼女に言われるままに、ミミズに近づいて、ハサミを押し当てる。
ほとんど感触の無い感触と共に、鈍い音が辺りに響いて、ミミズは生命を失い、床に落ちた。
「そうそう、そんな感じだよ」
彼女は喜んでいる。その嬉しそうな表情を見て、僕は少し安心したのだった。
壁に生えたミミズたちは、まだ動いている。
しかし僕が切ったミミズは、切られたことで生命を失い、そのまま無機質な物体として、そこにあった。
「ねえ、どうして剪定するの? ぜんぶ切り落とせばいいのに」
つい、僕は口をついて言ってしまった。そして、言ってから後悔したのだった。
ミミズは、彼女たちにとって大切な存在なのだ。
それを、部外者である僕が「ぜんぶ切り落とせばいい」とは、あまりにも彼女たちの神経を逆撫でするものだ。
だが、三島さんとその両親は意外な反応を見せた。




