プロローグ
「もう、このパーティーから出ていってくれないか」
いつも通りの仕事をこなし、いつものなれた酒場でのことだった。俺に向かって、それなりに長く付き合っていた仲間の一人が突然この台詞を言ったのである。
「な、なんでだ!?」
今まで苦楽を共にしてきた他のメンバーは都でも将来有望と言われる若手達で、彼らはみな自分より年齢は下だった。しかし、これまでもこれからも、名を上げるためにお互いを支え合ってきた、信頼できる仲間のはずだ。
それなのに、なぜ。
「限界なのよ」
パーティーの怪我を治療してくれていた優秀なヒーラーが小さく呟いた。他のメンバーも一様に何かを耐えるような表情をしている。
「げん、かい?」
「なあ、第三等になってからどれだけ時間が過ぎた?どれだけ第三等どまりの同じ仕事をやってきた?……全くこれから先に進める未来が見えないんだ」
震える手を押さえ込むようにパーティーのリーダーである仲間、いや仲間だった男が告げた。
「俺達の冒険に、ナーゼルさん、あんたは───」
彼の言葉を最後まで聞くより先に先に俺は別れを告げることにした。なぜなら、最後まで聞くのはあまりにも辛い。
「わかった。……装備は全て置いていく。今まで、すまなかった」
「えっ、ちょ」
気がつくと王都の城壁の上に登っていた。地平線の向こう側から差し込んでくる朝焼けが美しく風景を彩っていく。
「はは……」
信じていた仲間達からパーティーからの脱退を頼まれたあと、目の前が真っ白になりこの場所まで来た記憶があやふやだった。
春の清々しい風が全身を余すことなく撫ぜていく。
身をゆだねるように静かに目を閉じた。
初めて王都に来た日。初めて仕事を成功して報酬を手にいれた日。今まで冒険者として過ごしてきた一日一日がまぶたの裏に写る。
「どうして、どうして……」
汚い嗚咽と霞む視界。朝焼けが涙でにじむ。
「どうしてこんなことになったんだ……」
その日、俺は全裸で城壁に登った罪で捕まったのだった。
信頼していた仲間達からパーティーを追放され、傷心中の35歳バツイチ(子持ち)ことナーゼル。
一人となった彼はいく宛もなく町をさ迷う。
次回、「留置所生活24時」