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土木棟2階水理研究室  作者: ハル
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 ピピピ……ピピピ……


 世界の終わりをつげる電子音で新藤傑の一日は始まる。一日の始まりが世界の終焉なんて些か大げさかもしれない。しかし傑をよく知る友人から言わせれば「朝が弱い」とは傑の為に造られた言葉である。

 手探りで世界を蝕む元凶を見つけだし脳天を思い切り叩く。ベッドが僅かに揺れる。ここまでは大した闘いではない。いわばラスボスの棲む城行の電車の切符を買ったにすぎない。勇者の移動手段が公共交通であることはひとまず置いておくとして、本当の闘いはこれから幕を開ける。


 今日は好きなアイドルが表紙を飾る雑誌の発売日。

 今日は新調した服を着ていく日。

 今日は好きなラジオ番組の放送日。


 脳が準備運動を始める。重い瞼が徐々に開き、今日の敵は大した相手ではないと確信した。しかし、僅かばかり弛緩した傑を冷酷な奴は見逃さない。――ラスボス様直々のお出ましだ。


「今日は線形代数の小テストがある上に真面目も眠る材料学の講義もある。それに、表紙のアイドルは一昨日週刊誌にお忍びデートを撮られたばかりじゃないか」


 ……車内アナウンスが流れる。


「お客様にご連絡いたします。七時三十七分発各駅停車、世界の始まり行きは線路内のトラブルにより、折り返し世界の終わり行きとさせていただきます。ご利用のお客様にはご迷惑をおかけして大変申し訳ありません」


 角膜を通過する朝日の光量が徐々に減っていく。線形代数の小テスト、材料学の講義、そんな事はどうでもいい。完全に忘れていた。

 香澄ちゃん……嘘だと言ってくれ。

 剣を駅のホームに忘れた勇者を見てもなお、ラスボスは忌々しく追い打ちをかける。


「それに今日は四カ月ぶりにあそこに行く日だろ?」


 その言葉に傑の脳裏から希望はすっかりと消え、車窓に映る疎らな光はやがてトンネルの暗闇に変わっていった。各駅停車世界の終わり行きは急行となり、本日の学校は交通トラブルのため自主休講となった。


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