表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mage First memory  作者: 川神竜之介
第1章 魔導士
2/2

第1話 優しさを知った日

 朝日がカーテンの隙間から差し込み、部屋をうっすらと照らしている。

 ガチャッとドアが開く音が聞こえてきた。

 まだ眠たい悠人は、完全に開ききっていない目でドアの方を見た。

 


(あれ?だれだろう?)



 まだ寝ぼけていた悠人はそれが優美であるとは気づかなかった。

 逆に優美以外の人だったら、それもそれで怖いのだが…。



「悠人、もう朝ですよ。早く起きなさい」



 優しく透き通った声が聞こえてくる。

 目の前には、しゃがみ込んで悠人の顔をのぞいてる姉の姿があった。

 


「お寝坊さんはどこですか~?早く起きないと朝ご飯食べちゃうよ~」


「………ウザい」



 第一声に「ウザい」と放ったのは初めてだった。

 子供扱いするのはいつもと変わらない。



「もう、口が悪いんだから。それより早く起きて。お休みだからっていつまでも寝てると不健康だよ」



 優美はベッドの近くのカーテンを開けた。

 日光が薄暗かった部屋を一気に明るくし、悠人の意識を目覚めさせる。



「うッ…眩しい……」



 視界が急にぼやける。反射的に目を擦るが直らない。

 休みの日の朝はいつもこんな感じだ。

 いきなりカーテンを開けるからいつも苦しい思いをして目覚める。

 朝早く起きるために目覚ましをかけるが、全く役にたっていない。



(くそ~。明日は絶対に早く起きてやる)



 目を擦りながらこの決断をしたのは何回目だろうか?

 このパターンでは明日も起きないと、心の底でなにとなく気づいていた。



「早く朝ご飯食べてね。お姉ちゃん今日は用事があって出かけるから」


「え?学校あるの?」


「いや、全く別の用事。学校の課題は先週終わらせたから」


「なるほど…。さては彼氏だな!」


「違います!」



 顔を赤面させて必死に否定する優美。

 恥ずかしくなったのか、そのまま部屋を出て行った。



「はぁ…とりあえず僕も起きますか………」



 クローゼットからジーパンとパーカーを取り出して着替える。

 いつも私服は特別こだわっている訳ではない。

 目についたものを着ているだけなので、たまに変な格好になることもある。



「さてっと、今日は用事もないし家でゆっくりしようかな」



 一日の予定は特になかった。このままいけば、いつものようにスマホをいじってご飯を食べて、風呂に入って寝る。そんな現代っ子の典型的な不健康生活を送るだけだった。

 おぼつかない足取でリビングに行くとテーブルの上には朝食がおかれていた。

 トースト二枚に目玉焼き、ベーコンにヨーグルトに牛乳。

 これぞ朝食だと言わんばかりのメニューだ。



「うん…いつものだな…」



 思い返してみれば、今日の姉は自分が知っているいつもの姉だった。

 優しい表情はそのままに、静かで落ち着きがあって────なにより食事の量が普通だ!

 昨日の姉が本当に別人だったのではないかと疑ってしまう。



(昨日はどうしたんだろう…。絶対にいつものお姉ちゃんじゃなかった。……もしかして多重人格とか?)



 あり得ない話でもなかった。精神的に病んでいる状況だったり、生まれついてのものだったり、ある日突然に症状が表れたり……。

 自分の知らないところで辛い思いをしていないとも限らない。

 そう考えると悠人は不安になってきた。



「悠人ー、ご飯食べたら食器は洗ってね。帰りは少し遅くなると思───」



 リビングに来た優美が見たのは、朝食を見ながらうつむいている悠人の姿。

 何か思い詰めた表情をしている。



「悠人?どうしたの?もしかして風邪でも引いたの?」


 

 優しく問いかける優美。不安そうな表情を浮かべながらも、悠人の頭をそっとなでる。

 いつもなら「子供扱いするな!」と言って、手を振りほどくのだが、今日はそれをする気配がない。



「本当にどうしちゃったの?悩み事があるなら話しなさい。お姉ちゃんでよければ相談に乗ってあげるから」


「じゃあ───」



 悠人は思い切って口を開いた。



「なにか僕に隠してることあるでしょ?」


「え!?隠し事?そ、、そんなのあるわけ────」


「嘘だっ!!!!!」



 悠人のこの一言は優美の言葉を遮った。

 あまり大声を上げない悠人は加減というものを知らない。家中に響き渡った声は自分でも驚いた。

 だが、一番驚いていたのは優美だった。

 予想外の悠人の行動に動揺を隠しきれない。

 


「え、えっと…悠人。本当にどうしたの?もしかして疲れちゃったの?」


「おかしいのはそっちだろ!昨日は明らかに様子がおかしかったし、なにか僕に隠してるだろ!」



 悠人は歯を食いしばりながら、感情を抑え込む。

 自分は守られてばかりで優美に何もしてあげられない悔しさ。

 自分にとってそれは屈辱でしかなかった。



「お願いだから…話してよ。隠していること…」


「悠人……」



 優美は自分が何を言えば良いのか分からなかった。どう返答すれば分かってくれるのか、理解してくれるのか。

 だが、言葉よりも先に優美は自然と体が動いていた。

 悠人を引きつけて、力いっぱい抱きしめた。



「な、なにを!」



 いきなりの出来事に頬を赤く染めて動揺する悠人。

 そんなことはお構いなしに、優美は悠人をはなさなかった



「ごめんね悠人…。そんなに心配かけちゃって。お姉ちゃん失格だわ…」


「そ、そんなことないよ!」


「そう?ならよかった…。けど、悠人がそこまで心配してくれていたなんて……私とってもうれしいよ」



 その言葉で悠人は落ち着きを取り戻した。

 恥ずかしいが抱きしめられていたほうが安心する。

 子供扱いされるのが不思議と嫌ではなくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ