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007 魔物と魔石と肉と金貨

 



「あれ? コカトリスが……いない!?」


 今の俺の背丈を越え、大人の胸辺りまである草をかき分けコカトリスが落ちた場所にジーントーレスとやってくると、そこには倒したはずのコカトリス……もとい、その死体がなかった。


「あ、ありました! こっちです!」


 少し離れたところで、ジーントーレスが手を振っている。

 俺もそこまで行くと、そこは草のない大地が剥きだしになっている場所だった。

 周囲の草が少し枯れかけているのが見えたからきっとコカトリスの毒にやられたのではなかろうかと思う。


 それにしてもやっぱりコカトリスはいなかった。

 その代わりにそこにあったものは……


「とても大きな魔石と金貨袋ですね! それと肉! どちらもこんな大きな物の実物を見るのは初めてです」


 血のような赤色をしたバランスボール大のツルンと丸い……岩? だ。

 それとその近くにはバレーボールくらいの大きさの、中身がパンパンに詰まっている革袋が。肉ってどこ?

 そう言えばこんなところに壁なんてあったっけ?


 ……どゆこと?


『もしかしてコカトリスがそのまま倒れているとでも思ったのですか? そんなもしかしたらR15に相当しそうなことになりかねない世界ではありません。魔物は倒したら消えて魔石とドロップアイテムを落とすのですよ』


 魔物は倒したら消えて魔石とドロップアイテムをおとす。

 なんという異世界感だ。

 このあたりはとてもマイルドでいいと思う。

 よくよく考えて、もし倒した後、素材剥いだり魔石取り出したり、生々しい解体してから地に還すとなると、心になかなかのダメージを受けそうだし。


「あっ、こっちにも何か落ちてますね」


 なおもジーントーレスは何かを見つけたらしく、それを拾いあげた。


「これは……コカトリスのトサカですよ! どんな猛毒や状態異常、体力や魔力をも回復できる超万能ポーションの素材と言われているものです! 伝説に聞くエリクサーの素材と言われているとも聞きます。どこの王族も喉から手が出るほど欲しがっていると言われている……これが……」


 コカトリスのトサカを興奮気味に眺めているジーントーレス。

 なんか、いろいろ物知りだね。


「ジーントーレスは知ってるの?」


 何がとは言わないが、色々知っているのなら教えてほしい。


「はい。俺は故郷を離れてからは冒険者をしていましたから、噂程度には。実物を見るのは初めてです」


「へー。……あれ? 冒険者をしていたなら、さっき冒険者ギルドで登録した時、なんで一緒に登録したの?」


「奴隷落ちして冒険者登録を抹消されてしまったので、新規登録となりました」


 奴隷になると積み重ねて来たランクとか全てを抹消されてしまうのか。

 そんなもったいないことになってまで、なんでジーントーレスは奴隷になったんだ?

 俺の疑問を察してか、ジーントーレスは話してくれた。


「あ……ぇぇっと、俺は借金で…。身の回りの物を全て売り払っても足りなくて。体調を壊して冒険者業で稼ぐこともできなくなってしまって、しかたなく奴隷になったんです。借金をしてまで買った薬も思うほど効果はなく、最近では奴隷屋でも厄介者扱いになってしまって、かなり値が下げられていたところを主様に買って頂けて、俺はよかったです。最後に、檻の外で死ねるなら、俺はきっと幸せです」


 え? 死んじゃうの?!

 病気なの!?

 全然マイルドじゃないんですけどー?!

 奴隷屋からそんな話聞いてない!

 だからあんなホクホク顔してたのかよ!


『その森猫の奴隷は呪いにかかっているようなのです。魔法使いに昇華したあなたの魔法でなら簡単に治せますよ』


 呪いとか超ハードなんですけど!

 てか女神様も知ってたの?!


 またなんか納得がいかないけど、ジーントーレスが言うように、檻の中で朽ちるよりは、一応魔法使いと言われる俺が買って、魔法で治るならそれに越したことはない……のか?

 治って生きられるなら、きっとそれが良いはずだ。

 たぶん。

 たとえ諦めたとしても、じわじわと近づいてくる死は怖いよ。


 この先だって、俺が使えそうな魔法で何とか出来るものはなんとかしていきたい。

 平穏な生活の為になるのなら、それくらいのことはしたい。


 しかし、初心者に複合魔法とか無理ではなかろうか。

 解呪ってゲームなら中盤以降で中級か上級魔法、もしくは複合魔法だよな?

 初心者な俺には無理ではなかろうか。


「ァ……ご主人様ー! おまたせしました!」


 タルタが双子と共に馬車でやってきた。

 さっきの所から、双子に馬車の装具をとりつけてから駆けつけてくれたようだ。

 馬車から下りたタルタは早速俺達の元にやってきた。


「すごいですねー! この魔石! それから肉! そして大量の……え? 白金貨……!?」


 やべぇ、ジーントーレスとタルタには見える肉が俺には見えない。

 裸の王様肉バージョンか?

 俺王様じゃないから大丈夫だと思いたい。


 大きな魔石と大きな肉塊をぺちぺち叩いてから、タルタはバレーボール大の革袋を拾って揉んでじゃりじゃり音を立てて、それからチラリと中身が見えたのか驚いている。


 それ、金貨だったんだ!?

 でもって白金貨……?

 響きがなんかすごそう!


 どうぞ! と、拾った時とは違い、白金貨と知ってからは丁寧に扱ってた白金貨の入った革袋を大事そうに手渡された。

 が、受け取った瞬間思わず落としそうになってしまった。


 タルタが軽々と持っていたもんだから、そんなに重いとは思っていなかった。

 危うく腰を逝かせた上で地面に顔面ダイブするところだったぜ。


「おっも……! これ全部金貨?」


「そうですよー。しかも全部白金貨ですね! このクラスの魔物を倒した事はないですが、全部白金貨だと思いますよ? オークキングとかは金貨と銅貨が、銅貨多めで混じってましたけど」


「へ、へー……そうなんだー」


 オークとかの魔物もいるんだ……。

 しかもキングとか普通に倒したみたいに言ってるタルタさん怖ぇぇ……。

 二足歩行の人っぽい姿の魔物は、出来る限り遭遇したくないな。他にも知恵がある魔物は嫌だ。そういうのってめちゃくちゃこわいんだよなー。もちろん本能のまま暴れ狂う魔物もこわいけどさ、それとは違う怖さなんだよ。


「魔石は、ァ……ご主人様のカバンに入れちゃっていいですか?」


 そう言ってタルタは馬車の中から俺のカバンを持ってきてくれた。


「うん。お願い」


 するとタルタはおもむろに片手で大きな魔石を掴んでカバンに収納した。


 あれ? 魔石って結構軽いんだな。


「肉はどうしますか? 冒険者ギルドに売る場合はこのままの方が重宝がられますけど、町や村で売る場合は適度に切ってあった方が喜ばれますね」


 ジーントーレスとタルタは壁に手をあてペチペチしている。

 二人でペチペチペチペチしている壁をよく見てみると……


 あれ? もしかしてその壁が肉ですか!?


 あまりに近すぎて逆に見えなかったけど、よくよく見渡せば学校くらいの大きさの……肉?!


 大きすぎやしませんか?!


 ……異世界すげぇ!!


 と言う言葉で片付けた現実逃避だって、よく理解しているさ。


 うん、まぁ、ジーントーレスもタルタも”肉”と言ってるぐらいだから食べられるんだよな?

 だったら適度に切っておいて、旅の途中食べて、残った分を売ればいいかな。


 食べきれないのは確定だけどね!


「じゃぁ適度な大きさに切ってもらえるかな。切るのにナイフが必要だったらそのカバンに入って……そう言えばタルタ達もナイフ持ってたね」


 はたしてこの絶望的な大きさの肉塊を普通の包丁より少し小さいくらいの大きさのナイフで切ることが可能なのだろうか。

 ジーントーレスが持っている剣やタルタの斧で切った方が早い気もするけど。

 と、心配している間にも、テキパキ仕事をこなしていくタルタ。

 そこにジーントーレスも加わって、ものの小一時間でひと抱えぐらいの大きさに切り分けられた肉塊が数百個出来あがっていた。

 それをまた俺のカバンに、白金貨の入った袋やトサカと一緒にザクザクと入れていってくれる。


「お疲れ様。ありがとう」


 嘘みたいに早すぎる仕事に一種の感動を覚えたよ。


「いえ、そんな。当然です。それに命を助けて貰ったので、お礼を言わなければならないのは私たちの方です! ありがとうございました!」


 ありがとうございました、とタルタに続いてジーントーレスとケルクとクレアに言われ、なんだかむず痒い。

 自分の身を守る為でもあったのだから礼を言われることでもないんだけどね。


 でもやっぱりあんな肉塊を解体してくれたタルタとジーントーレスの方がすごいので、そんなむず痒さも一瞬で消え、二人への感謝の気持ちでいっぱいさ。


 食後にまったり休憩は出来なかったけど、ここでちょっと休憩をしてから出発した方がいいかな。

 結果的にあの街の神官ぽい人達が心配していたコカトリスを倒してしまったんだし、今更追われる事はないよな?

 となれば特に予定もない旅だし……予定無くなってしまったな…。

 ま、いっか。


 安住の地を探してまったり旅も悪くないか。



 30分くらい休憩し、


「じゃぁ、行こうか」


 と声をかけ、俺達はケルク達の馬車に乗って、また街道に戻った。


 街を出たばかりの時よりも何故か幾分スピードの乗った馬車はなかなかスリルがあった。




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