003 奴隷と言うものを買う
「奴隷を買うって手もあるぜ?」
い、いるんだ、奴隷って。
剣と魔法と奴隷のいる世界か。
まさに異世界だな。
ファンタジーな感じから一気に殺伐とした世界に感じるな。
ヘタをしたら俺も奴隷になってしまうんだろうか?
………………。
こっわっ……!
やはりここはひっそりと大人しく、何事もなく無難に過ごして生きていくしかないな。
……前の世界と変わりねぇスタンスじゃねぇか。
なら大丈夫。得意だ。
『確かに、これから逃亡生活をするのなら、秘密保持ができる奴隷を買うのも良いと思います。子供の一人旅よりも少なくとも安心は出来るでしょう』
さっきからバリバリ神託が入る。
それにしても女神様の口から奴隷を推奨されるとなんか、なぁ。
でも店のオヤジや女神様の口調からして、奴隷は一般的なんだろう。
ちょっと嫌な感じだ。
……たしかに、今の俺は見た目子供らしいから、全く知らないこの世界で逃亡の一人旅ってのも危ないか。
てか、逃亡生活確定ですか。
夢とかではなく、女神様? の言う通り、この世界に実際に転生したってんなら是非ともゆっくり腰を据えたいんですけど。
確かに、国を救うだなんて大きな話には小心者の俺は向かない。
どこぞにいる勇者様にお願いして下さいませ。俺は別の国かどこかのどかな場所を見つけてそこでひっそりと暮らしたいと思う。
せめて魔法使いだからっていう理由で追われず、騒がれない場所を見つけたい。
「でもなぁ……」
そのためにも奴隷かぁ。
気が引ける。
『変な輩に買われるよりも、野営の見張りや荷物持ち程度であなたに買われる奴隷はきっと幸せだと思いますよ』
そういう考え方もあるのか。
「まぁ、お貴族様にとっては気が進まねぇのはわかるけどよ。こういっちゃなんだが、大人でさえ旅は危険だ。坊ちゃんみてぇな子供の一人旅よりはかなり安全だと思うぜ」
やっぱそうなのか。
でもってやっぱり旅と言うのは危険なのか。
そうだよな。剣と魔法がある世界だもんなぁ……。
「うーん……わかりました。そうしてみます」
「おう、そうしとけ。奴隷屋は向かいの店の並びの奥の道を入ってすぐ角にある、デケぇ門の店だ」
店のオヤジに奴隷を売ってる店を教えて貰い、外套だかマントだかを羽織り、フードを被ってカバンを肩から掛けて、それからオヤジに軽く礼をして、教えて貰った店を目指し、大荷物を抱えながらてくてく歩く。
意外に子供なこの体でも大きな荷物を持つことが出来た。
歩いているとまた神託? が。
『奴隷を買った後は馬や馬車なんか買うといいでしょう。それからその荷物は、魔法でカバンに収納することができますよ』
「はいはい。馬車ですね。あと、とりあえずここで魔法を使うと魔法使いだってバレるんで後でにしておきます」
この世界で魔法使いの立ち位置がどんなのかは知らないけど、さっきの場所がトラウマになってしまってそう思ってしまう。
別に悪い事していない(と思う)のに後ろめたい気持ちになってしまう俺は卑屈だろうか。
『魔法を使わなくても誰もがあなたを見るだけで魔法使いだとわかりますよ』
「え? な、なんでですか?」
そんなあからさまにもろバレなの?!
ナニソレ困る!
往来する人の目も気にせず、俺は独り言の音量を盛大に上げる。
『その首にかかる涙型の宝石は、魔法使いの証なのです。色によって特色があるのですよ?』
そんなのも知らないの?
みたいな雰囲気で言われるとイラっとするんでやめてほしい。
何も知らないイタイケな俺を自己都合の理不尽な理由でここに強制転生させたクセに!
今はまだほとんど実感ないし、周囲の変化に感情が追いつかないからそんなことは後回しでいいけど、後できちんと説明が欲しい。
いや、良く分からない説明はされたけど。
とりあえず今は逃げることが大事だ。
いや、あの神殿っぽいところにいたおっさん達が俺に危害を加えると決まった事ではないが、追われたら逃げるのが人ってもんだろう。
しかも理由が”国を救って下さる魔法使い様”だ。
ハードルが高すぎる。
実は魔法も使えない(使った事もない)魔法使いだった場合、何されるかわからないじゃないか。……やっぱ考え過ぎだろうか。
ん? そう言えば逃亡の旅をする流れになっているけど、俺がこの世界に転生してやる事って何かあったんじゃないのか?
神官っぽい人達が言ってた事をやらせるためにこの世界に転生させたんじゃなかったのか?
「そう言えば女神? 様、ここに来た時に神官っぽい人達から『これでこの国も救われる』とか言われたんですけど、俺、逃げてきちゃったんですよね。今さらですけど、ナビまでしてもらってこうして逃げてきちゃって良かったんですか?」
『えぇ。貴方のお好きなように行動してくださって構いません。貴方がここでやらなければならない事は一切ありません。しいて言うなら人生を謳歌する事、でしょうか。具体的には一切何もないですね。そしてわたくしは「女神? 様」ではなくて女神様です』
……。
「そしたら元の世界で生きてても良かったですよね?!」
『それは出来ません』
「何故?!」
『わたくしが貴方という魔法使いに育ちし者を見つけてしまったからです』
なんという横暴……!
神様怖いっ!
『しょうがないと割り切って下さい。そもそも一定の条件を満たした人間は魔法使いに昇華しなくてはならないのです。地球の常識ですよ? 今までは多少わたくしの怠慢もあってなぁなぁになってきてしまいましたが、わたくしが心を入れ替えたからには、貴方にはしっかりと魔法使いになって貰わねば困るのです! ………じゃないと他の神々になんて言われるか』
最後本音がだだ漏れてますね。
渋々ですよね?
この女神様が心を入れ替えた時にたまたま俺が30歳を迎えてしまって神災にみまわれたのか……。
くそぅ。
そう言うものだと割り切るにはいささかハードルが高すぎるだろうよ!
……でもそう言うものなんだろうなと思えてしまう不思議!
もやもやした気持ちのまま歩いていると、着いてしまった。
その名も【奴隷屋】。
店の看板にそう書いてあった。
……日本語だった。
西洋っぽい世界なのに!
醍醐味もなにもあったもんじゃない。
言葉だって、異世界の言葉が神様の加護で自動変換とかそういうんじゃなかったってことね。
大きな門の前に立つと、門の内側すぐに人がいた。
「あのー、奴隷を買いたいのですが」
俺がそう声を掛けると、門の内側にいた人……男は俺を上から下までねめつけ、それからゆっくりと門を開けた。
すると店から別の男が出て来た。
笑っているような糸目で、チョビヒゲ。金髪を油で後ろに撫でつけた、細身で長身の男だった。
「これはこれは魔法使い様。当店を訪れて頂きましてありがとうございます。さぁさ、店内へどうぞ」
うわぁお。
魔法使い即バレ。
荷物をこちらへ。と、声を掛けた男が俺から荷物を一旦預かり、それから別の男へ荷物を持たせた。
身軽になって店内へ入ると、そこは思った以上に広く、明るい場所だった。
左右の壁一面に、檻が二段重ねにズラリと並べて置いてある。その中にはあらゆる人種……というか種族? とみられる奴隷がいた。
「どういった奴隷をどのくらいお探しでしょうか」
「えーっと、旅をするにあたり、荷物持ちや野営番をしてほしい。どのくらい? 人数ってこと? うーん。旅の間は野営の番をしてもらいたいから……2人、かなぁ」
そういうの全く考えないでここに来てしまった。
この世界で旅をするとかまだ具体的に全然思い描けないしなぁ。
「そうしますと……護衛も出来る奴隷が良いでしょう。少々値は張りますが、戦闘奴隷がよろしいかと。旅路は魔物とも遭遇しましょうし、野営も然りです。とすると……このあたりは如何でしょう」
そう言って男について行くと、かなりの長身でごっつい筋肉がゴリゴリムキムキな戦士のような、それでいてスタイル抜群の9頭身くらいのイケメン獣人の檻の前に案内された。
獣人と言っても人間にケモミミとケモシッポなどが生えてる亜人タイプではなく、頭身や立ち方は人なんだけど、ガッツリ獣人みたいな感じのタイプね。獣人の顔の良し悪しはわからないけど、イケメンに見える。
「虎獣人です。もと王国騎士で、命令に背いたと言うことで奴隷落ちしました。ですが、今は隷属の紋章でしっかりと手綱をとることが出来るので、命令違反の心配などはないでしょう。こちらは金貨100枚となります。いかがでしょう」
虎獣人にまっすぐに鋭い目で見据えられ、小心者の俺は目をそらしてしまう。
そもそもそんなに所持金ないです。
「えぇっと……もう少しマイルドな感じの奴隷が……」
キャラも金額もな!
「そう、ですか。こちらかなりおすすめだったのですが……」
いえいえ。無理無理。
俺にはその人に命令とか出来そうにありませんから。
睨まれたら……マジ無理。
ちびる自信あるね。
「でしたらこちら……」
「あの! どうか私を買ってください!」
奴隷屋の男が次のおすすめを案内しようとした矢先に、声が上がった。
声の方を見てみると、褐色の肌で黒い髪の十代半ばくらいの女の子だった。その女の子の頭には二本の大きな雄牛のような角が生えていた。
「私、どんな重い荷物でも持ちます! 力仕事には自信があります! 数日なら眠らなくても平気です! 魔物とだって戦えます! なのでどうか私を……」
獣人? の少女は必死に訴えてくる。
「おだまりなさい。勝手に口をきくなど……」
そう奴隷屋の男が言うなり、バリバリと大きな乾いた音がしたと思えば、急にさっきの女の子が苦しみ出した。
「ぁぐっ……うぅっ」
それでも懸命に女の子は俺を見つめる。
そんな目で見られたらさぁ。
「あのぉ……その子、買います」
って、言っちゃうよ。
「よろしいので?」
ちらっと見たけど、手持ちの金貨で買える値段だったってのもある。
「はい。あとは……」
旅の安全確保の為、多少なりとも屈強そうな男を選ぶか。
今の俺は子供だし、魔法使いらしいから弱いだろうし。
……まだ魔法らしい魔法なんて使っちゃいないけど。
とにかく、この先どうなるかは分からないけど、安全にこの世界を生きねば。
「ではこちらなどいかがでしょうか」
俺の要望を取り入れてくれたのか、案内されたのは、先ほどよりかなりマイルドな感じの、獣人の青年だった。
全体的に銀髪で、毛先にいくにつれて緑がかった不思議な髪色のシュンと下がった猫っぽい耳が印象的だ。
怖そうじゃないのがとてもいい。
値段も……
うん。大丈夫。
いや、人の値段がこれでいいのか微妙だけども。
「そうですね。いいと思います。その二人に決めました」
「ありがとうございます。登録料と合わせまして金貨3枚と銀貨80枚になります」
俺は金貨4枚を取り出して男に渡した。
男は金貨を受け取るとすぐに奥の扉へ引っ込んで、またすぐに釣りを持ってきた。
「お待たせしました。銀貨20枚のお返しとなります。ご確認を。それから奴隷紋にお客様の魔力を登録するにあたり、この用紙に描かれている魔法陣にお客様の魔力を少々流して下さい」
釣りを受け取り、言われた通り、手のひらサイズの紙の上に描かれた魔法陣に指先で触れ、心の中で流れろと念じて魔力を流した。
その魔法陣をそれぞれの奴隷の胸元にかざすと、スゥっと魔法陣が紙から離れて奴隷の胸元にある奴隷紋へと吸い込まれていった。
それから俺が買った奴隷たちを檻から出し、売買完了となった。
「お買い上げ、ありがとうございます。また御入り用がございましたら是非当店へ」
「はい。どうも。……あ、ここから一番近い馬や馬車を売っているところを知りませんか」
ものはついでにそう聞いてみた。
すると奴隷屋の男は奥の扉近くの奴隷の檻の前まで行き
「こちらなどいかがでしょうか」
と、上半身が人で、下半身が馬の……ケンタウロスの少年少女の前で慇懃に笑んだ。




