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002 扉のその先



 扉の先はゲームかなんかで見たことがある神殿のような場所だった。

 石造りで灰色な場所。


 さっきは白い場所で今度は灰色。

 なんかもっとないのかな。


「おぉ……神に遣わされし聖なる魔法使い様!」


 声のする方向……なんか下の方からしたな。

 足元を見ると、今俺が立っている場所はけっこう高い所だったようで、四角い台みたいなのの上に立っていた。


 祭壇ってやつかな?


 その祭壇っぽい台の前面に数人の神官っぽいローブを着たおっさんたちが俺を見て声を上げていた。


 ここは……?

 と思い、急いで後ろを振り返るも扉はなくなっていた。


 ……知ってた。

 強がりじゃないよ!

 振り返った時点で扉がなくなるという良くあるアレだもんね!


「光りの中よりでたる聖なる魔法使い様じゃ……これで……これでこの国も救われる……!」


 どうしよう。

 なんか『勇者が召喚された』みたいな雰囲気がある。

 救われるとか言ってるけど、俺、そういうんじゃないですよ?


 何かを救うほどのチカラ的なモノないですよ?

 能力的にも人間性的にも何かをどうにかするなんて無理ですよ?


「えぇっと、すみません、人違いですよ? それでは」


 救いそういうのとかは勇者様にしてもらった方が確実ですからね!

 何と言っても勇者には安心と実績がありますからね。

 ……たぶん。


 台から恐る恐るジリジリと降りて、おっさん達をかき分けるように通路を進み、この場からとりあえず逃げることにした。

 どこに逃げるのとか行くあてとかないし、金もない。持ち物なんかも………ん? なんか腰からぶら下がっているものがあるけどまあ今はいいや。何もないしこれからどうなるかもわからないけど、とりあえずこの場からは逃げよう。国を救うとかそんなこと出来ませんから。

 救えるだろうという見込みでそういうつもりで流されて、もてはやされて調子乗って目立った分だけ後で出来ないとわかった時にきっと痛い目見るんだ……。

 人間、調子にのっちゃぁいかん。

 そんな責任もとれなそうなことで持ち上げられて調子に乗ったら、いざその責任を果たせない時、人は態度をコロリとかえる。

 そんなのをいくつも見て来た。


 ゲームや漫画でね!


 もちろん俺はそんなゲームや漫画の主人公たちではないから、豹変した態度をとる周囲を見返すための努力はできない。

 泣き寝入り確定だ。

 だから何らかの目立ちそうなフラグが出たらとりあえず回避しなくては。


 考え過ぎかもしれないけどさ。


 それにまだまだ夢かどうか怪しいし、だからと言ってもし現実になってしまっていた場合に備えて回避できるものは回避しておくにこしたことはない。


 というか、俺は調子に乗れるほどのコミュニケーション能力を保持していないんだけどね!


「お、お待ちください! 聖なる魔法使い様!」


 後ろから縋る様な声が聞こえるが、聞こえない方向で通すとしよう。


 すみません。

 小心者で。

 俺には無理なので!

とりあえず、こちらの同意なく何らかの儀式でもって怪しい召喚もしくは神様の神託かなんかで俺をこちらの世界に喚び出した何者かが悪いってことで。


 進んだ先には外へ出られるだろうと思しき扉。

 シンプルだがこれまた重そうな石扉を開け………開かない。


「ふんぬっ!」


 力いっぱい押しても引いてもスライドさせようとしても開かない。

 そうこうしているうちに後ろからどんどん先ほどのおっさんたちが近づいてくる。

 颯爽と逃げようとしたのに、これじゃぁ恥ずかしい!

 あっという間に捕まるって。


 あわわわわっ、やばいやばい、どうしようどうしようっ!


 いや、待てよ?

 扉を開いたその先であるここの救いを求めるこの状況、美少女な女神様がこの状況をどうにかしてほしいからここに送りこんだとかいうんじゃ……。

 俺にこの神官っぽいおっさんたちの手助けをしろと言う意味でこの場に俺を寄こしたんじゃ……?


『扉に魔力を流すのです』


 さっきの美少女女神の声が頭に響く。

 なんだかよくわからないが言う通りにする。


「って、いや、俺、魔力とか流すってわかんねーし!」


 うっかりな俺もようやく気付く。

 どうせ強制的に異世界に来るんだったらあらかじめ魔法使いの講習でも受けるんだった。

 ……そんな余裕なかったけど。


『なんかこう……流れろ! 的な感じで』


 んなアホな。


 でもやってみる、この際素直な俺。


「流れろ!」


 すると


 ズガガガガッドゴォォォン……


 と、すごい勢いで扉が開け放たれた。


「んなアホな」


 うっかり声に出してしまった。


「そんな……あの扉があんなにも呆気なく開かれるとは……!」


 後ろのおっさんの一人が呟くように……いや、大声でそう言った。

 やべぇ。追いつかれる。


 開いた扉のその先へ、俺は駆けだす。


 そこは明るい外だった。


 街? 町?

 とにかく人通りが多く、扉の音に驚いた人々が一瞬足を止めて俺の方を向く。

 その視線が恐ろしくなり、俯き、とりあえず左方向に駆けだした。


『その先を右に、次は左へ行くと大通りに出ます。そこまで行けば人ごみに紛れ込めます』


 頭の中に響く女神ナビに素直に従い、俺は走った。

 すると数分もしないうちに本当にたくさんの人が行きかう大通りに出た。


「う、わぁ……」


 広い石畳道の通路には、すれ違うのも大変そうな人、人、人で溢れていた。

 通路の脇にはたくさんの出店が並び、活気がある。


『その格好では心許ないでしょう。服飾店か装備を売っている店でフード付きのマント、あるいはローブを買って身に付けると良いでしょう。その為の支度金を用意しましたので、お使いください。腰にぶら下げてある革袋に入ってます』


 あ、女神様、まだいたんだ……。


 改めて見える範囲で自分を確認すれば、いつの間にか見慣れない格好をしていた。

 村人風……でもないし、言われていたような魔法使いとわかる格好をしているわけでもない。


 俺の中で魔法使いのイメージって黒いローブ着て変な形の流木みたいにウニョウニョってなってる木の杖持ってるアレなんだけど、そんなでもない。


 しいて言うならどこぞのお貴族様みたいな恰好をしている。手も若干小さめで……?

 そう言えば、周囲の人達が大きく見える。


「あのー、女神様? 俺、体がなんか変なんですかね。それともこの世界の人達は俺がいた世界より背の高い人達なんでしょうか」


 ものはついでだ、せっかくだからとりあえず聞いてみる。

 周囲には独り言に聞こえるかもしれないけど、俺を気にする人はいない。俺の声は周囲の活気に消されている。


『その体は転生体です。魔王の息子が病魔による病の進行を抑えるために仮死状態にあったものを、私が貰い受け、癒し、再生させました。今は立派な健康体なので、何も心配する事はありません。もとはアーネスくん(10歳)ですが、今はもうあなたのものなので、好きに名乗るといいです』


 魔王の息子の体に転生……。

 貰い受けた……?

 ……なんかヤバそうだ。

 てか、なんでよりにもよって魔王の息子なんだよ!

 絶対バレたらヤバいだろ、これ!


 俺は急いで周囲を見渡し、着るものを売っている店を探す。


 するとそこはすぐに見つかった。

 むしろ左手側にすぐあった。

 徒歩2歩。


「すみません。このフード付きマント下さい」


「あ……? おう、坊ちゃん。うちでいいのかい? もう少し先に行くとお貴族様が買うようなきちんとした店があるが……」


 うぉぅ……貴族ってすぐバレてる……。

 ん? 魔王の息子だから王族か?


「ん? しかも魔法使い様ときたか! なら益々うちなんよりもそっちの方がいいんじゃないかい?」


 ぶふぉぐっ……しかも何故か魔法使いバレまでしてる!?


「い、いえっ! こちらで買わせてください。……お願いしますです」


 早くこの場から立ち去りたい。だからと言って改めてそのお貴族様御用達のお店には行きたくない。

 魔王関係者いたら怖いし。

 そもそもここで俺が魔王関係者だってバレたらどーなんの?


 うん。

 考えただけで恐ろしいな。

 何が恐ろしいかはわからんが、恐ろしそうだ。


「お、おうっ、坊ちゃんが良いならぜひに。で、うちで良さげなモンっつったら……コレだな」


 見せられたのはフードがついたマント? 外套のようなものだ。生地もしっかりしているし、いいと思う。


 ……まだ実感はないが、というか薄々現実かなーとは思いつつあるが、まだ認めてはいない。しかし夢であろうとなかろうとこの世界に来てしまったからにはここで生活するんだよな?


 そしたらもう少し生活用品を買った方が良さそうだな。丁度この出店には何に使うとも知れない生活雑貨が置いてある。


「すみませんがそれと、しばらく生活で使いそうな物も欲しいので、見つくろってくれませんか?」


「なんだい。旅でもするのかい」


「えぇ。そのようなものです」


「なるほどなぁ。よし! それじゃぁこれとこれと……」


 店のオヤジが張り切って選び出した。

 マントに肩掛けカバンに、小刀のようなナイフに小鍋、フライパン、皮の水筒、ロープ、発煙筒、大きな厚手の布、その他色々。

 店の在庫処分でもしているのだろうかと一瞬思わなくもなかったが、それよりこの店の品ぞろえの良さが謎だ。


「ほい! 全部まとめて銀貨2枚だ!」


 どん!

 と目の前に、マントと肩掛けカバン以外は大きな麻袋に入れられて置かれた。

 量に驚いたが生活に必要とあらばいたしかたない。


「では……」


 女神様がくれたいつの間にか腰にぶら下がっていた皮の小さな入れ物から、銀貨っぽいのを2枚出し、店のオヤジに渡した。


「……魔法使いのお貴族様ってのはこうも金払いがいいものか」


 その言葉に俺が疑問に思っていると、店主が俺の表情を察してか説明してくれる。


「いやぁ。普通は値切られるもんだからよぉ」


「そういうものなんですね。でもいろいろ親切にしてくださったので、今回は値切りません。次また機会があればぜひ値切らせてください」


 日本に値切り文化なんてあまりないし、少なくとも俺は知らない。もしかしたら骨董品を扱う店やフリマなんかではあるかもしれないが、俺はそういう所に行ったことないからなぁ。


「ははは、そんときは是非ともお手柔らかに。てかこんなに用意しちまったけど持てるかい? 従者なんかは?」


「従者? いえ、いませんが」


「……坊ちゃん。なーんか危なっかしいなぁ。まぁ、いろいろあるんだろうさ。……だったらよぉ、奴隷を買うってのもあるぜ?」


 そんな気は毛頭なかったのだが……。



 だけど俺は何故か今、大荷物を抱え、奴隷屋の門を潜っていた。


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