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012 魔法使いは勇者を拾い、拾った勇者の長い話に付き合わされた

 


 野営地を出発してしばらく経ち、そろそろ昼休憩にでもしようと思った頃、何故かゆっくりと馬車が止まった。それからタルタが様子を見てくると言って、馬車を降りた。

 しかしすぐに馬車に戻ってくると、


「ァ、ご、ご主人さまっ!あの……勇者が、勇者が道の真ん中で倒れています!」


 と、あわてた様子で報告してくれた。


「……勇者?」


 勇者って倒れているだけで勇者と分かられてしまう、そんなわかりやすい感じなの?


「はい!聖剣グランルークスフランマを所持し、聖鎧エルングバーリィを纏っているので、勇者で間違いありません!」


 うん。わかりやすいのあったみたいだ。


 倒れているならば、介抱しないといけないか。

 まさか道端に置き去りにも出来ないしなぁ。

 しかたない。


 と言うことで、何故か道のど真ん中で行き倒れになっている勇者を回収して、休憩できそうなところまで、双子に引き続き馬車を牽いてもらった。

 勇者を回収する際、タルタが一瞬とても嫌そうな顔をしていたような気がするが、気のせいだろうか。







「ここは?!」


 荷馬車の中で勇者が起きたようだ。


 俺達は昼休憩の為にみんなで外に出ていた。

 ここも街道沿いにある野営地のようで、今は誰もいないが、そこかしこに野営をした跡がある。

 そんな場所で、俺達は休憩をしていた。


 昼食は昨日と同じ。屋台で買ったものがまだあったので、それで済ませることにした。


 勇者がガタガタと馬車から降りて、俺達の所に来た。


「な…………、魔族…?あ、いや。もしやお前達が俺を……助けてくれたのか?」


 俺達を、というよりタルタを見て、一瞬ぎょっとした勇者だったが、すぐに冷静になったようで、とりあえずの疑問をぶつけてみたようだった。


「助けた…かどうかはわかりませんが、貴方が道で倒れていたので、放っておくのもどうかと思い、とりあえずここまで連れてきてしまいました」


「……そうなのか。……ありがとう。お前達はどこの者だ?」


「ただの冒険者です」


 そう言って俺は身分証にもなるという冒険者カードを見せた。まだ新品の、木でも紙でも金属でもない、不思議な素材でできた、灰透明なカードだ。


「そうだったのか。失礼した。…しかし、その女は魔族のようだが……」


 勇者がタルタに目を向ける。


 その女呼ばわりされたタルタは今にも怒り出しそうな顔をしているが、なんとか自制出来ているようだった。


「はい、昨日奴隷屋で買いました、魔族のタルタです。俺が旅に出るにあたって、一人では心許なかったので」


「……一人?……もしかして、そこの森猫族もケンタウロス族もお前の奴隷なのか?」


 訝しそうに勇者が聞く。


「そうですが……どうかしましたか?」


 俺が不思議そうに聞くと、今度は気まずそうな顔をする勇者。


「いや、奴隷なら……いい、のか。いや、すまん。助けて貰っておいて、疑り深く詮索してしまった。すまなかった。改めて自己紹介をさせてくれ。俺はセインリンデル聖王国により異世界から召喚された勇者、司だ。訳あってあんなところで行き倒れになってしまった。そして、タルタだったか。魔族と言うだけで変に勘ぐってすまなかった」


 勇者がタルタに頭を下げた。


 召喚された…勇者?

「司」って、もしかしなくても日本人?


「い、いえ……」


 タルタはどこか気まずそうに、それでもまだ警戒を解いていないのか、固い表情をしている。


 ぐきゅるるー、と頭を下げている勇者から、盛大に腹の音が鳴る。


「あ、いや、すまん…」


 焦って顔を上げた勇者のその顔は真っ赤だった。


「俺は…ロータです。丁度これからお昼にしようとしてたんです。司…さんも一緒にどうぞ」


 と、座るように促した。

 すると勇者は素直に座った。

 名前は一応カタカナ風に名乗ってみた。

 そのうち大丈夫そうだったら、俺も日本から来たと話せばいいかと思ったからだ。今はまだ何があるか分からないし、タルタ達にもどう思われるか分からないからな。もしかしたらどうも思われないだろうけど。ただの保険。

 知っていると思うが小心者なんだよ俺。


「申し訳ない。でもありがとう。正直空腹で気を失ったようなものだったんだ」


 ははははは…、と苦笑する勇者の前に、俺は食事を差し出した。

 昨日の昼と同じ、何かの肉の串焼きと、パンと団子。団子は何の団子かは分からないが、惣菜系の団子だ。まずくはないが、うまいわけでもない、不思議な味だ。


 俺がカバンから出したのを見て、勇者が不思議そうな顔をした。


「さっきの話では昨日旅を始めたばかりの冒険者なんだよな」


 食事を受け取りながら、司が言った。


「と言う事は、ロータは貴族か大商家の子か?」


「え?! な、なんで??」


 貴族服は着てないのに……いや、実際どこの誰と言われると、正直なんとも言いづらい。日本から来ましたが、この体は魔王のご子息のもので…………。


 あ。


 そうだった。

 俺、今のこの体、魔王んとこの息子さんのだ…。


 もしかして、タルタが勇者に対して変に硬い態度だったのって、魔王と勇者の関係のアレか!


 あまり考えてなかったけど、勇者拾ったのまずかったかな?!

 意識を取り戻してしまった今、勇者をどっかに捨ててくることもできないし……。

 こりゃやっちまったか。

 今は別に魔王の息子ってわけではないけど、俺のこの体がアーネスくんだって知ってる人がもし居たなら、危険だよな。

 勇者に俺、倒されてしまうのか?!


 俺の焦りを見て、勇者が苦笑いした。


「あぁ、すまん。言葉使いもだが、魔族やケンタウロス族、さらには森猫族の奴隷まで買える事や、Fランクの冒険者カードなのに、マジックバッグまで持っていたのでな。本当にすまん。また俺は余計な詮索をしてしまった」


 ははは、と勇者は笑い、それから「いただきます」と言って食べ始めた。

 なんだ。そういうことだったのか。

 勇者の魔王関係のセンサーが働いたのかと思った。

 そんなセンサーあるのか分かんないけどな。


「ところで、ロータ達はどこに向かうんだ?と言うか、ここはどこだ?」


「ここは……」


 と俺がジーントーレスに目を向けると、代わりにジーントーレスが答えてくれた。


「ここはセロワバル王国カージュ領です。我々は隣領のブロンジーク領のアイゼンの街を目指して旅をしています」


 そ、そうだったのか。

 いや、目指しているところはアイゼンってのは決めたけど、国の名前とか今いる場所とかの認識とかしてなかったぜ。

 危なかった。ジーントーレスに任せてよかった。


「そうか!よかった…聖王国を抜けていたんだな」


 とても安心した様子の勇者。


「俺は…聖王国から逃げて来たんだ」


 あ、これはもしかして…語るんですかね。

 めんどくさそうな予感がする。

 というかそんな予感しかしないな。


「俺は聖王国で魔王を討伐する勇者として召喚された。はじめのうちは勇者として喚ばれたと言う事もあって張り切った。勇者としての訓練だって、すればするほど強くなって行くから楽しかった。国で仲間もつけてくれ、国内のダンジョンでレベルを上げ、そうしているうちにいよいよ国から魔王討伐するように言われ、魔王国へ向かったんだ。当時俺は魔王が世界を滅ぼそうとしていると聞かされていた。でも魔王国へ行ってみればそれは違ってみえた。他の国と変わらない…いや、それよりも長閑(のどか)で、安定し、肥沃な大地が広がっていた。魔王国の人々も何の疑いもなく俺達を受け入れてくれ………にも拘らず俺の仲間と後から来た聖王国の兵達はそんな人々に剣を向け、傷つけ、魔王国の隣の国との国境近くにある村を制圧し、奪った。世界を滅ぼそうとしている魔王の国なのだからと、はじめは俺も納得していた。しかし次の村へ行った時、ある少女に出会い…………」


 ………長い。


「……それで俺は一旦聖王国に戻り、聖王に問い(ただ)した。すると急に聖王達の態度が変り、俺は仲間だった者たちによって捕まり牢に入れられた。だがなんとか牢から抜け出すことが出来た。幸いにして俺は勇者だったこともあり、この剣と鎧は常に俺の元にあったからな。これは俺だけの聖剣と聖鎧。これがあったから俺はここまで来れた。俺はとにかく行ったことがあり且つ、魔王国以外で聖王国王都から離れた場所まで行こうと転移の魔法を使った。途中、村にも立ち寄ってみたのだがな、聖王国では既に俺はお尋ね者となっていてまともに旅支度を整える事も出来ず、バレる前に買う事が出来たわずかな食料を持って逃げた。目に見える範囲でなるべく遠くに何度も何度も転移を繰り返し、ついに3日前に手持ちの食料も魔力も尽き、今朝方行き倒れとなってしまったんだ」


 ……………長かった…。


「その御大層な剣で魔物を倒し、そのお金で他の村や町で食料を買えばよかったのではないですか?」


 とてもイラついた様子のタルタが、勇者に言った。


 そうだよな。

 勇者の話からしたら、タルタは無抵抗な同族を勇者たちに傷つけられたことになる。

 タルタが怒るのも無理はないか。


 それでも勇者の状況からしたら、一応召喚主である国から騙されていたことになるわけで、怒るに怒れないのか。

 こうして間違いに気付いて、その聖王国と言うところから逃げ出して来たみたいだし。


「それが…聖王国では国中の小さな村々にまで『勇者は魔王に洗脳され、魔王の配下になった』とふれを出したようで、また捕まりそうになったり、武器を向けられたりしてな……。聖王国を出るまでは人里に立ち寄ることも出来なかった。人を避けて行動をしていた為、聖王国を出たことにも気付かなかった」


 なるほどねー。

 聖王国ってところは情報管理が徹底しているような。


「聖王国は昔から魔王国の周辺国と共謀して、魔王国の肥沃な領土を狙っていたのです。聖王国は連作障害でたびたび飢饉にみまわれていますから。神に祈ったって連作障害はどうにもならないのに、こちらが提案したことは、邪道だとか言って一切受け入れずに、神からのお告げがどうのとか言って他国の物を奪おうという愚行。魔王国のあの村々を奪ったところで数年でまた連作障害で作物は育たなくなるのに」


 怒ったような悲しいような、やるせなさそうな顔でタルタは言った。


『わたくしはそんなお告げは下していませんが。そもそもあの聖王国と言うところには一度も神託を下したことはありません。あの国は勝手に神の名を騙り、勇者を召喚し、何も知らない勇者を手ゴマに使って領土を広げた国なのですよ』


 不思議だなー。

 俺にはこんなにバリバリ神託?を下しまくってんのになー。


 にしてもタルタや勇者、それに女神様の話からすると聖王国と言うところはなかなかに酷い国だと思ってしまうのだがどうなんだろうな。

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