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011 はじめての野営で夜を迎える

 


 俺は肉と具だくさんなスープだけで腹いっぱいになったが、タルタ達4人は全部平らげた上に、一応俺にお伺いをたてた上で、鍋に残っていたスープも全て完食した。

 明日の朝の分として多めに作ったはずだったんだけど……まさかそれでも足りなかったか?


 夜の見張りはタルタとジーントーレスが交代で務めることになった。ケルクとクレアは昼間馬車を牽いているし、まだ戦い方も知らない子供だしと言うことで話し合いの結果、今の所は見張りをしなくていいことになった。

 ケルクとクレアは荷車内には乗り辛いようで、地面に麻袋を敷いて、その上に横たわり、馬体部分に毛布を、人の部分にマントを被って寝るようだ。


 見張りは前半がタルタ、後半がジーントーレスになった。はじめに寝るジーントーレスも、地面に麻袋を敷いて、毛布を被って寝るようだった。

 そういうものなのかと思って、俺も麻袋を敷こうとしたら、すでにタルタが俺の寝床を、馬車の中に整えていた。


「俺だけ? これだけ広いんだから、皆も中で寝ればいいんじゃないかな」


「いえ! 我々は奴隷です。主様と同じ場所では……」


 と、言われ、遠慮しなくても良いと、さらに言ってみたのだが、頑なに断られてしまった。

 なんだか心苦しいまま、俺は眠ることになった。





「っ、ぐ、………、ァ、アァ、ガ、っ、うぐ……っ」


 眠ってからそんなに時間は経っていないと思う。

 外から苦しそうな声が聞こえる。


「ジーントーレス!」


 タルタが異変に気付き、ジーントーレスに声を掛けている。


 俺は起きて馬車から降り、ジーントーレスが寝ているところへ行くと、そこにはドキリとする光景があった。


 半透明な、とてもグラマラスで妖艶な美女が、ジーントーレスに馬乗りになっていた。


「この! ジーントーレスから離れなさい!」


 タルタがその女性に向けて、斧を豪快にブンブン振り回しているが、スカスカと通り抜けてしまって、どうにもならない。

 ジーントーレスは顔色が悪く、動けないのか、それとも寝ているのか、抵抗もしていない。

 無抵抗なジーントーレスに妖しく体をしならせながら馬乗りになっている半透明の妖艶美女はジーントーレスの体に全身ですり寄りはじめ、15歳未満、もしくは18歳未満が見てはいけない光景になりつつある。


 俺はそんな半透明美女をジッと見すぎていたのかもしれない。

 鑑定スキルが仕事をしたようで、半透明美女の近くに文字が浮いて見え、そこには


【レイスクイーン】


 と出ていた。

 何かのネタ要員だろうか。

 ………レースクイーンが脳裏にチラつくんだけど。


 でもってなんか思っていたレイスと違う……。

 これなら呪われてもいいかも……と一瞬頭をよぎったが、すぐに打ち消す。

 ジーントーレスの顔色がますます悪くなっている。


「タルタ、少し離れて」


 俺に言われて、斧を振りまわしていたタルタが、ジーントーレスから離れ、俺の隣へ並ぶ。

 それから俺は、昼間女神様に教えて貰っていた事を実行する。

【レイスクイーン】と表示された、半透明妖艶美女に向けて


「ホーリー」


 と魔法を唱える。

 すると、物凄い光が半透明妖艶美女たるレイスクイーンに降り注いだかと思うと、レイスクイーンは驚いた顔をし、苦しそうにもがいて、それから光が消えるより少し前に、レイスが消えていなくなり、同時にコロンコロン、と何かが落ちる音がした。その数瞬あとに、光りはスゥ……っと消えていった。

 タルタと一緒に、ジーントーレスの様子を見てみると、顔色も悪く、浅く早い呼吸を繰り返している。あわてて俺はジーントーレスに向けて


「ヒール」


 と唱えた。

 ジーントーレスの顔色が見る見る良くなり、安らかな寝息を立て始めた。

 一応確認の為に、ステータスの奴隷の項目の中のジーントーレスを見てみれば、下の方にあった”レイスの呪い”が消え、体力と、ついでに何故か魔力まで全回復していたので安心した。

 ジーントーレスの側には拳大の、綺麗に透き通り、中が不思議とキラキラ輝いて見える藍色の魔石?と綺麗なカッティング加工の施されたクリスタルっぽい小瓶と、魔石っぽいものより大きな、察するに革袋に入ったお金が落ちていた。


『わざわざステータスの奴隷の項目から確認するのではなく、スキルの「鑑定」を使えば手っ取り早く相手の状態の確認ができますが……』


 夜中でもきちんと俺を見守ってくれている女神様のつぶやきが。


 それ、早く教えて!

 そもそもスキルとか魔法とかの詳しい使い方教えて貰ってないですよ?!


 タルタ達がいる手前、独り言だと思われるのが怖くて女神様に話しかけられないし。女神様の存在がこの世界ではどういうものなのかもわからないうちに、タルタ達には言えない。いくら奴隷と言えど、嫌われたくない。宇宙との交信に匹敵するような、神様からの声が聞こえる…って、そういうの、信じて貰えるかどうか。コソコソと喋ってもヤベェヤツ認定されそうだし。


「………聖魔法まで……っ、ご主人様は一体……」


 再放送でよく観る時代劇のご隠居を見るような感じで言わないでほしい。そんな大層な人間じゃないんです。ただのぼっちなコミュ障なんです。


「あの……大丈夫ですか? 何やら物凄い光が見えたのですが……」


 同じ野営場にいた各組みの見張りの人達が様子を見に来た。


「すみません。レイスが現れたもので……ご迷惑を考えず……」


「れ、レイス?! 現れたのですか?! ……そんな……こんなところにレイスが現れたなんて……!」


「あ、いえ! レイスは、ァー……ご主人様が聖魔法で滅しましたので大丈夫です! このあたりには今のところ、他の魔物の気配もありませんし、大丈夫です、ご安心ください!」


 俺の発言に周囲が混乱し始めたところに、タルタが冷静にきちんと説明をしてくれた。

 ありがたい。


「それではあなたは聖魔法使いなのですね?!……あぁ、良かった。たまたま貴方がここにいてくれたおかげで我々は助かった……!」


 すみません。

 レイス連れて来たみたいな感じになってしまいました。

 余計な不安を煽ってしまった……。


 こちらのせいだと言えず、笑ってごまかし、その場はなんとか治まった。

 さて、改めて寝ようと馬車に入ろうとしたら、声を掛けられた。

 さっきの見張りの人達とは違う、商人組の雇い主と思われる人だ。


「聖魔法使い様、夜分に失礼と承知で、お願いがございます。どうかこれで聖水を作っては下さらないでしょうか。魔法使い様が倒して下さったとは聞きましても、レイスが現れたとあって、不安になってしまいまして……」


 差し出されたのは、これまた綺麗な形の小瓶。

 中にはエメラルド色の液体が入っている。


『ポーションですね。ポーションに聖魔法をかけると聖水になるのですよ』


 聖水ってそうなの?!

 と思いつつも、迷惑をかけてしまった手前、苦笑いで誤魔化しつつ受け取ってしまった。


「はい、いいですよ」


 と引き受けると、他の人達も、1瓶ずつ持ってきた。

 他も見張りの人ではなく、雇い主である商人や冒険者パーティのリーダーっぽい人達だ。


「すみません。私どもにもお願いできないでしょうか」


 もちろん、お願いされる。


 預かった小瓶を1か所にまとめて、ホーリーをかけた。

 するとポーションが輝き、その光が収まると、エメラルド色の液体だったはずのポーションは、透明な、虹色に輝く謎液体になっていた。


「……おぉ……こんな純度の高い聖水ははじめて見ました…教会の最上級聖水……いや、それ以上の輝きだ…!」


 そう……なのか?

 本当にこの色大丈夫なの?

 ……いや、もう、まぁ、いいや。

 そういうものだと受け入れますよ。

 魔法ってすごいんだなーって。

 いちいち疑問に思って(ツッコんで)いたらきっと沼る。


「まさかこれほどの聖水を作って頂けるとは……ではこちらをお納めください」


 聖水と引き換えに、金貨5枚貰った。

 他の人達から同じように貰って、合計で金貨20枚手に入った。

 みんな嬉しそうにそして大事そうに聖水を胸元に抱えてそれぞれの野営に戻って行った。俺は両手に金貨を乗せたまま、しばらく茫然と立ち尽くした。


 なぜこうなった。


 罪悪感で胸がいっぱいになりかけたが、あまり考えないようにしてさっさと寝ることにした。







 翌朝早くに目が覚め、馬車から出ると、ジーントーレスが起きていた。というか、後半の火の番兼見張りをしていたんだよね。

 ありがとう。


「おはようございます。主様。昨晩は……ありがとうございました」


 そう言ってジーントーレスは頭を下げた。


「いいよ。俺はジーントーレスの主になったんだから、当然のことをしただけだよ。それより、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」


 と、俺は、ジーントーレスの前で、カバンから、ひと抱えの肉を4つ出した。


「これをさ、配るの手伝ってもらえないかな。昨晩、お隣さん達に聖水作りを頼まれて、作ってあげたらお金たくさん貰っちゃって……申し訳ない気持ちになっちゃってさ。だからこの……高級だってジーントーレス達が言っている、この肉をおすそ分けしようと思うんだ」


「そうですか……すみません、俺のせい、ですよね。タルタから少し聞きました……。了解です」


「いやいや、ジーントーレスのせいとかじゃないから! 俺がはっきり言えない性格なだけだからそんなに気にしないでよ」


 耳がペタンと、尻尾がだらんとして見るからに気落ちしているジーントーレスに俺は気が利く言葉を掛ける事は出来なかった。

 もっと俺にコミュニケーション能力があればと悔やまれる。

 すまん。





 ジーントーレスに肉を運んで貰い、早速お隣さん達に肉を配る。

 皆さん大荷物を荷車に詰め込んでいる辺り、アイテムボックスとかは無さそうで、あまり大きな肉塊を配るのは逆に迷惑かとも思ったけど、高級みたいだし、皆さんそれぞれ5~6人のパーティ、もしくは商人と護衛っぽい人達だったし、皆で食べれば今日中には消費できる…よな!


「これは……?」


「昨晩、聖水でたくさんお金を頂いたので、おすそ分けです」


 お隣さん達や他のグループの方々もぼちぼち起き始めた感じで、早いところでは昨日のスープを温め始めていたところだった。


「いえいえ! あれは教会で金貨5枚する最上級聖水よりも純度の高い聖水です。こう言っては何ですが、相場通りの金貨5枚では心苦しい程です。こちらこそ申し訳なく思っていたのですが………それでもこちら、頂けるのはとても嬉しいです。正直干し肉と芋ばかりの食事に飽き飽きしていたところでして……かといってせっかく買いつけた商品に手を出すわけにもいかず……生肉なら、この先の街まで持ちませんし、食べてしまっても悔むこともありませんからな。ははは」


 さすが商人、それとももともとおしゃべりなんだろうか。いろいろ話してくれた。


「ちなみにこれは何の肉なんでしょう?」


 そうだよな。わからない肉は貰っても食べづらいよな。


「コカトリスの肉です。昨日たまたま倒すことが出来ましたので」


「っ! なっ、こか、こか、コカトリス?! ……さ、さすがは魔法使い様と言うところなんでしょうな。それにしても……コカトリス……SSクラスの冒険者5人以上でやっと倒せるかもしれないと言う……。倒せたとしても、肉のドロップなんておとぎ話でしか聞いたことがありません。それがこの手に、コカトリスが……! 売ったらいくらに……いやいや、街に着くまでに腐ってしまう……だったら食べ……いや、売って……いや、いやいや……」


 なんだかいろいろ混乱したご様子だったので「それでは」と俺は挨拶し、他の方々にも同様に配り自分たちの所へ戻った。


 馬車に戻り、昨日洗って仕舞っておいた鍋を出す。

 朝食はスープとパンで良いかな。


「俺が持ちます。……鍋をどうするんですか?」


「ありがとう。うん、朝食用にスープを作ろうかと思ってね」


「朝食も作るんですか?」


 と言うことは普通作らないんですか……?

 周りの人達は作ってるみたいだけど……。


「うん。簡単なものだけど、出来る限り温かいものを食べれるときは食べたいからね。せっかく火もあるんだし」


 俺がそういうと、ジーントーレスは何故だか困ったような、それでいて嬉しそうな笑顔で、


「わかりました」


 といって、一緒に作ってくれた。


 鍋を火にかけ水を入れ、昨日買った、燻されてシナシナになった大きめの固いソーセージを5本、ジャガイモ5個を鍋に入れる。他にも何かなかったかと保存食が入っている袋を漁ると、キャベツが入っていたので、半玉分を食べやすい大きさにザクザク切って、それも鍋に入れた。

 あとは煮えるまで待つだけだ。


 待っている間、朝の支度をする。

 起きてからすぐにすれば良かったんだろうけど、昨日の金貨の申し訳なさが先に立ってしまって、寝起きのまま肉を配ってしまった。

 顔を洗って、髪をなんとなく手櫛で整え馬車の中に戻り、服も着替えることにした。

 道具屋のオヤジが気を利かせてか、村人風の子供服を入れておいてくれたのだ。それから土埃避けなのか、布で出来たマフラーのような物もあったから、それも首元に巻くと、何故か取り外しができなかった、魔法使いバレする魔生石の付いた首飾りが見事に隠れた。

 道具屋のオヤジよ、ありがとう。


 せっかくだからここで生活魔法を試してみることにした。

 生活魔法と言えば洗濯かなって思って、脱いだ貴族服を、洗ってみることにした。

 服を洗うイメージで……なんて言えばいいんだ?

 とか思っていると、服がぐっしょり濡れていた。


「これは……」


 洗えているのか?

 じゃぁ次は乾かすイメージで?

 すると服が乾いた。

 心なしかアイロンがけまでされているのではと思えるくらいピシッとしている気がしなくもない。

 なんだかすっかり新品な感じだ。うまくいったようで良かった。


『「ランドリー」もしくは「クリーニング」と唱えれば洗いも乾燥も一気にできましたのに。あぁ、おはようございます』


 ……だから、頼むから俺の行動を見ていたなら、前もって教えてほしい。いや、聞かない俺も悪いけどさ!

 ……おはようございます。

 なんだかんだ心で言ってますが後手だろうと教えてくれるのはありがたいです。


 綺麗になった貴族な洋服をカバンに仕舞い、馬車から出た。

 双子も起きたようで、鍋の前にジーントーレスと三人で座っていた。


「ご主人様、おはようございます」


「おひゃにょうごじゃいまひゅ」


 俺に気付いたケルクとクレアが挨拶をしてくれる。

 クレアの噛み癖? が酷い。


「おはよう。よく眠れた?」


 夜中のジーントーレスのアレコレのときは起きた様子もなかったけど……。


「はい。ぐっすり眠れました」


「わ、わたひも!」


 綿紐……?

 嘘です。『私も』ですよねー。


「それは良かった。今日もよろしくね」


 と言うと、二人は「はい」と元気に返事をした。そこへ


「あっ、す、すみません! 寝坊してしまいました!」


 とタルタが起きた。


「まだ寝てていいよ。朝食出来たら起こすから」


「いえ! そんなとんでもない!急いで支度します! あ、私は何をしたらいいですか?!」


 うーん。これはちょっと考えなくちゃなー。

 夜の見張りをするジーントーレスとタルタの睡眠時間が足りているのかどうか。きっと昼間の移動中寝ていいよと言っても寝なそうだし。

 俺が夜早めに寝て、朝は遅めに起きればいいのか?それはそれでなんかツラいな。いろいろやってみて良い方法考えていけばいいか。


「じゃぁまたもう一つ火をおこしてくれる? で、フライパンでこの固い黒パンを蒸し焼きにする」


 不思議そうな顔をしながらも、「はい」と返事をし、タルタは俺の言う通りにする。

 こっちのスープ作ってる鍋はもう煮えているっぽいので、塩で味を調えて火からおろし、フライパンを火にかける。

 保存性なのかわからないが、とにかく固い黒パンを、横から上下に別れるようにスライスする。それをフライパンに並べて、パンの上にまんべんなくチーズを削り落し、パンを並べた隙間部分に水をちょっと垂らして蓋をして2分くらいかな。蓋を開ければ良い感じにチーズが溶け、なんとなくパンもふっくらして見える。持った感じもちょっとは柔らかくなっている気がする。

 俺の作業を見ながらタルタも同じことをする。その間にジーントーレスと双子がスープの準備をし、全員分用意が出来たところで、パンもみんなの分蒸し焼きにし上がった。それをみんなに配って、朝食となった。


「朝食もとても美味しかったです! あーすると固い黒パンも、フカフカになるんですねー! チーズが乗っててサイコーでした! スープも朝から具沢山だし……ソーセージおいしかったぁ……」


 どうやら喜んで貰えたようだ。

 スープはキャベツとジャガイモとソーセージしか入ってなかったんだけど……。


 食事が終わったら速やかに後片付けをして、同じ野営地にいた人たちに挨拶をして、すぐに出発した。

 その際肉を食べた方々が、とても興奮した様子であまり何を言っているのかわからなかったが、「肉がとてつもなくおいしかった」と言われた部分だけは聞きとれた。あとは笑って誤魔化し、サヨナラした。

 ケルクとクレアは元気に馬車を走らせた。


 うん。やっぱりハイスピード。



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