仮想“真珠湾攻撃”ー原点がここー
ゲームをしていたらその世界に引きずり込まれてしまった。
艦隊を編成している途中だったのに……。
「……ん。ちょ……っ!」
「う……、ううん……」
「長官! 気づかれましたか!?」
「ん……? ここは?」
「ここは戦艦“長門”の会議室です」
「な、がと?」
「はい。長官」
ガタッ! と立ち上がってすぐ周りを確認する。
狭い閉鎖空間に丸い窓、外には海が見え、目の前では大量の資料と海図が散乱している状態。それを取り囲むようにかなりの人数がいた。
「ど、どうされたのですか長官?」
「ちょ、長官!? 俺が!?」
「そ、そうですよ。森泉長官」
お、俺が長官……。
あ! もしかしてここは……。
海軍連合艦隊のシュミレーションゲームの中ッ!?
「い、今は何年何月何日だ!?」
「一九四一年十月一日ですが……それが何か?」
間違いない。
俺がゲームの中で艦隊編成していた日付と符合する。
「や、山本長官は……?」
「自分が山本ですが……長官。どうかされたのですか?」
山本五十六元帥が俺の参謀長!?
しかもいろいろと対応して、起こしてくれたのもこの人とか。
一体どういうわけだ!?
「とにかく、森泉長官! 編成を急ぎましょう!」
「はっ……艦隊編成か」
とにかく今は艦隊を再編成して訓練と南方牽制のための艦隊を送らなければ。
状況がゲームと一緒なら、史実通りとはいかないはずだ。
とりあえず現状把握に努めよう……。
「確認するが、すべての艦隊編成をするのだな」
「はい。現在の呉には第一、二、四艦隊と第一、二、四航空機動部隊、第五、七水雷艦隊の艦艇が停泊していますが、重巡“鳥海”を旗艦とした第三艦隊は台湾に、アリューシャン方面に軽巡“天龍”を旗艦とした第八水雷艦隊、トラック諸島には重巡“青葉”を旗艦とした第五艦隊がそれぞれ哨戒任務中です」
艦隊が哨戒中ともなれば一日二日では戻ってこれない距離だ。
この三部隊はこのまま継続してもらおう。
「それで、編成可能な艦艇はどれくらい、ですか? 簡単でいいので教えてください」
「は、はい――」
実際の軍人を前にして変な言葉になってしまった。
立場としてはこっちが上だが……歴史上の大英雄、年長者を相手に普通にできないぃぃぃぃ!
「任務中の艦隊を除けば、戦艦一六隻、空母八隻、重巡二二隻、軽巡二八隻、駆逐艦四七隻、潜水艦三二隻です」
「…………?」
あれ? ゲームでしていた頃の艦艇数と合わない……?
「ですが、敵国となりうるアメリカとの戦力差は一対五です」
「な、んだと……」
「これも、無茶な要求だった海軍軍縮条約の結果です」
軍縮条約だと!? ゲーム、正史でも戦力比は一対三ないし二というものだったぞ!?
これじゃあ、どんな編成したって勝てるわけがない……。
「戦力比では負けています。が、考え方を変えるのも得策ですよ」
「だったら……アレをやるしかない」
「アレ?」
こんだけ、戦力差が開いたのだ。
無茶も承知。
博打でも何でも打ってやる!
「正規空母すべてを持って敵アメリカの拠点であるハワイ真珠湾を強襲。戦艦部隊を持って徹底的にこれを叩く!」
それを言った瞬間、連合艦隊首脳部は一気に凍り付いた。
仮想“真珠湾奇襲作戦”の原点がここにある。