定められし
あれから2人は頻繁に彼に会いにいった。仕事の終わり、始まりに会えれば話しかけたし、冒険者ギルドでなくても、偶然道で会えば声をかけたりもした。そんなフランの努力が実ったのか、次第にだがマルク自身からも話しかける事も増えて来た。割合で言えばほぼフランが9マルクが1という感じだが、それでも確実に結果がでていると実感をしていた。そんなある日マルクと別れ2人が宿に帰宅しているとき。
「レニーたまには笑顔で話しかければいいのに、いつも横でムスッーとして見てるだけなんだもん」
不満げなフランの表情にレニーは苦笑しながら応える。
「言ったはずだ、私は監視しているだけだと、しかし、効果あるのか、私の目には効果が出てるとは感じられないのだが」
「効果あるよ!だって、マルクが話しかけてくるようになっただよ」
レニーは指の上に顎を乗せ。
「確かに・・・」
レニーは未だ迷っている。マルクの扉はいまだ変わらない。だからこそ国に言って討伐すべきなんではないかと。もしかしたら、人類の希望はここで最後かもしれないと。それと同時にフランの言うとおり、マルクは悪人に見えないのもまた事実だ。ずっと横で見ていたレニーはそう思えた。そもそも魔王の定義とはなんだろうか、悪人でなくても魔王になれるのでは、今やっていることはまるで意味がない。
「もうマルクと出会って半年か・・・」
フランが感慨深く言葉を呟く。そしてレニーの頭にその言葉の意味が浸透した頃に思考が止まると同時に冷や汗が湧き出る。「半年」とフランは言った、半年という期間が経って扉がまったく開いていないということはおかしいのではないのか。いや、もしかしたら気がつかないうちに少しずつ開いてるのかもしれないが、それにしても人間の寿命で完全に扉を開くのは不可能に近いのではないのか。半年で目に見えないほどの開きならば、人の一生では到底足りない。
「でも、どうしてマルクが魔王候補だと思ったの?」
思考しているレニーにわかりきった質問をしてくる。
「それは、あれほどの深い闇ならば、そう思うのは当然だろう」
フランは首をかしげる。
「でも、魔族なら属性は当然闇よね?大抵人の姿をしているのだから、魔族と普通は断定するものじゃないの?」
レニーはゆっくりとフランを見る。視線が合い、首をかしげているフランがはっきりと映る。レニーを見てだろう。
「ねえ、大丈夫?顔色が悪いよ」
「ああ、大丈夫だ」
蚊の鳴く声で答え。なにかがおかしいと警鐘を体の中で鳴らす。おかしい、言われるまではそれが当たり前と思っていた事柄が、まさに一言で崩れた。確かにこの目は特性を見ることはできる。どんな属性の魔法だろうと看破できる。そしてそれに合わせて自分もまた攻撃手段を変えるのだ。そしてそれ以上の力はない、相手の種族を断定する力はないにも関わらず。私はマルクを魔王候補とはっきりと判断した。
考えれば考えるほど、全てがおかしいと思えてくる。まるで手のひらの中で踊っている様な錯覚に陥る。
「戻るぞ・・・」
「えっ?」
フランの返事を聞かず、レニーは駆け出す。慌ててフランも駆けながら問いかける。
「どうしたの急に?」
魔道士であるレニーは戦士であるフランの脚力に遠く及ばない。あっという間に追いつかれてしまう。呼吸が苦しく、あまり声を出したくないレニーは一言だけ。
「夢なんだ。私達は夢を見ていた。そして夢から覚め現実に戻される。マルクがやばい」
必死に駆けながら答えるレニーの表情を見て、フランも表情を引き締め駆ける。