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定められし魔王  作者: かきね
2/5

決断

「何があったの?レニーがそんな表情をするなんて」


 レニーはそれに答えず、人気のない端っこの円卓の机の椅子に腰を掛ける。それに着いていく様に、フランもまたレニーの前に腰を掛ける。


「レニーどうしたの?ねえ」


 フランはレニーの顔を覗き込む様に見る。レニーの表情は青ざめている様に見え、汗が幾筋か流れている。


「レニー!どうしたの?具合悪いの?」


 苦笑を浮かべやっとレニーは口を開ける。


「落ち着け、私は大丈夫だ。少し動揺しているだけ、しばらくしたら落ち着く」


 そう言ってレニーは膝に置いていた手を見せる。フランにもはっきりとわかるほど手は震えているのが見て取れる。これほどまでにレニーに異変があるのは見たことがない。また問いかけ様として、口を開ける。ただそれよりも、レニーのほうが言葉が早かった。


「あの男には関わるな」


 レニーの言葉はそれだけだった。フランは意味が分からず言葉が詰まる。


「フラン、お前は知っているだろう。私の生まれ持った力を」


「天眼の目の事?」


 レニーは頷く。


「そうだ、私の目には幻惑等通じない。そして私にはその者の特性が見える」


 レニーは大きく息を吐き出し、言葉を続ける。


「あの男はまずい。いやまずいなんてレベルじゃ済まされない。世界が滅びるかもしれない」


「何を言ってるの・・・?」


「私がこの冒険者ギルドに入ってお前たち2人を見て、やばいと思った。他の者には例えわからなくても私には分かる。だから引き離したんだ」


 レニーは唾を飲み込む。


「あいつは恐らく魔王候補だ」


 一瞬フランは何を言ってるのかわからなかった。それでもレニーの言葉は止まらない。


「あの男を初めて見たとき、最初はただやばいと思った。でもそれだけじゃなかった、深い深い闇。深淵があの男に秘められている。あれほどの闇を持つ者は私は見たこともない。考えられるのはただ一つ、魔王候補だけだ。そして時がくればいずれ魔王となる。それは避けられない」


「マルクは人間よ、魔族ですらない。それが魔王候補?いくらなんでも冗談にしては面白くない」


 フランの表情を冷めた視線で見るレニーに肌が粟立つものが感じられた。それでもフランの心の中ではとても信じられない思いが大きい。


「あの男を見てどう思った?何か変なところはなかったか?」


 ついさっき会ったばかりで詳しいことはわからない。ただ思い出せるのは周囲の異常な非難。


「彼に変なところなんてなかった。むしろ周りが変。まるで彼を嫌っている様に笑い、汚い言葉を投げつけていた」


 レニーは頭を横に振る。


「フランそれは十分異変なんだよ。見たところあの男は、それをまるで当たり前の様に受け入れてたんじゃないか?」


「それは・・・」


 言葉に詰まる。レニーの言葉が正しいと思ってしまう。それでも、彼は世界を滅ぼそうとしているとは到底考えられない。


「いいかフラン、あの男は庇いたい気持ちがあるのは分かる。しかしだ、理由もなく人を嫌う。それも大勢がだ。それはありえないことだ。周囲の人は別に理由もなく嫌っているわけじゃないんだ。あの男からかすかに感じられる闇を恐れているからなんだ。今は扉が開けられていない、だからその程度。もし開けられていたら、周囲の者はまともに立っていることすら出来ない。それが魔王というものなんだ。唯一前に立つことができるのは、かつて500年前に魔王を倒した英雄と呼ばれる者」


 レニーはフランを見る。


「そして、フランの様に光の祝福を受けているものだけなんだ。お前は別に何とも思わなかったかもしれない。だがそれは違う、お前は守られているから闇への影響が少ないからなんだ。それがなければお前とて・・・」


 もう聞きたくなかった。フランは席を立ち出口へ向かう。


「フラン!」


 レニーに向き直り。


「私は私を信じる。彼は悪人にはみえない」


 フランは歩を進めながら思い返す。マルクの様子を。彼が悪人ならばきっと非難する者を憎むだろうし、そして私の声に耳など傾けなかったはず。マルクはそのどちらもしていなかった。むしろ、悲しみを我慢しているとしか見れなかった、だから声をかけた。とても非道い事をする人には見えなかったから。


 色々考えことをしている中、後ろから声が掛かる。


「フラン、私はこれから王府に向かう」


 驚き急いで後ろを向く。


「なぜ・・・?」


 恐る恐るフランは問う。答えなどわかりきっていることなのに。


「王に謁見し、魔王候補が現れた事を証言し、討伐してもらう」


 大抵の人間はレニーの言葉が正しいと言うだろう。それでも言わずには入れなかった。


「マルクは人間!何故そんな事を言うの?」


「ならばどうしろと言うのだ?世界が滅びるのを待てというのか。500年前の様に英雄が現れるとは限らないんだぞ」


 レニーとフランの真剣な視線が交差する。


「私はマルクを信じる」


 レニーは頭を振る。


「お前は馬鹿だ・・・」


「馬鹿でも結構。私がマルクを魔王になんかさせない。そしてレニーあなたにも彼が魔王なんかじゃないって認めさせる」


 大きなため息をつき。


「好きにしろ、もう私は知らん。だが後悔だけはするなよ。お前の選んだ道だ」


 レニーの言葉が終わるか終わらないか、フランはレニーに抱きつき。


「ありがとうレニー、だからあなたは好きよ」


 体格差あるレニーは急な重みに少しよろつき。


「私は認めたわけではない。監視し見極める。それでやはりと思ったら、覚悟はしとけ」


「うん、うん」


 レニーにとってもフランにとってもそれは大きな賭け。レニーはフランに賭け、フランはマルクに賭けたのだ。両者にとっても大きな不安は残る。レニーは隠していることが一つある。マルクはまだ扉の隙間が開いているだけにすぎない、時間の猶予がまだあると確信していたからだ。もしこれが半分ほど空いていれば、フランの言葉に耳を傾けなかったことだろうが、まだ大丈夫という安心感が根底にあった。


 人間、エルフ、ドワーフ、獣人など人が過酷な地に住むために適応するために枝分かれした結果だと学者達は結論づけた。しかし、魔族だけは違った。個の力は人の種族の全てを凌駕し、どこにでも住む力がある。ただ弱点をあげるとすれば、基本魔族は多人数では同じ場所に住まず、思い思いの場所に住む特性がある。それゆえ、魔族は危険ではあるが、人は数で危険を回避することができている。それを覆すのが魔王だ。魔王の出現は魔族が集団で行動しない特性を失わせ、魔王の命令の元、行動する。その結果500年前世界は滅びかけた。寸前のところで英雄が倒さなければ世界は滅んでいただろう。





 


 

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