表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定められし魔王  作者: かきね
1/5

出会い

 カシリア王国、比較的土地が豊かな国。その中の貴族、バラミア家の5男に彼は生まれた。名はマルク・バラミア。マルクの幼少期は他の兄弟とさして変わらないほど、親の寵愛を受け周りからも大事に育てられ、明るい子供に成長していく。しかし、マルクが10歳になる頃にはそれは夢であったのではないかと思うほど、周りからそして親からも扱いが変わる。当然、マルクはそれに怒りもしたし、訴えもした。だがそれは無情にも、なにも効果がなさらないだけではなく、時が流れるにつれ、はっきりと子供であるマルクにも理解できるほど邪険にされていく。いつしかマルクは笑わなくなった、怒りもしなくなった、泣きもしなくなった。


 当たり前の様に食事中にも関わらず、皿は勝手に回収されても当たり前の様に受け入れる。それが毎日の事なのだから。親が他の兄弟に愛を注いでも決してマルクには近寄ろうとはしない。ある日、マルクは久しぶりに親に呼ばれた。それはマルクが15になる日でもある。僅かな期待がマルクの心を揺れ動かし、親の元に向かい、親が言った言葉はマルクの心を完全に壊すに等しい言葉。


「家を出て行け」


 それが久かたぶりに聞いた親の言葉だった。マルクの心の大半を占めたのは嫉妬、憎しみ。上の兄弟には絶対言わないであろうその言葉はただ一つの希望すら打ち砕いたのだ。マルクはただ無表情に頷く。それが当たり前の様に。僅かな路銀を持たされ、その日のうちにマルクは家を出る。誰も別れの挨拶することもなく、一人家を出る。


 幸運な事と言えば、彼は貴族の家の者だったという事だろうか。最低限の教養と知識を身に付け。また、剣も教えられていた。僅かな路銀で、武器を買い、そして誰でも上を目指せる、冒険者の道を歩む。日々の糧を得る為に毎日剣を振るい、日々の生活を支えて生活して3年の月日が流れる。


 マルクは18歳になっていた。いつもの様に冒険の依頼を果たし、換金の順番が来るのを待っている時、いつもの様に周囲からは嘲り、嘲笑が聞こえる。それはマルクを非難する声であることは毎日の様に聞いているので分かっている。確かにマルクの冒険者の資質を問われれば今だ、下の上と言ったところだろ。それでも、ここまで非難するのは、マルクただひとりだと3年も冒険者をしていれば自ずと理解する。理由はわからない、ただそうなのだと納得する。マルクの心はもう完全に他者を敵、もしくは無視する対象なのだ。こちらから何もしなければ、周囲はそれ以上なにもしてこない。ならば気にしなければいい。ただそれだけの事。


 お金を受け取り、その場を離れようと歩を進めると。


「何がおかしいの!?彼が一体なにをしたというの?」


 部屋に大きな声が響き渡る。


 一瞬で嘲笑の声が静かになり、またマルクも目を丸くし、その声の主を見る。声の主は女性。そして綺麗な金髪の長い髪、男なら誰でも一瞬惚けてしまうほど、美しい女性。


 静かになった部屋を見渡し、女性はマルクに足を進め。


「大丈夫?」


 女性はそうマルクに問いかける。そして心配そうな表情をし言葉を続ける。


「この街は止めたほうがいいわ、あなたがなにをしたかは分からないけど、さすがにこれはないもの」


 マルクはただ横に振り。


「大丈夫」


 マルク自身それはすでに試しているのだから。しかし、結果は同じだ。だから、彼女の提案は彼にとってはいい提案ではない。かといって、心配されるのは久かたぶりなのだから、言葉と態度で返す。いつもなら頷くばかりのマルクにとっての最大の返事のつもり。


「そう?ああ・・・、私はフラン。私も冒険者をやっているの。よろしくね」


 フランと名乗る女性は手を前に差し出す。


 一瞬狼狽えるが、マルクもまた応える様に、手を出し彼女の手を握る。


「僕はマルク、よ、よろしく」


 ニコリとフランは微笑み。


「これで友達ね。なんでも言ってね、愚痴くらいならいくらでも聞くから、ね」


 マルクは戸惑いながらも、頷く。と同時にフランの肩を誰かが掴んだ。掴んだ相手は小柄な魔道士風のローブと帽子を身につけた女性。フランはその相手を見て。


「レニー、今着いたの?遅かったじゃ・・・」


 フランの言葉を遮るように、レニーと呼ばれた女性は口を挟む。


「フラン、用事があるんだ。すぐに来てくれ」


 切迫した表情で訴えかける、レニーを見てフランは一瞬マルクと交互に見て。


「マルクごめん、また今度話しましょう。レニーがこんな表情するのはあまりないから、恐らく急ぎの話だと思うの」


 マルクは頷き。出口に向かい足を進める。


「マルク!またね!」


 フランの声が聞こえ、一瞬頬が緩みかけるが、何とか表情を変えずに出る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ