Cross-purposes
成り行きとはいえ一夜を共にした朝。
先に目覚めて寝顔を堪能していたら起き抜けにこう言われた。
「……なんでお前がココにいんの?」
ギシッ、とベッドを軋ませて睨み付けられ、昨夜の甘く優しい姿との差に泣きそうになる。
社内の人間の大半に嫌われているのは知っていた。出所すら不明な噂は瞬く間に広がり、信じてくれたのは付き合いが深かった数人だけ。その数人の中に彼も入っていると思っていたけど、違うかったらしい。
『そんなに私の事が嫌いなら、なんで誘ったの』
唇からこぼれ落ちそうになった言葉を頬を噛んで抑え込み、なけなしのプライドで微笑みを作る。
「さぁ?」
『笑え笑え!!気付かれるな……!!』
心の声はぎゅっぎゅっと圧縮して折り畳んで隅の方に寄せる。そうして散々攻め立てられてフラフラな身体を叱咤して身形を整えると、
「じゃあね。また明日」
口の端に乗せた笑みが消えないうちに…でも、慌てる姿なんて死んでも見せたくない。
そんな馬鹿みたいなプライドだけを総動員して眉根を寄せて唸る彼に一言告げると、何事も無かったように部屋を出た。
『まだよ、まだだめ。せめてタクシーに乗ってから……』
何時もは鳴らさないように気を付けているヒールの音を響かせながら廊下を抜け、玄関に出る。タイミングよく通りかかったタクシーに乗り込んで行き先を告げて……そこが限界だった。
「ふぅ……っっ……なんでっ……」
突然泣き出した客に運転手がギョッとした顔で振り返るが構っている余裕なんてない。
都合の良いことに今日は休みだ。
泣くだけ泣いて、また明日から頑張ればいい。
ごちゃごちゃごちゃごちゃ……頭の中では色々な事が駆け巡っているけれど、泣いてしまえば全て流れて出ていってくれる。
巻き込まれた運転手さんには悪いけれど、まぁ彼らは仕事柄こんな事に遭遇することも良くあるだろうから許してもらおう。
そして彼への恋心も一緒に流してしまえばいいのだ。
バイバイ、恋心。おかえり、孤独な…でも平穏な自分。
馬鹿馬鹿しいキャッチフレーズを思い付いてふふっ、と笑えたからまだ大丈夫。
この後、追いかけて自宅まで突入してきた彼と大喧嘩して、頭を抱えるまで後三時間。




