その3
新人騎士の朝は早い。普段早起きであるリサでさえ早いと思えるくらいの早さであった。朝はまず先輩騎士よりも早く起きて掃除を始めなければならなく、その上掃除する範囲はかなり広い。そのため、まだ日の出が遅い第四月はつらいことこの上ないが、二人一組となって行うこの掃除は、互いに喋りあったりして眠気を完全に冷ます時間でもあった。
「なあ、リサ」
同じ推薦枠で入ったルミナールはここ数日で完全にリサと打ち解け、いろいろなことを喋る仲となっていた。
「何」
掃除の最中、彼はリサに喋りかけたものの、リサの方は掃除に気が向いており、彼の問いかけにぶっきらぼうに答えた。
「俺たちのあの推薦枠なんだけれどさ」
ルミナールはそんなリサを見て、まあいいかと思い、独り言のようにしゃべり始めた。
「最初親や、推薦枠をくれた伯爵さんに聞いた時は、ほぼ無条件で入れるって聞いたけれど、そんなの嘘だったな」
「ええ、そうね」
そのことについて確かにリサも思っていた。公爵から推薦書をもらった時は、確かに彼自身も言っていたが、実際には試験もあった。だが、
「私ははっきりとは分からないけれど、あの中に反体制派の貴族はいなかった?」
とリサは疑問を呈した。
「反体制派か。言われてみれば、反体制派、すなわち反王族派というものはいなかったが、近衛騎士を出すような家柄の連中やそれに連なる家柄の連中は悉く落ちていたな」
「近衛騎士を出す家柄――」
「ああ。ここは実力主義だが、近衛騎士団は伯爵以上の家柄と見目がそろっていないとダメなんだとさ」
「へえ」
「王立騎士団の団長も辺境の伯爵で、何度かあちらからお誘いがあったらしいが、断ったらしい」
王立騎士団長、の話になったときに、リサは一瞬だけ動きが止まったが、反対の方向を向いていたルミナールは気づいていなく、彼の話をつづけた。
「なんでも、幼馴染のクルックス伯爵に誘われて、一度だけ近衛騎士の仕事を手伝ったことがあるらしいけれど、その時点で嫌になったんだとか」
さすがは公爵子息、と内心リサは感心したものの、あまりその人物の話は聞きたくなかった。
「ちょっと待って。近衛騎士は伯爵以上の家柄と見目そろっていれば入れるんでしょ」
リサはその話に矛盾点を感じた。
「なんでルミナールやバジリオは近衛騎士団ではなくこちらに来たんだ?」
二人は公爵家の縁者。伯爵と同等の地位を持っていてもおかしくない。そんな彼らが何で王立騎士団に来たのかわからなかった。すると、ニッと彼は笑い、ある事実を告げた。
「俺もあいつも確かに伯爵家の出身だ。だが、北部出身なんだ。だから――」
「そもそも、反王族派」
「ああ」
バジリオの言葉を引きついたリサの言葉に頷き、
「正確に言うと反王国派だ」
と、訂正した。それならば納得がいく。彼女もまた、『北部出身』であるので、この国の現状に納得がいっていない人間の一人だ。
「お前もそうだろ。どこの出身だ、というか、アシュレイ姓というと、お前まさか」
彼はリサの目を見てそう言った。彼は彼女の出身ともう一つの顔を知っているらしい。
「そうよ」
皆まで言わせなかった。ここではご法度だ。しかし、それに気にすることなく、
「やっぱりか」
彼は笑みを深めた。
「よろしく頼む」
「ええ」
そうして、今期の推薦枠で入った三人は北部出身まで同じという事で、さらに絆が深まり、この後、ルミナールとバジリオが王立騎士団の奥深くに入り込むこととなるきっかけとなった。





