その2
今回から不定期連載(一日1回から2回)更新になります。
宿を聞いた(地図まで書いてもらった)リサは、今度こそ宿まで間違う事はなくたどり着けることが出来た。入団試験は明後日。しかし、受付は明日の午前中から始まる。なので、早めに受付を済ませて午後は試験の準備でもしようかと思った。
翌朝、警護官時代の癖で早起きなリサは、早朝にもかかわらず宿の中庭を借りて素振りや馬の手入れを行っていた。単騎で王都まで駆け抜けてきたが、剣術にしろ馬の世話にしろ、一日していないと腕が落ちるのは知っているので、毎朝必ず行っているものの一つであった。どうやら、慣れない王都での宿泊だったうえに今日からが入団試験だという事を考えると、いつも以上に朝が早かったらしく、宿の朝食までにすべてを終えてしまっていた。そのため、町の中を見ておこうと思い、昨日、親切な男に書いてもらった地図を参考に昨日腰かけた教会らしき建物の近くまで行こうと考えた。
準備を終えた彼女は、あまり音を立てないように宿の受付を通り、外に出た。どうやら、宿はかなり王都の入り口に近かったようで、迷い始める前に彼女が通ってきた道が案外近くにあることに気づいた。その後、散歩と称して街の散策を小一時間ほど行い、今度こそ宿までは迷わずに帰れた。ちなみに、男物の服を着ていたのにもかかわらず、道行く人からはお嬢ちゃんと呼ばれたのに対して、いつもの警護官の時と違ってなんだか背徳的な感情に襲われそうだった。
朝食はバイキング形式になっており、彼女の好物である豚肉を燻煙したものを焼いたものや腸詰、卵を使った焼き料理から、シンプルなサラダなど様々なものがあった。宿泊客はさまざまな階層の者がいることに気づいたが、いずれもしっかりとした服装であることから、紹介された宿とはいえども、かなり値段が張るような気がして自分自身の懐事情が少し気になったため、朝食後、女将に値段のことを聞くと、
「リサ・アシュレイさんですよね。リサさんはグース公爵から直々に、『支払いは自分の方につけておいてくれ』って言われているから気にしなくて良いのよ」
とあっけらかんと言われた。その言葉を聞いて、一気に力の抜けたリサはああ、そうでしたか、と力なく言い、お礼の手紙を書くとともに、騎士団に入ったら必ずお金を返そうと心に決めた。
その後、彼女は騎士団の詰め所まで行き、試験の手続きをとった。試験は推薦枠では筆記試験だけであり、そのため推薦枠での入団者は実際に入団してから脱落するものが多いという。受付の担当は、推薦状を持っていったリサを全身舐めるように見たため、
(こいつらを差し置いて上に行きたい)
とリサは瞬間的に思ってしまった。
受付官の態度はすごく気に入らなかったものの、たぶん女だからだろう、という理由でああるとわかっていたリサは、あえてそこで反応するようなことをせず、無事に書類を通してもらった。
「では、明日時間に遅れないように来ること」
最初から態度の変わらない受付官にいら立ちながらも、面倒くさいと思ってその場を無言で去った。
午後は当初の予定通り、騎士団の詰め所の近くにあった図書館で試験に出そうな法律関係の本を読み、復習することにした。彼女はもともと子爵令嬢である。なので、マナーとかに関しても文句を言うところもなくできており、さらに、領地内での事情により、法律に詳しくなければならず、幼いころから読書と言えば、法律関係の書籍か軍事に関する書籍が多かったのだ。
図書館の奥にそう言った本が集められているらしく、奥に向かっていくリサを好奇な視線で見るものが多かった。数時間ほど本を読みふけ、昼過ぎに図書館の外に出たリサは故郷とは違い、第四月にも関わらず、かなりの高温にぐったりとしそうだった。何とか倒れるのを防いだリサは、屋根のある屋台へ入り、冷たい飲み物とその屋台のおすすめ料理を頼んだ。彼女が入ったときには、屋台は誰もいなかったものの、仕込んでいた料理の匂いからしておいしい店であることがうかがい知れた。
「お待たせ、お嬢ちゃん」
店主は豪快に乗せられた炒め物のご飯をリサの前に置き、注文していなかったはずの甘味まで持ってきた。
「あの、私これ頼んでないんですが」
彼女は甘味は好きだが、流石に懐事情を考えると、それを買う余裕がなかったため辞めたのだ。
「いいの。いいの。お嬢ちゃんは王都初めてなんだろう」
「はい。でもなんで、それを」
「昨日の大捕り物を見たんだよ。すっげーな。うちの倅に見せてやりたかったよ」
確かにここからは昨日の捕り物を見ることが出来る。どうやら、この店主は昨日のあれを見たみたいだった。
「そうなんですか」
「おうよ。で、それで宿を聞いている雰囲気だったから、ああ、初めてなんだなって思っちまってさ」
店主は、何品か小皿料理を彼女の前に置いた。普通の年頃の姫だったら食べきれない量だ。しかし、彼女はある意味普通ではないうえに、今日はいろいろな空腹感に蝕まれていたので、もし頂けるというのなら、ありがたく頂いておくつもりだった。
「ええ、そうです」
「そうか。王都へは何をしに来たんだい。あの大捕り物をしたんだから、ただ単に観光じゃないだろう」
「ええ。一応騎士団の入団試験を受けに来ました」
「王立騎士団のか」
「はい」
淡々と述べるリサに対して、店主は驚いていた。
「すっげえな。この時期に受けるっていうと、推薦枠かい」
「はい」
その返答に持っていた食器を落としてしまったほどに、店主はさらに驚いた。しかし、女性である、という事だけで嫌な顔はされず、むしろ、
「頑張れってくれよ。その食事は入団の前祝で、また受かったら報告に来てくれよ。酒をおごるからさ」
と言われた。その言葉にリサは安堵しつつ、出された食事をおいしく頂き、店を出た。
そして、迎えた入団試験。試験官は騎士団長が本来務めるべきだが、どうやら、彼は仕事では来ることが出来ず、副騎士団長が代わりに務めていた。試験時間は2時間で、受験者数はリサ含めて10人だが、最初の説明によれば、全員が合格できるわけではなく、3人しか合格することが出来ないという。
しかし、出された問題はリサにとってみればかなり簡単な問題で、早めに解き終わることが出来た。後ろの方の座席であったリサは、見直しをしたあとで他の受験者の様子を見てみれば、どうやら彼らのほとんどは高位貴族(しかも恐らく中央貴族)だろうと思われた。彼らのほとんどからリサを追い落としたい、という感情が読み取れた。
試験時間はあという間に過ぎ、終了の合図があり、回答が回収された。一度試験官である副騎士団長は外に出て行ったが、合格発表まではわずかな時間しかなく、安全のためにも彼女は試験室の外に出るようなことはしなかった。
再び副騎士団長が部屋に現れ、合格者の名前を呼びあげる時間になった。
「規定により合格者は3名。呼ばれたものは前から隣の部屋に行きなさい」
副騎士団長――ハロルド・コランドニオンは紙に書かれた名前を読み上げ始めた。
「まず、バジリオ・ミッドクラーネ」
濃紺の短髪で赤い目をした男が前に出ていった。彼が一番この受験者の中では、彼女に対して嫌な目を向けていなかった。
「次に、ルミナール・ベゼルニア」
次に呼ばれたのは、茶色の長い髪でグレーの目をした男だった。
「そして――リサ・アシュレイ」
最後にリサの名前が呼ばれた。彼女は淡々とはい、と言い前に進んだ。途中で落ちた受験者の足を引っかけられそうになったが、全てそれを除けて前にたどり着いた。
「そこの扉から隣の部屋に行きなさい」
ハロルドがそう言ったため、彼女は迷わず部屋を出て行った。部屋を出た近くに小さな会議室があることに気づき、そこに先ほど呼ばれた2人もいた。
「やあ、よろしく」
最初に声をリサに声をかけたのはバジリオだった。
「ええ、よろしく」
リサは声をかけられると思っていなくて少し驚いたが、バジリオの方はあまり気にしていないみたいだった。
「君が入ってくれてよかったよ」
バジリオの言葉にいったいどういう意味か分からず首をかしげた。
「ああ、僕やそこにいるルミナールは一応公爵家の分家出身なんだけれど、女性というものに希望というものが持てなくて」
「おい。それは女性に対して直接言っちゃいけねえだろ」
「君もね」
バジリオの言葉に即座に突っ込んだルミナールだったが、即座に同じことをバジリオに返された。二人のやり取りを聞いていたリサは、女性に対するあれやこれやを気にせずに、
「お二人は幼馴染なんですか」
とだけ尋ねた。二人はリサの方を向き、
「うん、そうだよ」
「ああ」
と答えた。
「ごめんね、リサさん」
最初に女性に対する発言をしたバジリオが謝った。
「俺もすまない」
ルミナールも続けて謝った。リサは頭をふって、
「気にしないでください。私は国境近くの出身で、小さいころから、男の子たちに交じって遊んでいて、それの影響で女性らしいって何っていう感じで過ごしているので」
リサはあえて明るく言ったが、本当に何も気にしていなかった。が、
「あえて言うならば、私以外女性の前でそれを言っていけませんよ」
とだけ、釘を刺しておいた。二人はああ、と言ってわかってくれ、すぐに打ち解けあった推薦組の三人であった。





