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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
騎士団長と昇進試験

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その1

 生家を離れたリサは、通常の婦人方のように馬車で行けば2週間かかる行程を、単騎で5日間かけて駆け抜けた。ちなみに、この大陸ではリゼント歴と呼ばれる暦を採用していて、第一月から第十月まで存在しており、彼女が王都に出てきたのは第三月の終わり頃であった。通常、王立騎士団の入団試験は第三月の半ばに行われるが、例の推薦状を持つ者は第四月頭と第九月末に試験が行われる。そのため、リサは第四月頭の試験を受けるために、その時期に合わせて王都にやってきたのだった。

 しかし、当然王都は彼女にとって初めて訪問する土地。土地勘なんぞ全くなく、もともと軽い方向音痴の彼女は、王都に入って三時間で途方に暮れていた。

(どうしよう、このままじゃ宿にさえ辿り着けない)

 公爵に手配してもらった仮住まい用の宿の位置さえ把握していなかった。神殿か何かの石段に座り込みこれからどうしようと考えている時に、そこからそう遠くないところで女性の悲鳴が上がったのが聞こえた。どうやら、女性が襲われたか、何かを盗まれたかのどちらかの陽だった。

(さて、これは手助けするべきか)

 そう考えてしまったのは、これは自分の手に負えるかどうかがわからなかった、のではない。ここは仮にも王都だ。下町には警備官もいるだろうし、これから彼女が受ける王立騎士団もいる。彼らの手柄をとっても良いのだろうか、と思っただけであった。しかし、彼女の心配は杞憂に終わったようだ。なぜなら、

「あちらに逃げたぞ。誰か、捕まえろ。手伝ったものにも謝礼は出す」

 と、制服を着たリーダーらしき若い男の声が聞こえた。騎士団が王都の民に手助けを求めることは普通の事なのか、とリサは少し思ったが、よくよく制服を見たら騎士団にしては質素なものだと思ったので、彼らは警備官か何かだろうと思い、まあいいかと思って、本能のままに動き出し、逃走中と思しき男をすぐさま追いかけた。犯人は2人組であり、それら(・・・)を見つけた瞬間に、リサは実家から持ってきた長剣を鞘から抜くことをせず、しかし手加減せずに犯人たちの首筋を狙った。犯人たちは、後ろからの攻撃を全くもって警戒していなかったのか、彼女の一撃に呆気なく倒された。

 公衆の面前で犯人たちを気絶させてしまったのに、いまさらリサは気づき、彼らをどうしようかと思ったが、彼女が心配するには及ばなかった。

「ご協力ありがとうございます」

 先ほど声を上げたリーダーらしき男が、彼女の近くまで来ており、彼女にねぎらいの言葉をかけた。 リサは、彼女が伸した男の側で彼が立ち止まったことから、どうやら犯人はこの男で間違いなくて、彼女に対する口調から、おそらく彼女へ自身にはお咎めがないだろう、と思って少しほっとした。

「お役に立てたのなら」

 彼女はそっけなく返した。もちろん、彼女だってそっけなく返したかったわけではなかったが、リーダーらしき男の背後にいた冷気を纏った男の存在が気になったため、あえてそっけなく返してしまったのだ。その背後の男は、リーダーらしき男が安堵した瞬間に(物理的に)彼の首根っこをつかみ、

「お前、何が『ご協力ありがとうございます』だ。一般人、しかも婦女子に捕まえさせるとは王立騎士団をそんなに辞めたいのか」

 かなりどすの利いた声で彼に言った。組根っこを掴まれた男は、

「辞めたくありません――って、え、あなた、女性だったのですか」

 とリサの方を見て素っ頓狂な声を上げた。リサは頷き、

「よくわかりましたね、私が女性だと」

 と背後の男に言った。確かに、彼女は動きやすいように男物の服と、男物の鞄、胸には晒を捲いて、長い髪を一つに結っていたので、見えなかったのもしょうがないだろう、と納得していた。

「君はどう見ても女性だ。しかし、君はかなり剣術がうまいのか」

 彼の男は、先ほどのどすの利かせた声とは裏腹に、かなり優しげな声でリサに尋ねた。

「私の故郷では強かったと思います。しかし、王都でこの剣が通用するかはわかりません」

 彼女はその質問に対し、本音を包み隠さずに言った。

「そうか。では、王立騎士団への推薦状を書いてやろうか。君ほどの手練れなら、間違いなく合格できるから。そして、君の実力を試すことが出来るから。ああ、むさ苦しいところがいやだったら。後宮騎士団もあるがどうだ」

 男はリサの興味を引こうと必死になって王立騎士団のアピールをしており、リサにはそれが少し面白かったが、笑いを必死にこらえていた。

「ありがたいお言葉ですが、私はもうすでに推薦状をいただいている身です」

 彼女は事実だけをきっぱり言った。すると男は顔を真っ青にして、これは申し訳なかった、と平謝りしてきたが、リサにとってそれはどうでもよかった。しかし、その代りに、

「この宿ってどこにありますか」

 とにっこりとして聞いた。

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