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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
番外編

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遠き日の話

番外編です。

作中に出てきた『ミフィア・ステフィア』に関する話です。

 ヴィルヘルムとリサが、王宮を辞しグース州へ移ってから半年―――

 グース州、州都の一角の家で、ヴィルヘルム・リュヴィークはあるものを調べていた。



 それ(・・)は遥か彼方昔の話なのだが、彼の妻の祖先にあたる人であり、彼の妻にそっくりだという。しかし、昔王立騎士団にいた時にはそのような人物のことは習わなかった。もっとも、『黒羽』の存在自体が隠されていたくらいだったので、知らなくても当然だと彼の妻は言ったが、彼女にそっくりだという人を知っておきたかったので、最近では公務の時間以外は、妻にも隠れて書斎にこもっていろいろと調べているが、一向にそれらしい文献は出てこない。どうしたら、その人物のことを知れるのか分からず途方に暮れていたら、後ろから彼は抱きしめられた。

「何をなさっているのかと思えば、ミフィア殿について調べていたのですね」

 そうヴィルヘルムの耳元で言ったのは、彼の妻、リサ・アシュレイ――改め、リサ・リュヴィークだった。ヴィルヘルムはとうとうばれてしまったのかと、あきらめた。

「ああ。君とそっくりな人物だと聞いて、どんな人物なのか気になってな」

 ウィルヘルムはリサの手をゆっくりとほどき、立ち上がった。

「今でもあまり君は『黒羽』のことを話したがらなかったから、素直に聞いても教えてもらえるかどうか不安でな」

 ヴィルヘルムはリサの顎に手をやり、すっと唇にキスを落とした。リサはその言葉に、少し拗ねるふり(・・)をしたが、自分の顎に添えられた彼の手を握り言った。

「もうすでに、ヴィル様は『黒羽』の一員でもあるんです。ですから、聞いていただければよいのに」

 リサは微笑んだ。その言葉にヴィルヘルムは毒気を抜かれた。

「素直に教えますよ、旦那様」

 と言って、彼の書斎を出て、暖炉のある居間にやってきた。メイドにお茶とお茶菓子の用意をさせた。それらがそろい、二人の話が終わるまで外にいるよう命じ、メイドたちが退いた後、リサは少しずつ話し始めた。

「そうですね。どこから話しましょうか――――」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 遡ること1840年前――――

 このグースをはじめとする原ロシュールは、南方に存在していた今のロシュール王国の礎であるミリスリニア公国に併合されておらず、人々は季節ごとの生活を基本に平穏に暮らしていた。この地では女性でも狩猟をすることもあり、時には男性をもしのぐ腕前を見せたこともあった。その代表格の一人にミフィア・ステフィアという女性がいた。

 彼女はもともと南方からやってきた流れの旅芸人の末裔であり、彼女の数代前の主である旅芸人は偶々訪れたこの地で、ある娘と懇ろな仲になり、この原ロシュールの地を定住の地と定め、この地の民と同じような生活をすることを望んだ。

 当然、彼は流浪の身であったため、お世辞にも狩猟はうまくはなったものの、近所付き合いが良かったため、彼らから施しをしばしば受けることになった。のちに彼に惹かれた女性と結婚し息子や娘が生まれた時は、再び彼らに周りの大人たちによって狩猟の方法などを教えてもらい、息子たちは瞬く間に狩猟の達人になっていた。

 そんな息子達は、南方の国の流れをひいている父親の血が強く出たのか、原ロシュールの地の人々とは異なり髪の毛や瞳の色素はかなり薄かった。しかし、それで彼らはいじめや嫌がらせを受ける、という事には至らず、反対に崇拝の対象になっていた。そんな一家だったが、数代下がりミフィアが生まれたころになると、崇拝の対象というよりも皆をまとめ上げるリーダーという存在になっていた。



 まだ、ミフィアが生まれて間もなく、彼女の両親が生きていたころ―――

 ミリスリニア公国は原ロシュールへと攻めてきた。原ロシュールの資源に目につけたのだ。その土地で平和に暮らす人々は突然襲ってきた相手に、日ごろの獣相手に狩猟を行うのと同じように戦い、かなり抵抗したものの、結局は屈服させられた。

 ミフィアの父親もまた、その戦に出ており、ある晩野営しているときに、奇襲攻撃をかけられ、命を落とした。その後、生まれて間もないミフィアとその母は命からがら、グース州最北端の地へ移住した。その際に、かつて彼女の一家と親しかった者も共に移住することとなり、それがアスフレッド子爵領に暮らす人々の原型にもなった。そんな人たちであったが、ステフィア家への信仰というものはまだ衰えていなかったらしく、幼いミフィアへ狩猟方法をはじめとする様々な知識を、周りの大人たちは惜しむことなく与えて行った。



 そして、彼女が15の時―――

 原ロシュールの東部で反乱がおこった。もともとは些細なことがきっかけであったものの、不満が重なっていた北部の者たちは、これを機にという連帯感で全員が立ち上がった。しかし、当たり前だが、『王国』へと名を変えた宗主国に弓を引くという事は大罪だ。一部の過激的な人は問題なかったのだが、その大罪という部分に恐れをなす人も現れた。そこで、首謀者たちが考えたのが、グース州の北部に位置する地に住む人々だった。

 彼らに反乱の話をし、共同で戦わないか、という事を持ちかけた時に、ミフィアはそれに賛同した。彼女は最初、単独でその反乱に参戦することを考えたが、話を聞いた地域の人々は我先にとその反乱への参戦を決めた。


 そうして結成された様々な地域の兵士からなる軍はその当時の『王朝』に歯向かい、蜂起した。最初は他の地域の長が陣頭指揮を執っていたものの、ある時その長が落命した。しかし、彼が落命したのは、戦場での話ではなく、彼の所属する地域の軍の中での派閥争いの末だったため、彼の後継者というものは、他の地域の軍から立てなければならなった。

 結局、年若いミフィアが傀儡の長として、反乱軍の首領に立てられた。

 しかし、彼女は昔から大人たちについて回ったり、子供同士で戦ごっこなどをしていたりしたため、かなり作戦を考えることが好きで、一度彼女が立てた作戦を、彼女を信奉していた兵士たちが実行してみたところ、かなりうまくいった。最初はその成功も『まぐれ』だと軽くあしらわれたものの、何度か繰り返していくうちに、他の地域の兵士たちにも認められ、いつしか彼女は()の反乱軍の首領となっていた。



 その後、反乱は成功し、当時支配していた王朝を廃すことに成功し、新たなる王朝が立ち上がった。しかし、その反乱を主導した北部は、かなり締め付けが強くなり、もともとは自治領であったものの、南部と同じように4つの州が置かれるとともに、その地を治めるためのかなり高位の貴族が派遣された。


 一方、ミフィアをはじめとする反乱軍たちはその後、王都での仕官を断り、故郷へと戻ってきた。彼らは王国への忠誠などはない。さらに、締め付けが強くなったのを境に、一部の民を残して、半分くらいの民はほかの土地へ移った。しかし、彼らのステフィア家への崇拝は止んでおらず、ことがあるたびに間諜たちが飛び交い、召集されることもあった。

 例えば、王の圧政による武装蜂起だったり、他の民族によるグース州への侵攻の防御だったりと、さまざまな場面において、彼らのような影の存在が動いた。しかし、彼らは決しておもてに名を残すことはなかった。ミフィア・ミスティアもまた然りだった。彼女は、故郷の土地へ戻ったのち、地元の青年と結婚し、子供を二人もうけた。一人は夭逝(ようせい)してしまったものの、もう一人の子供、リサは生き延び、ミフィアの後を継いだ。

 余談だが、ミフィアには兄弟姉妹は存在しない。そのため、王国法では、女児は継げないため、ステフィア家は断絶したことになっているが、彼ら土着の民の慣習では、男女関係なく家を継ぐことが出来るので、ミフィアはステフィア家の当主であり、その子供は時代の当主であった。よって、地元の人々によって、ステフィア家は隠されてきており、ステフィア家内部にある二つの掟により今まで続いてきた。


 『子供を絶やさぬように』

 そして、『内部の人のみと婚姻を結ぶこと』


 この二つにより、今までステフィア家は秘密を保たれてきていたのだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「では、お前が何も後を継がなくてもよかったんじゃないのか」

 ヴィルヘルムはなしを聞き終わり、そう言った。その言葉にリサは首を横に振った。

「アシュレイ家はアシュレイ家、ステフィア家はステフィア家なのです」

 二つの家の当主を兼ねることはない。リサは言外にそう言った。その答えに、ヴィルヘルムはそうかと呟き、リサを抱き寄せた。リサは突然の夫の行動により、驚いたものの、触れられた肌のぬくもりに安心した。


「そういえば、王都にステフィア像ってあったでしょう」

 リサはその晩、ヴィルヘルムに抱かれながらそう言った。ヴィルヘルムは甘い余韻の中で少し、頭の回転が鈍くなっていたものの、そういえば、と思い出していた。かつて、王立騎士団に所属していた時分の巡回時に見たことのあるブロンズ像だったな、と思い出していた。

「あのステフィア像は、おそらくミフィア・ステフィアのものだと思いますよ」

 リサは王都で見たブロンズ像を思い出していた。

「しかし、あれは首から上がないのにどうやってわかるのだ」

「なんとなくですよ。でも、ステフィアの姓で王都まで出た、という記録が残っているのは彼女だけですからね。彼女以外には考えられません」

 リサはそう言って、ヴィルヘルムの胸の中で瞼を閉じた。



「ミフィア・ステフィアか」

 そう言って、ヴィルヘルムは彼女の背中を撫でた。

「彼女がいたからこそ、彼女たち(・・)に出会たのか」

 ヴィルヘルムのつぶやきは誰にも聞こえなかった。

 そうして、その夜は更けていった。

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