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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
心の在処

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36/47

その12

 時は少し遡る――――

 整列された騎士団員たちを残し、ヴィルヘルムとマックスはあの場所へとやってきた。


 圧倒的な力だった―――

 騎士団に欲しかった。何故、ここまで『黒羽』は強いのか。一つの州の警備隊、というにしては強すぎる。しかも、自分が昔過ごした州だ。こんな隊があるのになぜ気づかなかったのだろう、とヴィルヘルムは思った。

 ヴィルヘルムはマックスと共に、この決闘の地へとやってきた。前方には黒い甲冑を纏って、すでに兜で顔を隠しているものが二人と一人の青年がいた。顔を隠していない方は審判役なのだろう。しかし、前に手紙を持ってきているのが片方で、彼が戦うのだとしても、もう片方は全くの正体不明だ。


 そして案の定、男の方が声を上げた。

「では、決闘を始めましょう」

 ようやく、このいけ好かないテンションの男と対することが出来る、と思ったが、ヴィルヘルムはその次の男の行動に驚いた。男はもう一人の兵士に道を譲ったのだ。

 当然、ヴィルヘルムもマックスも、もう一人の兵士が出てくると思わず驚いた。あの男が『黒羽』の中では一番の強さではなかったのか。前回、総軍でぶつかったときに、『黒羽』の一般兵士たちやあの男の強さを知っていた。だが、もう一人の兵士とは、おそらく戦った記憶がない。唯一、邂逅したのは戦が終わったときだった。近衛騎士が馬から落とされ、とどめを刺されそうになっていた時だけだった。

 そんなことを考えていたが、ヴィルヘルムも試合を開始するために前に進まなければならなかったので、驚きつつも平常心を装って、前に進んだ。


 ヴィルヘルムは構え、の声がかかると同時に中段に構えた。ヴィルヘルムは通常上段で構えるのだが、ここ一番の勝負の時は中段から始める。

 決闘開始直後から、二人とも全力でぶつかっていた。

 ヴィルヘルムはあの近衛騎士団長であるマックスよりも実力は上だと、マックスから聞いたが、相手の兵士はヴィルヘルムの剣についていっている。それに、稀にだが、相手の方が有利になることもある。

(この戦力を味方につけたら、どんなに最高だろうか)

 おそらくは例の男よりも実力は上だと思った。ヴィルヘルムは純粋に、相手を戦力としてほしいと考えていた。

 相手とは一回で決着はつかなかった。通常ならば間合いを取るごとに、体力がなくなってくる頃のはずだが、相手は数回間合いをとっても全く体力がなくなる気配はなかった。

 そして、双方にとってみて異常事態が起こった。

 マックスが文字通り(・・・・)横槍を入れたのだ。彼が最も得意とする槍の先を相手側に向けたのだ。

「何を考えている」

 ヴィルヘルムはマックスに言ったが、彼は全く聞いていなかったみたいで、相手のことを見据えつつ、やっぱりか、と呟いていた。何がやっぱりなのかがわからなかったが、その後の彼の行動によって解明された。


 そして、相手の正体もわかってしまった。

 黒の兜から現れた正体は、故郷へ戻ったはずのリサ・アシュレイ。だが、それと同時に様々な謎が解けた気がした。

 彼女はわかっていたようで、ヴィルヘルムと視線を合わすまいと目をそむけていた。

(そうだったのか)

 今、剣を打ちあわせた存在が彼女だったとしても、特別がっかりはしなかった。むしろ、彼女の剣はこのような感じだったのか、と初めて知ることが出来て嬉しかったくらいだ。


「すまないが、正体が判明してしまった以上、君を捕縛させてもらわなければならない」

 マックスがリサを捕まえようとした、その時。

 彼女は持っていた剣をマックスの方へ向けた。一瞬、何をするのだろうかと思い、誰もの動きが止まった。

 ヴィルヘルムはいつでも動けるように細心の注意をしていたが、




                                 ――――遅かった。

(補足)

ずいぶん前の章で、ヴィルヘルムが『アシュレイ家の存在意義に気づいた』という趣旨の部分がありますが、実はこの時点までその『役割』について盛大な勘違いをしていました。

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