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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
心の在処

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その6

 時は少し遡り、ヴィルヘルムが王都へ戻った朝―――

 リサは目覚めた時、いつもあったぬくもりが隣からなくなっていることに気づいた。もしかして早く起きているのかもしれないと思い、そばにあった女物の服を着た。私服でさえも男物が多かったリサとしては、心許ないことこの上なかったが、用意してくれたんだ、というありがたさでそんなことを考える暇はなかった。

 しかし、別荘の中をくまなく探したものの彼はおらず、灯台下暗し、と言うことわざがあるくらいに見落としていた机に、彼から手紙が置いてあった。手紙のほかには食料、防寒着を含む男物用の衣類、地図、得物として仕える長剣や短剣、果ては僅かばかりだがと書かれていたものの革袋いっぱいの金貨が置かれていた。

 その手紙には、『すでに退役処理は済ませてある。俺は王都での急用ができたから、非常に申し訳ないが早々に帰る。この別荘は好きに使ってくれて構わないが、汚れてしまったものはすべて焼却しておいてほしい。叶うならば、また会えることを楽しみにしている』と書かれていた。リサはその手紙を震える手で大切にしまい、手紙の中に会った通り汚れたものを外にあった炭焼き用のかまどで燃やした。その後、身支度を済ませると、数日間過ごした別荘に別れを告げた。


 別荘はすでにグース州に入っているところにあったので、そこからアスフレッド領までの道のりは、いくらリサが方向音痴であっても、目をつぶっていても行けるくらいには覚えている。

 このころの季節は冬。ロシュール王国最北端の村であるレゼンブルグ北部と比べたら、遥かに暖かいものの、それでもグース州の南部といえども、かなり寒さが厳しく、とくに北部にあるアスフレッド領はかなり雪深い。だんだんと北上していくにつれ寒くなっていくの、久しぶりに触れるリサは、その寒さに身じろぎしながらも歩みを止めなかった。



 そうして、ほぼ半日。休憩を全く入れずにアスフレッドまで走り抜けた。アスフレッドに入るところには、シシカーヌ対策用に、という名目で置かれた関所があり、そこへと顔を出すと、門番たちに驚かれたものの、すぐさま領主の館へ先ぶれが走り、リサの帰還が領内に知れることとなった。

「おかえりなさい」

 屋敷に入ったときに、使用人たちが一列に並び頭を下げる中、母親がリサをやさしく抱いた。一年ぶりであり、休暇の度に帰っていた警護官時代とは違い、懐かしいと感じた。

「ただいま戻りました、お父様、お母様、それにお兄様」

 母親だけでなく父親や兄にもいたので、帰ってきた流れですぐに食事となった。

「王都はどんな感じでしたか」

 リサは王都で見たことをそのまま話した。南北の対立、という状態はなく、貴族派と実力派との対立、という構造が大きな流れになっていること、そして、王都近郊では貧富の差は激しくはないものの、王都内でも治安の悪い地帯があり、それが北部(ここ)と同じように、焼け石に水の状態で見過ごされていることなどを述べた。話を聞いていた3人はあまり表情を変えなかったものの、現王室にあまり期待していないようだった。

「そういえば、あなたが結構急に帰ってきたものでしたから、『黒羽』の皆さんに指揮権をあなたに返す、という事をまだ伝えていませんわ」

 母親――ミフィアは微笑みながらそう言った。ちなみに、ミフィアはアスフレッド領の北隣であるユルシャナ領を治める家の出身であり、『黒羽』をまとめることのできる一族でもあった。

「いえ、構いません。王都に攻め入るには、もう少し猶予はあると思います」

 リサは今の王都の様子を考えた。騎士団長であるヴィルヘルムが()があると言って、あの別荘から帰って行ったが、彼が動かねばならない用とは、いったい何であろう、とは思ったが、流石の彼女でも思い至らなかった。



 しかし、事態は急変した。

 夜半、家族ともども食堂に呼び出されたリサは、間諜から共に王国内全ての軍事が『北の森』において、衝突を開始したことを聞かされた。ちなみに、もともとは南部対北部という構図だったのが、王立騎士団対近衛騎士団という実力派と貴族派の争いをも巻き込んだ形らしく、全ての王立騎士団の騎士が現在戦地に赴いているらしい。

「リサ。今の『黒羽』を動かせるのはお前だ。どうするか」

 中央での対立がとうとう火を噴いたか、と父親は呟き、リサに尋ねた。

「そうですね。私が知る限り、おそらくは王立騎士団と近衛騎士団の争いは泥沼化するでしょう。そして、ベルニア公爵は老齢であることからして、その息子殿が戦地に赴いていることでしょう」

「あの御仁はかなり性格が悪い。いくら民衆派である北部の当主の血筋といえども、あのものは民を犠牲にして、民を救う方法をとるはずだ」

 リサの父親は、ベルニア公爵の息子とも親交があったため、彼の人となりを知っていた。アスフレッド領(グース最大の魔界)の領主であるリサの父親にさえ『性格が悪い』と言わせるのだから、相当悪いのだろう、とリサは踏んだ。

「そうですか。では、私はそれを阻止はしません。しかし、ならばそれを利用(・・)させていただきます」

「そうか」

 そこまで性格が悪いのならば、その公爵子息をリサは止めることはできない。しかし、その性格の悪さを利用するとは、自分自身もかなり狡いやり方をするのだと思ったが、致し方ない、と思う自分もいた。しかし、リサのその決意に、父親は何も異を唱えなかった。


 その後、先ほど情報を入れてきた間諜に命じて、グース州とレゼンブルグ州に散らばっている『黒羽』に対して、明日の夜までにキシックルにあるステフィア像への集合を伝達させた。そして、背後に控えていた執事に全警護官が州軍として連れていかれていないことを確認すると、全警護官にも『黒羽』としての役割を負ってもらうと命じた。

「なるほどな」

 リサの父親はリサのその采配に感心した。

 今でこそ、州を守る警護官という役割は各地に点在する。しかし、ロシュール王国における各州内警護官の始まりは、グース州を根城にしていた『黒羽』の一部が州の役割にもぐりこんだことなのだ。そのため、グース州内では、今でも代々『黒羽』の一部はベルニア公爵傘下の警護官に身を置いており、体を鍛えながら各地の様子を探っているのだ。

 そして、そもそも『黒羽』とは、義賊の一部であり、原ロシュールの伝説的女英雄ミフィア・ステフィアを信奉し、彼女に肖り王国を変化させようとする、王国の2騎士団と互角に戦える軍団でもある。

 その彼らは、圧倒的な力から過去には『影の州軍』とも呼ばれていたが、最後に活躍したのは100年前であり、おそらくは誰も覚えていないであろう存在だった。そして、彼らを率いるのは代々ステフィア家の嫡子であり、現在のステフィア家当主はリサの母親ミフィアであり、『黒羽』の統率者はリサであった。彼らは一般的な近親婚以外は特に禁じているのはなく、領主や平民という区別がない。そのため、同じアスフレッド若しくは同盟を組んでいると地域の者で、口外しないと約束できるものであれば、結婚相手は誰でも構わない、とされている。

 そんな『黒羽』と警護官の関係がわかっていたので、リサは迷わずそれを使うことにした。

「では、私は出陣の準備をしにまいります」

 と言って、リサは自室に戻った。その瞬間、目から熱いものがこぼれてきた。

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