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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
二人が出会うまで

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その2

『ロシュール王国王立騎士団』

 その騎士団の紋章に描かれているオークの葉は”勇敢さ”を示すものとして、騎士団の中で語り継がれてきた。そしてその実態は、王国二大騎士団の片方、近衛騎士団が貴族中心であるのに対して、貴族・平民問わず採用し、真の力を持つ者だけが実権を持つところだった。


 その『ロシュール王国王立騎士団』の団長を務めるのは、ヴィルヘルム・リュヴィーク伯爵だった。彼は、弱冠25歳であり、肩に掛かるか掛からないかくらいの茶髪で、深い海のような青い目を持っていた。

 彼の実家はグース州東北部リュビーク伯爵家であり、もともとは彼の母親であるマリアの体が弱いために、家族全員で王都にはいかず、財務官を務めていた父親のみが単身赴任で王都にいた。しかし、12歳の時に所領のウィラント地方全土において山火事の延焼による大火災に見舞われた際に、被害を聞きつけ消火活動のために戻ってきた父親は二次災害により死亡。長男だった彼は伯爵位を継いだものの、まだ幼かった彼にはどうすることもできなかった上に、当時グース州では大飢饉に見舞われており、たとえ同じ州の中でも手を差し伸べる余裕はなく、多くの死者を出してしまっていた。

 そんな彼らを助けたのは、ウィラント地方の隣に位置するレゼンブルグの最西端の領主ルーク卿だった。彼は、王立騎士団の中でも階級こそ低いが、実力者と言われており、槍術がすぐれていた領主の息子であるヴィルヘルムに目を付けた。彼はルーク卿の推薦状をもらい、王立騎士団に入った。王都とは無縁の生活を送ってきた彼は知らなかったものの、王立騎士団は完全実力制の『国』であり、喩え家柄が良くてもそれだけで上に昇ることは不可能だったのだ。しかし、彼は家柄もよいだけでなく、実力も兼ねそろえていたこともあって、上層部からしばしば目をつけられ、入団後10年で騎士団長になった精鋭であった。


 そんな彼は、世話になったルーク卿には頭が上がらず、突然の呼び出しにも関わらず、自分の仕事を早々に切り上げ、彼の屋敷を訪れていた。

「君に会わせたい人がいてね」

 そう、アッシュブロンドの髪をした男――ダンテ・モンドリーク、現ルーク卿は訪れてきたヴィルヘルムに言った。

「会わせたい人、ですか」

「ああ。君は独身だったよね」

 その『独身』という単語を出された瞬間に、わずかながらヴィルヘルムは顔をゆがませた。彼は家柄良し、実力あり、顔良しという事で、未婚の女性から最高の物件で、特に王宮に勤める女官たちから非常に熱い視線を食らったり、夜会では咽かえるようなきつい香水の匂いをまとった状態で絡まれたりと、碌な目に遭っていない。挙句の果てには、一度押し倒されかけたこともある。その痴女とその一族はすでに宮廷から去っており、今はどうしているのかは知らないし、彼の知ったところではない。

 ヴィルヘルムは広間に通され、まだ『会いたい』と言った人物は来ていなかったらしく、待ち時間用に、とメイドから紅茶とお茶菓子を出された。彼はありがたくそれらをいただき、相手を待っていた。十分ほどして、卿とその客人が入ってきた。

「君がヴィルヘルム・リュヴィークか」

 そう言った男は、ヴィルヘルムの頭のてっぺんから足元までなめるように見たが、しかしそれは彼にとって嫌悪感を抱かせるものではなかった。

「はい」

 なめるように見られた後、その男はヴィルヘルムの方に手を差し伸べた。差し出された手を握り返すか一瞬迷ったものの、失礼なことだと思ったので、握り返した。

「なかなかいい男だな」

「全くですよ。この歳になるまで縁談の一つや浮ついた噂がないのが不思議なくらいですよ、ベルニア公」

 その客人はベルニア公―もともと彼の実家でもあるグース州の総督であった。彼の名前はもちろん知ってはいたものの、幼い時分には見かけたことがなく、そしてあまり公爵は夜会に参加しないために、『名前と階級程度』の情報しか持ち合わせていなかった。

「なるほど、かなり堅物よのう」

 ベルニア公は彼を見、ニヤリと笑った。

「今回其方に話がしたかったのは、薄々気づいておるかと思うが、お主の縁談だ」

 その言葉に、ヴィルヘルムの眉が吊り上がる。

「この段階で断らんとはなかなかの自信家だな」

 ベルニア公は眉を吊り上げたヴィルヘルムを見て、なお笑った。

「公爵様からの縁談を断れる、とでも」

「はは、まだ話をしておらんのに断る奴もおるのか」

「貴方様はまだ出会っていないだけですよ」

 ルーク卿が少しこめかみを押さえつつ言った。

「まあ、よい。で、ヴィルヘルム・リュヴィークよ。我が領内、というか其方の領地の隣にあるアスフレッド地方の主、アシュレイ家の姫との結婚だ」

「は?」

 ベルニア公の言葉に迷わず疑問しか浮かばなかったヴィルヘルムだった。もう一人、この屋敷の主、ルーク卿がその女性を知っているのか、『いやぁ、それ無理なんじゃないのかなぁ』と呟いているのが聞こえた。

「まあ、まだ社交界に出てきていない女性だから君が知らないのも当然だし、あの家は少しばかり特殊(・・)なのだ。おそらく君に恋愛感情を持つことはないだろう。だが、儂としてはできれば州内の結束を強めておきたいところなのだ。助けてほしい」

 と、公爵が頭を下げた。ヴィルヘルムからしてみれば、今まで何にも手を差し伸べてこなかったくせに、と言いたい気分なのだが、王国の重臣でもある公爵に頭を下げさせる貴族はそうそういない。なので、少し癪に障ったので、

「ならこちらから一つだけ条件があります」

「なんだ」

 公爵の目は何でもするぞ、と訴えかけていた。

「その彼女には家でおとなしくしてほしいのです。できますでしょうか」

 ヴィルヘルムはにっこりと笑った。しかし、その問いに、ルーク卿、ベルニア公ともども

「いや、無理だね」

「無理じゃろ」

 と即答された。

(いったいどんな女性なんだ)

 ヴィルヘルムは、まだ見ぬ女性に早くも苛立ちを覚えていた。

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