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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
心の在処

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その5

「どういうことだ」

 北部州の各領主ないしはその代行が王立騎士団の陣地に来ていた。渡された手紙の中には、南部州軍とすぐに講和せよと書かれていた。しかし、あの黒い騎士は北方の国シシカーヌとの間の警備隊と言った。なぜそのような警備隊が南方にまで来ているのかが不思議だった。

「普通であればここまで来るのには最大で数日、と言いたいところですが、私は次期グース州をすべる身であれど、彼らのことをはっきりとは分かってはいません。今、州都にいる父上ならば知っておられるかもしれませんが」

 ベルニア公爵の子息はそう言った。ヴィルヘルムはそっと隣にいるハロルドの顔を見たが、彼の言っていることは嘘ではない、という顔をしていた。ちなみに、王立副騎士団長のハロルドは、騎士団に入団する前はある屋敷で専門の心理療法士として働いており、人の隠れた表情を読むのにたけていたのだ。そのため、議会などには必ずハロルドを同伴させていたし、騎士団における試験でも、本来ならば騎士団長が必ずいなければならない、という規則を撤廃させることに成功させた。

「しかし、この戦の発端は南部州が北部を狙う、と聞いて集結したんだぞ。こちらから折れるわけにはいかないだろう」

 ミリニノ州の領主レベニノ侯爵がそう言った。彼は北東部の人の代表格のような容姿をしており、まるで熊のような格好だった。そんな彼は、容姿にたがわず血気盛んな人でもあり、正論ではあったが、この講和案に反対の姿勢をとっていた。

「しかし、何故グース州の一員である彼らが、講和を持ちかけたりするのでしょうか」

 穏やかな声で言ったのは、北部州の最大領域を誇るレゼンブルグ州を治めるルコニッタ公爵の息子ピョートルだ。確かに、とヴィルヘルムを含むほかの面々もうなずいた。講和をするのかしないのか、という部分が大前提であったので、誰も指摘しなかったが、言われてみれば、何故彼らはこのタイミングで水を差すような真似を、しかも自領の軍が関わっているこの戦を止めようとするのか、それが気になって仕方がなかった。


 話し合いが堂々巡りになって、誰もがもうこの講和を無視していっそのこと『黒羽』と戦うか、という話になったとき、天幕の外側がうるさくなって、時々剣を抜く音が聞こえたため、代表者たちは慌てて何事かと、外に出てみたら、赤と金色の甲冑を纏った客人(・・)が一人で副官をつけずにそこにいた。彼はいつものような遊び人のような雰囲気はなく、一人の、死地を潜り抜けてきた人間の風貌だった。確かに、ここの王立騎士団からは先だっての事件でかなり恨まれていることだろうが、それにしてもかなりひどい状態だった。

「ヴィルヘルム・リュヴィーク王立騎士団長に用があってきた」

 彼は奥にいるヴィルヘルムの目をとらえながらそう言った。


 急きょ会談が開かれることになった。念のため証人としてレベニノ侯爵を残し、それ以外の領主(と代行)は各陣地へ返した。

「まず、お前に詫びなければならない」

 マックスはいつもの軽い調子ではなく、初っ端から地面に膝をついて、頭もそこにつける、という謝罪をした。

「何についてだ」

 ヴィルヘルムは心当たりがあったが、流石に本人から言わせなければならない、と思って何についての謝罪なのかを尋ねた。その尋ねたことについて、マックスは開き直ることもせずに、

「王立騎士団の騎士15人を真偽も確かめることもせずに、投獄し、そのうち3人を処刑した」

 と言った。背後に控えていたレベニノ侯爵とハロルドが無言で剣を抜こうとしたが、ヴィルヘルムはそれを押さえて、

「お前の意志でやったのか」

 と尋ねた。すると彼は首を横に振った。

あの人(・・・)に反対できるはずなかった。もちろん、実際に行った俺が悪い。だが、それだけは知っておいて欲しかった」

 と言って、懐からあるものを出した。

「これが、あの人からの命令書だ。お前にもこれが誰の筆跡であるかわかるだろう」

 と言って、こちらに差し出してきた紙を受け取った。それを読むと、確かに王立騎士団の誰でもいいから十人以上捕縛し、そのうち数人を即刻処刑しろ、と書かれていた。後ろの2人にも見せると、

「まさか、これは――」

「王太子殿下、まさかそこまでするとは」

 と言った。レベニノ侯爵の言葉通り確かに王太子は貴族派だが、ここまでするとはだれも思わないだろう。

「で、マックス。お前の用件はそれだけか」

 彼がそんなことでここまで単身で来るとは思わなかった。

「それを知った上で、可能であるのならば、近衛騎士団(・・・・・)王立騎士団(・・・・・)と単独で講和を結びたい」

「それは、まさか『黒羽』がお前らにも接触してきたからか」

 突然の講和の提案に、ヴィルヘルムは『黒羽』の存在を感じた。

「半分は。だが、俺らは、いや少なくとも俺は、これ以上義がない戦いに身を置きたくない、というのが本心だ。そしてなにより」

 と言っていったん言葉を切って、深呼吸した。そして、


「北部の人たちが言っていることは正しい。昨日の晩の『北の森』の火災は南部軍による放火だ。『北へ攻め入るのならば、ここを焼けば早い』と言って、火をつけていた。ちょうどよくグース州軍が退いたこともあって、彼らはつけた。恐らくほぼ全焼していて、死者行方不明者も大勢出ている。それなのに、俺らは、貴族派連中は何も人的被害がない、と言って補てんなどしない。俺らは何かおかしいんだ。だから、ヴィルたちをはじめとする実力がある奴に活躍してほしい、と思う。だからだ」


 と言った。ヴィルヘルムは背後のハロルドを見た。彼は目をつぶって震えていた。彼は北の森の凄惨たる結果を想像してしまったのだろう。なので、ヴィルヘルムが自分自身で、答えを出さねばならない。

「―――分かった。お前の要求を呑もう」

 ヴィルヘルムの言葉に、レベニノ侯爵は何を血迷っているのですか、と言ったが、それを制して、

「ただし、当然こちら側の要求も呑んでもらう。いいな」

 とマックスに言った。マックスは何を言われるのか不安だったが、耳元言われた言葉にいや、それおかしいだろ、と呟いた。

「やってもらう。男に二言はないだろう」

 ヴィルヘルムはその様子を見て言った。



 そして、翌日朝―――

 開かれたその土地には、昨日とは違い、青色の甲冑を纏った王立騎士団400人、赤銅色の甲冑を纏った近衛騎士団50人の全員が、綺麗に列をなして並んでいる。彼らの前には青と銀色の甲冑を纏ったヴィルヘルムと赤と金の甲冑を纏ったマックスがいる。ちなみに、他の軍勢については、昨日のうちにすべて退かせた。

 それに対して、黒い甲冑を纏っている『黒羽』も彼らの人数に合わせたうえで、綺麗に対峙している。その先頭には、2人。


 誰も想像しなかった戦いが始まる瞬間だった。

次回はリサの話に戻ります。

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