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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
心の在処

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その2

 散々抱かれた後の朝、リサは起きることもままならなかった。

「そういえば―――」

 リサは同じように隣で眠っているヴィルヘルムにあることを聞こうと思って身じろぎした。

「何だ」

 ヴィルヘルムはリサの汗にまみれて額にかかっている前髪を、丁寧にわきにやりながら答えた。

「今何日経ったのか分かりませんけれど、騎士団には戻らなくて良かったのですか」

 ここに来た時には、休暇を取っている、とか言っていたような気がしたが、その後はこのような状態になっていたので、聞く機会がなかったのだ。

 ヴィルヘルムはそんな彼女の額を軽く指ではじいたが、

「ここで聞くことじゃないだろう。だが、それについては、構わない。こないだ会議の議題にあったシシカーヌは、社交会の前に一度この国に攻めてきたが、どうやら気づかない間に去っていたらしい。だから、しばらくの間は俺らが出動することはないはずだ」

 と、柔らかい声で言った。リサはそんな彼の言葉を聞いて、彼の胸に自分の顔をうずめた。自ら飛び込んできた彼女を抱きしめ、頬を撫でていた。

「もし可能であるのならば、今日は遠掛けに行かないか」

「遠掛けですか」

「ああ。お前は馬術が得意だろう」

 ヴィルヘルムはどうやら彼女の得意なものも知っていたらしい。こうしてその日の午後、2人は近くの丘へ行くことになった。



「綺麗ですね」

 その丘は本当のお花畑だった。少し季節にから外れた黄色や赤い花が、まるで彼女たちが来るのを計算していたように、咲き誇っていた。

「ああ」

 おかまでは2人とも全力疾走できており、ほぼ同着であったものの、若干リサの方が半頭身分早かったのだ。それに少しヴィルヘルムは拗ねているのだろう、彼女の言葉に対する言葉は少なかった。

「しかし、ここからだと、王都に帰るのは大変なんじゃないんですか」

 出かける前に地図を見せてもらったのだが、どうやらここはグース州の南部だ。王都がある南部三州の一つ、ミリランディア州とグース州は接しており、直接の行き来も地理的(・・・)には可能だ。しかし、この境目には『アッヘンベゼリア(王国語で”北にある森”の意)』と呼ばれる大森林が存在しており、簡単には行き来できないような作りになっていた。ちなみに、南部三州の西側に位置しているザラリンディア州とグース州の間にもこのアッヘンベゼリアはつながっており、いつぞやの南部州の総督は国王に北部州を従えさせるためにこの森を伐採することを提案したが、いずれも提案した翌日には急逝するという事件が何代かあったため、この森は侵してはならない森、とされてきている。

 そのため、どうやらここに来るときは北部州であるはずのミリニア州を経由したのだ。そして、リサはこのまま故郷に戻るだけなので、あまり関係ないのだが、騎士団長であるヴィルヘルムはそうも行かない。ましてや、緊急時などの呼び出しなどにはどうするのだ、と思ったのだが、ヴィルヘルムは大丈夫だと笑った。リサは彼が大丈夫だというのならば、大丈夫なのだろう、と安心した。


 2人はこれから婚約破棄という形で別れるのに、十分幸せな時間を過ごし、別荘へ帰ってきた。夕食をとり、その晩も彼らは愛し合っていた。






 そして、明け方―――

 ヴィルヘルムは眠るリサの横顔を満喫していた。この距離以上は、彼女を望むことはできない。しかし、自分は他の女性と結婚する、という事はしないし、だからと言って彼女を自分だけのもの、という風に束縛することもない、とヴィルヘルムはわかっていた。彼女ならかなり有能な駒になるだろうと考えており、自分が彼女の親だったら迷わずに彼女を有望な平民に嫁がせたり、文官向きの貴族に嫁がせたりするだろうと思っていた。そのため、割り切らねばならないことだと理解していた。

 そんなことを考えていると、別荘の窓が叩かれているのに気付いた。誰かと思い少し窓の外を見てみると、そこにはやつれた姿の部下がいた。確か名前は、バジリオ、この州の出身でリサの推薦により副隊長になる男だ。

 彼は自分の姿を確認し、窓を少し開けどうした、と尋ねた。開け放たれた窓から部屋のにおいが外に出たのか、バジリオは少し嫌な顔をしたが、一応上司のプライベートなことには首を突っ込まない主義なのか、黙って用件を言った。

「騎士団長。早々にお戻りください、緊急事態です」

 バジリオの言葉から、本当なのだろう。部下にはめられている、という危険性もなきにしもあらずなのだが、この場ではそれを証明する手立てがなかった。

「何事だ」

「第1大隊から第6大隊に所属する騎士が巡回中の近衛騎士団(・・・・・・・・・)により捕縛、そのうち何名かは即刻処刑されました」

「罪状は」

 通常近衛騎士団も王立騎士団も互いの犯罪には口を出さない。口を出してはならないのが不文律だ。しかし、それを破る例外事項もある。しかし、公正、公平、実力を主義とする王立騎士らがそれを破るような犯罪に手を染めることも考えにくい。しかし、実際には複数の王立騎士が捕まり、バジリオは人目を忍ぶようにヴィルヘルムを引き戻しに来た。王都で一体何が起こっているのだろうか。

「町の数か所にある酒場での集団暴力事件です」

「真偽は」

「当然白ですが、あったとされる酒場が問題でして」

 バジリオの口調はどこか、面倒な事態を引き起こしそうだったが、聞かないわけにはいかなかった。

「貴族派、しかも高位の連中が溜まっている場所か」

 ヴィルヘルムは勘だったが、なんとなく彼が口を濁さないといけないような場所を言ってみた。すると、バジリオは驚き、

「なんでわかったんですか」

 と聞いてしまった。ヴィルヘルムは、

「なんとなくだ」

 と素っ気なく返した。


「10分後に正面から出る。迎えにこい」

 ヴィルヘルムはそう言い、窓を閉めた。

 まだ眠っているリサの頭を最後に撫で、眠っている最中にするのは申し訳ないと思いつつも、彼女の髪の毛を一房切り、紙に包んで懐にしまった。ヴィルヘルムは着替えた後、リサの分の用意を出しておき、テーブルに書き置きを残し、そっと起こさないように別荘を出た。その際に、管理人にも様々なことを注意するよう伝えた。

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