その10
当日。
リサはヴィルヘルムに命じられたとおり、ロザリンドの屋敷へ行き、着付けなどを行った。彼女は、両親と暮らしているみたいで、当主の伯爵とその夫人もかなり親しみやすい人物らしく、突然訪問したリサに対しても、かなり親切にしてくれた。
着付けが昼頃に終わり、軽食をとった後、ロザリンドや伯爵夫妻と共に王宮へ受かった。王宮でヴィルヘルムと合流する予定だったのだ。
王宮へ着き、すでに人が集まり始めている大広間へ直接通された。以前より、ヴィルヘルムに連れられて王宮は来たことがあったものの、今回社交会が行われる大広間へ始めて足を踏み入れる。その広さにかなり驚いていたものの、ロザリンドたちによる特訓により、貴族の淑女としての最低限のマナーは守られていた。
「ヴィルヘルムはまだかしらね」
ロザリンドはその赤い髪を巻き上げ、豊満な胸元を十分に活かしたワインレッドのドレスを身に纏っていた。彼女は約束の時間より遅い、と少し文句を言っていた。
「仕方ありませんよ」
リサの、いつもは後ろで束ねている金色の髪は、ロザリンドの侍女たちの手によってゆったりと巻かれ、いくつもの真珠を使って飾られていた。彼女は、ヴィルヘルム様はお忙しい方なので、と苦笑いした。
「そうはいってもねぇ」
ロザリンドもまた苦笑いを返しながら、リサの髪の毛をいじっていた。
それからしばらく2人は周りの目を気にしながら、ヴィルヘルムとの出会いについて話していた。
「あら、ミリアスラ家の令嬢じゃありませんの」
しばらくして、数人の女性の集団が彼女たちの前に現れた。ロザリンドに話しかける雰囲気からして、友好的でない、何か嫉妬のようなものを含んでいた。
「あら、お久しぶりね」
ロザリンドは彼女たちへ何の感情も入れずに返した。しかし、その表情は完全に作られた笑みを浮かべていた。
「え、ええ。まあね」
最初に声をかけた女性は戦意を失っていたが、他の女性たちは違っていたようで、次々と女性が出てきた。
「今日はサロン卿への色仕掛けはよくて?」
「そうよ。女装した少年に相手を変えましたの?」
「まさか」
「絶対そうよ。このようなご趣味があるから、捨てられたのではなくて?」
女性たちは次々とロザリンドを非難していく。隣にいたリサにも当然聞こえるわけで、誰かが言った女装した少年という言葉について、ムッと来たが、ここは社交界、大勢の人の目に晒されている。通常の彼女ならば、一介の兵士相手に怒鳴り返すものの、女性たちだ。さすがのリサでもそこは理解できていた。ので、女性たちに対して、
「初めまして、アスフレッド子爵が娘、リサ・アシュレイと申します。以後お見知りおきを」
と、全く感情のこもっていない目と口調でそう言い、最初に言いだした女性の元へ行き、耳元で、
「私が本当に『少年』だと、お疑いになられるのでしたら、今この場で確認されますか?」
と少し艶めかしい声で囁いた。女性は顔を真っ赤にし、分かったわよ、と言って、その場を去っていた。どうやらほかの女性は彼女の取り巻きだったらしくて、女性の後をついて行った。
彼女たちとのやり取りが終わった後、周りを見てみると、聞こえていただろう範囲の人たちは、顔を真っ赤にして、リサたちと目をあわせないようにしていた。
「なかなか傑作だよ」
その誰もが目を逸らす中、拍手をしながら2人に向かってきた人物がいた。その人物は黒い髪で、まるで遊び人――――とリサが思ったところで、彼女は思い出した。
「あなた、は」
「うん、正解」
その人物は面白い獲物を見るように目を細めた。
「久しぶりだね、子猫ちゃん」
マックス・サロンだった。





