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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
リサ、出遭う

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その7

 一方、そのころの王宮・王太子執務室内では。

「くそ。まだ北部三州と交渉がまとまらない」

 王族特有の白銀の髪と紺碧の瞳を持つ王太子は、目の前に立つ黒髪の近衛騎士にほかの書類を読みながら愚痴をこぼしていた。本来ならば、武官は国王以外の執務室には入れないことになっているが、黒髪の近衛騎士は王太子の従弟(・・・・・・)という血筋に甘えて、この部屋への入室を許可されていた。『北部三州』という言葉に近衛騎士は目を細めた。

「残りの一州は?」

 通常ロシュールで北部(・・)と呼ばれるのは四州だ。

「ミリニアはすでに陥落した」

 王太子は書面から目を上げずにそう言い、その言葉を聞いた近衛騎士団長は驚いていた。その地方の領主は、彼が近衛騎士団に入ったころにはすでに退役していたものの、近衛騎士団や王立騎士団をあわせた武官職で最高の地位、三代前の近衛騎士団長に長らく就いていたと聞いたことがあった。

「アニアラ伯が貴方に恭順を?」

「正確に言うと、彼の孫に伯爵位を継がせた」

「それは」

「なに、少し揺さぶりをかけてみたら、簡単に爵位をジェラルドに譲った」

 王太子のその言葉に、近衛騎士団長―――マックスはおののいた。

 確かに、現国王は過去に南の戦場の最前線に出ており、北部の惨状を実際に見たことがある関係で、今現在の王立騎士団を手厚く保護、反対さえなければ北部州も手厚く保護したかったと聞き及んでいる。しかし、当然貴族たちの中には『爵位や出身地がすべてである』という考え方の持ち主もいる。これはまた王族も然りで、この王太子はその筆頭だ。マックスは実家の派閥の関係上、否応なくこの王太子の派閥に入っており、その流れで近衛騎士団にも入った。だが、時々合同演習で会う王立騎士や平民たち、そして北部の州の者たちに対して、ほとんど何の悪感情も持っていない。そんな彼には、王太子の考え方には少しついて行けないところもあった。

「マックス。そういえば、いい加減結婚しないのか」

 急に自分に話を振られ、マックスは少しげんなりした。確かに、同年代である王太子は

来年隣国から王女を迎える、という話がまとまり、同じ騎士団をまとめる王立騎士団長のヴィルヘルムは同郷?の少女と婚約したという話が北部の実力者が言っていたと、伝え聞いたことがあった。

「(結婚相手には)ロザリンドがいるので十分ですよ」

 彼は見た目に遊び人みたいな派手さがあるため、女性からはモテやすく、家では妹たちの相手をしているために、女性の扱いがよくわかっている。そのため、特に貴族の女性からは絶大な人気を集めている。一人を除いて肉体関係を誰とも持ったことがない。また、デートも一人一回まで、という暗黙の了解があるのにもかかわらず、過去に女性同士で(勝手に)刃傷沙汰になったりしたこともあり、それが原因で父親からは勘当扱いをされている。そんな彼が、唯一(・・)肉体関係を持っているのが、中央貴族であるミリアスラ家の一人娘であるロザリンドだ。彼女はかなり豊満と呼べる体をしているのにもかかわらず、他の人に対して色目を使っているのを見たことがない。そんな彼女にかなりの好感が持てた。また、彼女は彼とほぼ同時期に王宮に女官として入っており、ヴィルヘルムと知り合ったのは彼女を介してのことだった。

 それを知らない王太子――ルナール・ヴィクトリアヌスはようやく書面から視線を上げ、苦笑いし肩をすくめた。

「今度の夜会にもまた、彼女を連れて行くのか」

 近衛騎士団に入った初期の夜会では女性は同伴しなかったものの、彼女と出会い、初めて夜会に彼女を連れ出した時は、直後の王宮内で他の女性からロザリンドはかなり陰湿な嫌がらせを受けたらしい。しかし、彼女がかなりしっかりとしており(やられたらやり返していたらしい)、マックスもまた他の場では他の女性たちとデートしながらも、夜会には必ず彼女を何回も連れるようにしたら、彼女たちにもはっきりとわかってきたみたいだった。ちなみに、ロザリンドはマックスのその容姿を認めており、あえてそれを利用(・・)するように言ったので、彼が他の女性とデートすることについては、何も言っていない。

「ええ、当然ですよ」

 彼は王太子が、何故そこまでロザリンドにこだわっているのか知らないのを知っていながらも、誇らしげに言った。

 その時、部屋の外が騒がしくなった。二人がそれに気づき、マックスが部屋の扉を開け、外を見ようとしたが、走ってきたマックスの部下である近衛騎士が王太子執務室に飛び込んできて、彼らは外を見ずにこの騒ぎの原因が何であるのかを理解した。


「申し上げます。シシカーヌがまた、王国内に侵入しました」

 騎士の言葉に反応したのはマックスだった。

「攻めてきたのか」

「はい。今のところ、北部州が何とか食い止めており、戦力差からしまして、王都への被害はないものと思われます」

 マックスはその言葉に一抹の不安を感じたが、王太子はかなり楽観的なようだった。

「ありがとう。下がっていなさい」

「はっ」

 武官が下がり、再び部屋の中には二人きりとなった。

「どうお考えで?」

 王太子の先ほどの言葉がわからなかったマックスは、必要な単語だけで尋ねた。

「おそらくは今回も、威嚇のつもりなのだろう」

 シシカーヌは近年、王国に対して『軍事演習』と称して、たびたび攻めているものの、北部州が何とか退けている。今回もそれと同じものではないのかと、王太子は考えたのだ。

「そうでしたか」

 マックスは少し浮かない顔をしたものの、王太子の言葉を否定しなかった。マックスは騎士団に戻ると言い、執務室を出た。


「さて、父上に()を持っていくか」

 ルナールもまた、父王の執務室に向かった。

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