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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
リサ、出遭う

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その4

 ヴィルヘルムとの見回り以降においても、当たり前なのだが、リサとヴィルヘルムの距離は縮まるどころかさらに広がった。

 リサはリサで『家の事情』に彼を巻き込みたくない、というのもあったし、そもそもなぜ自分がここに来たのかをきちんと思い出していたので、彼とは距離をとるようにもしていた。また、ヴィルヘルムも、リサに対して意識してしまったこと隠すために、より一層騎士団長としての仕事を公務として予定に組み込んだために、リサのことを気にかける余裕はなかったのだ。

 ただ、どちらにも言えたのは、顔をあわせない日、というものはそもそも己の目的を忘れさせる、ということを、気づいてしまった時には、覚えていた時よりも恥ずかしいものが出てくることに気づいたのだ。


 ある日、それ(・・)はリサのもとに突然やってきた。時期としては、リサが副隊長に就任しから2か月ほどの事だった。この2か月は副隊長の仕事や、大隊の雑務、部下の指導(年齢的に先輩の者もおり、最初はリサに従わないものもいたが、力でねじ伏せた)、新人研修(の教える方)を行ったりして、かなり体力的に消耗していた。そんな中送られてきたものに、リサは一瞬疑問に思った。なぜなら、送られてきたものは、この騎士団や実家では着ることのない豪奢なドレスであった。宛名を探してみるとそこには『ヴィルヘルム・リュヴィーク』と書かれており、そういえば、何かのパーティーに出てほしい、と言っていたなと薄らと思い出したリサであった。しかし、このような豪奢なドレスをどのように着ればよいのか、と思い、一度今度会った時に聞いておこう、と思ってしまっておいた。

 しかし、その晩、リサは思わない形でヴィルヘルムと対面した。彼が大隊の詰め所を訪れたのだ。

「すこし、アシュレイ副隊長と人事の件で話をしたい」

 とヴィルヘルムは隊長に言い、何も不審に思われることはなく、リサと二人きりになることが出来た。


 久しぶりに会った彼は心なしか少しやつれたように、見えた。

「団長、今日送っていただいただいたドレスですが、ありがとうございました」

 本当は彼にやつれて見える理由を真っ先に問いかけたかったが、先にきちんと礼を言っておいた。ヴィルヘルムは給仕係の騎士に差し出された水を飲み干すと、

「説明もなく送って申し訳なかった」

 と彼が謝った。しかし、リサはあまり気に留めず、

「問題ありません。あれはどなたのドレスをお借りしたのでしょうか」

 と尋ね返した。すると、ヴィルヘルムは盛大にむせ、リサは何か不味いものでも入っていたのかと一瞬焦り、医者を呼ぼうと思ったが、彼に、ただ驚いただけだから、と断られてしまった。

「――――あのカードには書いていなかったか」

 しかし、ヴィルヘルムにそう言われ返されたので、記憶をたどったが、思い当たる文字列はなかったので、リサは首をかしげた。

「いいえ、書いておりませんでした、ね」

「え」

 リサの返答にヴィルヘルムは固まった。その様子にリサは気づいてしまったが、彼に何も言えなかった。

 復活したヴィルヘルムが元に戻り、

「言葉足らずで申し訳なかった」

 と謝ったが、次の言葉に、今度は再びリサが固まった。


「お前のために造らせた。少し誤差はあるかもしれないが、こないだ見回りで、後ろから眺めた時に目測でだが、測り、それ元にお前が好みそうなタイプのドレスにしたが――――駄目だったか」

 ヴィルヘルムの言葉に、途中から顔が真っ青になったのが分かった。

「いえ、駄目ではありませんが、それをほかの女性には使わないで上げてくださいね」

 おそらく、それをされたら世の中の女性たちは気絶するだろう。彼女たちのイメージの中にある団長と違っていて申し訳ない、とリサは思った。確かこの前どこぞの屋台の店主に聞いたら、この目の前にいる男性(ひと)は、貴賤問わず、かなりの数の女性から熱を入れあげられているらしい。リサの言葉にがっくりとうなだれる、ヴィルヘルム。ここまで落ち込むとは思わなかったため、リサはフォローするために、そうですねえ、と呟き、

「デザインは好みでしたよ」

 と本音を言っておいた。その言葉を聞いて、ヴィルヘルムは嬉しそうな顔をした。

「なら、よかった。で、リサ。君の今週の予定はどうなっている」

 リサは何でそんなことを聞くのだろう、と思ったが、

「明日の午後以降は、今週まるまる自主練習にします。どうかされたのですか」

 と尋ねた。

「では、明日の午後だ。いつもの私服で結構だから、騎士団長室まで来てほしい。詳しくはその時に話す」

 そう言って、ヴィルヘルムは風のように去って行った。

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