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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
リサ、出遭う

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その2

 昼時である6刻となり、そこ(・・)はかなりにぎわっていた。

 今、リサとヴィルヘルムが来ているのは、王都の北西方面にある教会の前だった。

「お前は入団試験の前は、ここの近くの宿に泊まっていただろう」

 ヴィルヘルムはすでに彼女の泊まった宿を把握していたらしい。もちろん、後ろめたいことは何もなかったので、はい、と素直に答えた。

「その時、大捕り物があった」

「――――ええ」

 彼女自身あまり思い出したくはなかったが、確かにあった。

「あれは王立騎士団(うち)の第9大隊、通称『寄せ集め集団』のアホどもだ」

「はあ?」

 確かに王立騎士団には9つの大隊があり、その中で第9大隊はあまり出動件数が少ない、という事は聞いたことがあったが、騎士団長から直接的な評価を聞くと思っていなかったリサは一瞬、唖然としてしまった。

「この国の建国史を紐解いてみても、王立騎士団の実力は近衛騎士団に劣るわけがない。しかし、近衛騎士団の方が王立騎士団よりもすべてが格上、というアホな思想を持った連中が貴族の中には一定数いる。

 で、そいつらは毎回のごとく入団試験に人を送り込んでくる。普段は、何かと理由をつけて追い落とすが、数年に一度、入れてやらないとあざとらしいから、と理由で入団させている悪しき慣習の奴らがいる」

「もしかして、その人たちが全て第9大隊に入れられるのでしょうか」

「そうだ。ほかの大隊だとそもそも貴族どもの坊ちゃんには、見下されている感が半端ないから、たまんないだろうし、俺ら上官だってそんなボンクレどもを見てやりたいとは思わない。ある意味、良いご身分だと思う」

 ヴィルヘルムは完全に彼らのことを軽蔑しているような感じだった。もしかすると、近衛騎士団で見た感じを思い出したのかもしれない、と思った。

「しかし、彼らは何故市中の見回りに?」

「もちろん、今と同じ理由だ」

「文句をいう人間が出てくる、から?もしかして、あの日にいたのも?」

「ああ。暇で暇でしょうがないから、数日に一度出してやるが、所詮、平民の力をなめ切って、あんまり練習にも出てこない。かといって、自分たちで練習する、という訳でもない。だから、奴らはたかだか素人風情で取り逃がした」

 ヴィルヘルムは淡々と事実を述べているように見えたが、その内心は真っ黒なはずだ。何もしていないリサでさえ、かなり恐怖を感じ取っていた。

「で、うかつにも私が捕まえてしまった」

 リサはあの場では捕まえれてよかった、とも思ったが、今聞いた話からすると、単純に喜んでよかったものかを少し疑問に思ってしまった。

「お前が気にすることはない。奴らの自業自得だ」

 ヴィルヘルムはリサの頭を撫でた。その行動に驚いて、顔を上げると、彼の青い目がこちらをとらえていた。


「ただ、一つお前に忠告しておく。この先、お前がどのような道を進むのかわからない。しかし、たとえ反王国派の連中貴族と結婚しようが問題はない。ただ、近衛派の連中だけとは絶対につるむな。たとえそれが友人関係であっても」

 ヴィルヘルムは懐から一切れの紙を出し、それをリサに渡した。その紙を読んで、リサはヴィルヘルムを見返した。

「これは―――――」

「ああ。この10年近くの間に俺は社交界に出なくてはならない時があった。そういったときになんとなく、で作ってみたものだが、あながち間違っていない勢力図だ。この先どのように変わるかわからないが、ここ数年は変わらないだろうから覚えておくがよい」

 と言い、彼は広場の方へ向かっていったので、慌ててリサもそれについて行った。


 せっかく来たのだから、とリサは、お昼を入団前に言ったあの屋台で食事をとることを提案し、ヴィルヘルムもそれに少し驚きつつも了承した。

「お、嬢ちゃんじゃないか」

 威勢のいい店主はリサのことを覚えていた。ちなみに、店については、相変わらずいいにおいが漂ってくるのにもかかわらず店は閑古鳥だった。

「おじさん。こないだはありがとうございました」

 リサはこの前来た時と同じ場所に座り、その隣にヴィルヘルムが座った。

「いいさ。というか、嬢ちゃん、その服着ているってことは入団できたみたいだな」

「はい」

 当たり前だが、リサが来ている服によって、彼女が騎士団に入団したことが分かったらしかった。

「良く似合うじゃないか。しかし、今日はどうしてその服着てこんなところに来ているんだい?」

 店主はまるでヴィルヘルムに気づいていないように、リサに喋りかけ続けた。ちなみに、ヴィルヘルムが不機嫌になっていることに、リサも店主も気付いていなかった。

「今日は王都全体の見回りなんです」

「え、王都全体の見回りって騎士団の偉いさんがくるっていうやつのことか?」

「知っていたんですか?」

「知っているも何も、王都じゃ有名さ。それによってかなり休日の治安が良くなったって俺の嫁も喜んでいたよ」

 そう答えた店主の言葉に、リサは隣を見た。

「良かったですね、団長」

「え、団長さん?」

 隣のヴィルヘルムはかなり驚いた顔をしていた。リサの呼び掛けた相手が、騎士団のトップである団長であることに気づき、店主の顔も驚きに変わった。

「いやぁ。8年前の南方での反乱平定の時の凱旋行進を見させてもらったんだけれど、その時から嫁が団長さんのファンになっちまったんですよ」

 店長はガハハと笑った。ヴィルヘルムの表情は読みにくかったが、そんなに悪くは無いようだった。その後、昼食をとらせてもらったのだが、再びリサが訪れてきたことや、リサの入団祝い、ヴィルヘルムが来てくれたから、など、さまざまな理由をつけて店主がまけてくれた。

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