96話
帰国して、王城に報告に行くと、案の定ヘルマン伯爵に非難を受けた。
王太子不在の新年行事、そして遅らせている王太子の婚姻式典。
幾ら、婚約者同士だとしても未婚の王族が、女性を連れて外を歩くのは、セロフィー王家でも外聞が良くないらしい。
散々嫌味を言われて、婚姻の式典を終わらすまで出国ではなく、外出をやめるように言われた。
確かに外聞も大事だろう。何せ、ラインハルトはこの国を背負って立つ若き王族の筆頭だ。
だけど考えても見てほしい。今は戦争を回避できるかどうかの瀬戸際だ。
俺はそれを実現するために、これまで頑張ってきた。
なので、言ってやった!
「ラインハルト、式典頑張って」
「おい! そこは式典何かやってる場合じゃないって、そう言う場面だろ!」
「いや、ヘルマン伯爵、本当に怖いんだぜ? 大人が静かに本気で怒った所、見たことないだろ?」
「そうかもしれないけど! 後6年だぞ? 時間もないだろ?」
「こんな言い合いしている時間も惜しいんだ。 すまん!!」
そう言って、俺はラインハルトを城に置き去りにして、実家に向かった。
何やら、先生が最近家によって行ったらしい。
そんな話を、宰相閣下から聞いた。
なら、ラインハルトと言い合いしているより、実家に向かった方が有益だ。
「ただいまぁ~」
「ん? おお! アドルフではないか!」
父上、変わってないなぁ~。・・・・・・いや2年で老けるほどの年だったろうか?
まぁ、愛すべき家族に会うのは、いつでもいいものだ。
帰国の実感が湧いてくる。
俺がラインハルトと言い合いしているうちに、カチヤには先に帰ってもらった。
ラインハルトには、ああ言ったが・・・・・・俺の方がまずい状況にある。
手順を間違ったと言う話は、前世でも多くいいているし。義父との関係を悪くする。
そんな話を嫌と言うほど見聞きしていた。
前世では縁のない話だったが、それらの情報と現状を鑑みるに、まずく無いわけがなかった。
まして、わが国で剣鬼と恐れられるリーズベルト男爵が相手だ。
血を見ることになるかもしれない。
「あ、あの父上帰って来て早々なんですが・・・・・・」
「ん? どうした?」
「婚姻に付いて、話を聞かせてもらえれば、と思いまして」
「? ・・・・・・!! ついにか?」
「いや、そうではなくてですね。一般的にそろそろと思いまして」
婚姻の文化は、国によって様々な違いがある。
まして、異世界ともなればそれこそ、独特な文化があるかもしれない。
日本でも通い婚なる文化が平安の時には有ったそうだ。
それに近い文化であれば、俺の行動に多少の言い訳も立つ。
・・・・・・、いやいやいや、言い逃れとかはしないですよ?
ないない。・・・・・・ただ、剣鬼に真剣に真剣でしばかれたら、生死に係わる。
生死、せいし・・・・・・、駄目だ! 予想が悪い方向にしか行かない。
揚げ句、現実逃避で思考が悪ふざけの方向に流れる。
良く考えろ! 俺の一生に係わる大事なことなんだぞ!!
責任も覚悟もあって、そうなったんだ。
・・・・・・そうだっけ? い、いやそうだよ! そうに違いない!!
「・・・・・・アドルフ、大丈夫か?」
「はい! なにがですか?」
「無言で百面相しているから、不安になってな」
「大丈夫です、それで・・・・・・」
「ああ、先ず相手側に正式に挨拶に行ってだな、・・・・・・」
一通り話を聞いて、俺は自室のベッドに突っ伏した。
最悪だ、終わりかもしれん。
タブーを犯しまくりだ。 俺の行動は、凡そ一般的な貴族の婚姻にそぐわないものだった。
もう、腕の一本も覚悟しておいた方がいいな。
この際、腕の一本で済むなら、・・・・・・いや、良くはないよ!
でも、相手が剣鬼じゃなぁ~。
最悪、生きていれば儲けものか?
気が重いが、明日には行くとカチヤに伝言を頼んでおいた。
行くしかないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日になり、俺は考えられる結納の品を持ち、リーズベルト家を訪れた。
今回の結納品で、俺は素寒貧だがそれでも、カチヤに恥は掻かせられない。
一応、正装にも使える新しい装備は付けているが、大丈夫だろうか? 足りないものは無いか?
少しでも、男爵家の令嬢に相応しい品が無いと。
・・・・・・ああ、竜鉱で指輪でも作ってもらって置くんだった。
刀匠エストマン作の指輪なんて、これほどない贈答品になっただろうに!!
しかし、こうして屋敷の前に来てしまった。
後には引けない。・・・・・・引けないかな?
いや! 男だろう? アドルフ!!
覚悟は決まってるはずだ。
潔く、半殺しになってこよう!!
屋敷に入ると、義父は誰かと話していた。
・・・・・・カチヤが今回のことを報告しているんだろうか?
それも仕方がない。
覗いてみると、カチヤではない。
ん? 誰だ? 高弟の人か?
そこに居た人物は、ダグラス先生だった。
何で? いや、居ても不思議じゃないけどさ。
親交はあるだろうし、子供の教育を頼まれるぐらいだしね?
それにしても、何で今?
「誰だ!!」
そう声が聞こえると、俺が覗いていた柱にナイフが刺さる。
先生が振り返り、投げたのか?
刺さったのは、丁度俺の顔の高さ。
この状況で、後ずさりしたら、殺される。
間違いない。
そっと、柱の影から体を出す。
「なんだ、アドルフでしたか」
そう言って、構えたナイフを下ろす先生。
「気配で分からないとは、まだまだですね? ダグラス君」
「面目有りません」
なんて言う会話だ。 気配で誰か分かれ?
無理無理無理。どんな達人漫画だ!
あれか? くしゃみで誰が噂してるのかも判別できるのか?
やっぱり、常識で測れない人たちだ。
「どうしたんです? 婿殿?」
「ああ、カチヤと・・・・・・そうでしたな」
先ほどとは、打って変って和やかな空気だ。
い、今しかない! そうに違いない!!
「り、リーズベルト男爵! あ、いえ、義父上!!」
「ハイハイ、なんですか?」
「このような場所で不躾ですが! カチヤさんを正式に我が家にむかえさせてて? いえ、迎えさせてください!!」
「ああ、あのことですか。今でいいんですか? 忙しいのでしょう?」
あれ? あのことってことは、もう知ってるんだよな?
それなのに、そんなあっさり? いや、もしかしたら、結婚のこと自体を言っているのかもしれない。
ハッキリと言うんだ! 殴られるようなことを俺はしたんだから。
その上で、認めてもらわなければ!
「義父上! 実は私は、カチヤさんと!」
「ハイハイ、契ったんですよね? 知ってます。・・・・・・ああ、それでそんな悲壮な顔をしてるんですか? まぁ、弩の家系は実直が売りですからねぇ~」
剣鬼は一向に表情を崩さず、受け入れてきた。
何故だ? 娘の大事だろう??
それを・・・・・・そんな飄々と!
「おや? 良い気合ですね。ダグラス君、下がりなさい」
「は? ・・・・・・はい」
近くに置かれた木剣を手に、立ち上がる剣鬼。
剣鬼にとっては、剣以外のことは埒外と言うことか? 娘のことだろう?
あの娘のことで、俺が彼に怒るのは筋違いだろう。
だけど、娘の一大事をこんな軽く受けていいのか?
無性に腹が立つ。
得物は・・・・・・そうだ。何も持ってこなかった。
仕方がない。対人戦であまり使ったことは無いけど、魔法で行くしかない。
炎の剣を手に、剣鬼と向き合う。
木剣の切っ先が、やけに存在感を放っている。
負けるかもしれない。けど、一泡吹かせなくては、気が収まらない。
俺の大事な人が、剣以下か? 幾ら義父でも許せる範囲を超えたぞ?
張り詰めた空気が、辺りを支配する。
剣鬼と本気で打ちあうんだ。長くは掛かるまい。
一合か二合、それ以上は俺が付いてはいけないだろう。
なら、初撃に全霊を・・・・・・待てよ?
馬鹿正直に行って、触れられるのか? まして、魔法使いの俺が剣士に真正面から?
冷静になれ、身体は熱く、頭は冷たく。
捌けないほどの手数。これしかないだろう。
例のごとく、俺は剣鬼の周りを周回する。
・・・・・・そう言えば、弾速の調整をしろって言われてたな。
なら、こんなのはどうだ?
周回しながら、水の弾を宙に留めたままで創造していく。
俺の通った場所には、夥しい水弾が浮かんでいる。
いつもの軌道だけではなく、剣鬼の頭を飛び越え上空にも水弾を置く。
剣鬼は、俺の行動を面白そうに、笑みを浮かべながら見ている。
笑っていられるのも、後一寸だ。
剣鬼の周囲を取り囲むように、水弾が浮かんでいる。
俺の意志を汲み取り、水弾達は一斉に剣鬼に襲いかかる。
勿論、以前言われた弾速も調整してある。
ただ、一か所を除いては。
素早い剣戟で、水弾を撃ち落とし、いなしていく剣鬼。
わずかに遅い弾幕に逃れるようだ。
俺はその一瞬を逃さず、縮地で距離を詰める。
水弾を払いながら、俺の目を見る剣鬼。
そう、俺を見ろ!
俺の手にある水の剣を払いながら、木剣を振り下ろす剣鬼。
ここだ!!
俺は、俺の死角、剣鬼の背にある宙に置いてきた炎の剣を撃ちだす。
水の剣を消し、振るわれる剣を腕ごと捕獲する。
翼竜の装甲により、軽減しているが激しい衝撃が俺を襲う。
恐らく、こうしないと、この剣鬼相手に一撃をお見舞いすることは叶わないだろう。
翼竜の装備、そして防具の下の防具と言われる、0.5魔法。
そして捨て身の俺。 悔しいが、それでも一撃が精一杯だ。
でも、俺の一撃は強烈だ。 何せ魔物の毛皮を付き通す一撃だ。
流石の剣鬼もこれで・・・・・・。
剣鬼は掴んでいた剣を捨て、脱力し掴んでいた俺から逃れる。
そして、逃れた腕で再び剣を掴み。
自分の後ろを切り裂いた。
俺の炎の剣、だったものは剣により薙ぎ払われた。
剣鬼が俺の方を向き直るその一瞬。
明らかに打ち込める隙を見つける。
魔法を形成している時間は無い。
手を伸ばし、0.5を撃ち出す。そう、無意識に。
余計な力が加わり、体勢を崩し膝を着く剣鬼。
俺も自分のやったことに驚き、受け身を取り損ねる。
頭を打ち付け、朦朧とする意識の中。
何か、そう何かが変わるそんな確信があった。




