94話
バルドゥル様の話が一段落して、ラインハルトは思い出したかのように、疑問を投げかけてくる。
「で、あの日の魔法は、どうだったんだ?」
「あの日って?」
「開発するって、カチヤと出て行った時だよ」
「ああ、あれか・・・・・・」
そう言えば、ラインハルト達には言ってなかったな。
「あの日は・・・・・・」
「アディ、凄くはやかった」
「っぐふぁ!!」
・・・・・・何を? 早い・・・・・・だと?
クラウディアは赤面して、俺の方を見てくる。
バルドゥル様は、優しい目を俺に向けてくる。
やめて!! 見ないで!!
「魔神と同じくらい速かった」
あ、そっちね? おい! クラウディア、憐れんだ目でこっちを見るな!
話が違うんだよ!
「へぇ~、見てみたいんだけど? アドルフできないのか?」
「ライニー、見てみたいなんて・・・・・・」
いい加減にしようか、クラウディアさん?
「魔法は! 暴走しちゃうみたいで使えないんだ。 俺も記憶が無いし」
「記憶がない?」
「ああ。 揚句に、神様に止められるほど、危険な状態だったみたい」
「へ~、じゃぁ魔法は御終いか?」
「御終いじゃないよ、一旦休止」
「そう言えば、俺は見たことが無いな、魔法」
バルドゥル様が、好奇心の塊のような表情をしている。
まぁ、見せられないわけではないし。
「じゃぁ、見ますか?」
「ああ、ここで見れるのか?」
「兄上、あまり近くだと危ないですよ?」
「ラインハルト、大丈夫さ。 だろ? アドルフ」
心配そうに兄の顔を、覗き込む弟。
まぁ、町中で危ない魔法は、使わないけどさ。
・・・・・・後で、ラインハルトの俺に対する認識を、確認する必要があるみたいだな。
「防具の下の防具の技術は使えるから、ちょっとぐらいは大丈夫だぞ? ほら」
そう言って、バルドゥル様は全身に力を込める。
魔力が集まっていくのを感じる。
俺の周囲の魔力が、移動するようなそんな感じだ。
バルドゥル様の存在感が、増した気がする。
こう言う、未知の技術を見せられると、思いの外ワクワクしてしまう。
バルドゥル様にとって、魔法はまさに、未知の技術だろうからな。
よし! 気合を入れた魔法を、見せて差し上げないとな。
とは言っても、町中だし爆裂魔法は・・・・・・無理だな。
って言うか、中級魔法自体町中で、使う物ではない。
なら、魔法らしく見せることのできる初級魔法は?
・・・・・・あ、あれがいい。
最近は、0.5を意識しなくても使えていたから、ここら辺で復習を兼ねて手順をおさらいするのも、悪くないだろう。
全身に、膜を造るように魔力を循環させる。
空気と魔力の膜、・・・・・・あれ?
これ、身体強化の魔法なのに、魔力を体に掛けてるのか?
脳のはず・・・・・・だったよな?
そんな疑問が、今更ながらに生じるがいつもと変わらず発現している。
そして、炎をイメージし圧縮と形成を行う。
出来上がったのは、炎の剣。 初級魔法の刃だ。
最近は、めっきり使わなくなったけど、突如として現れる炎の剣、如何にも魔法だと思えるだろう。
驚愕の表情を浮かべるバルドゥル様。
「これが・・・・・・魔法か・・・・・・」
驚きのあまり、一歩後退ってしまったようだ。
分かる分かる。 皆初めて見たら同じように驚くし。
何気に久しぶりの反応だな。
炎の剣を消す。 周囲の熱が冷えていくのが分かる。
ふぅ、忘れてなくてよかったー!
大分、久しぶりだったしな。
せっかく創った魔法なのに、使わないのはやっぱりもったいないよな。
空を仰ぎ見て、今後の事に想いを馳せる。
何か、3属性を使えるように改良する、いい方法は無いのだろうか?
・・・・・・いや、全ての事を俺一人でやることは無いか?
魔法が普及したら、俺以外にも考案者は出てくるだろうし、誰かが切っ掛けを掴むかもしれない。
そのためにも、魔神の討伐に全力を注ぐべきか?
一人黄昏ていると、周りが騒がしく感じる。
再度、熱を感じる。 カチヤ辺りがバルドゥル様に自分の魔法を見せてるのか?
視線を皆に戻すと、俺以外の4人が炎を出している。
ラインハルトは盾の形。
クラウディアは矢を出している。
勿論、カチヤは剣だ。
そして、バルドゥル様は槍かな?
皆、はしゃぎすぎだって、・・・・・・え?
もう一度皆を見まわす。
4人が魔法を使っている。 俺は使っていないから、やっぱりバルドゥル様だな。
・・・・・・。
ええええええ!!!!!!!
なんで? 何で使えてるの??
どう見てもバルドゥル様は炎の槍を手にしている。
「バルドゥル様・・・・・・魔法? 使えて・・・・・・ます?」
「ああ! 何だ、お前らも人が悪いな!」
なん? 何言ってる?
人が悪い?
「お前ら全員が、技法を使えるなんてな! 驚いたぞ」
いやいやいや、驚いてるのは俺ですけど?
技法よりも、魔法。 魔法!!
「なるほど、防具の下の防具にこんな使い方があるなんてな。 魔法の普及も意外と夢じゃないかもな」
え? いや、はぁ?
「ん? ほら、魔法の準備段階? 0.5って言うのか? これな、俺の言ってた技法そのものだわ」
話が追いつかない俺をよそに、バルドゥル様は興奮気味に話を続ける。
先輩冒険者から、連綿と受け継がれる最低限、生き残るために必要な技術。
専業の冒険者、特に大物の魔物を狩る冒険者だけが、必要とする技術としてひっそりと伝承されてきたらしい。
なるほど、原初の手記は各国の貴族にだけ分け与えられる。教会、その本部でもあるスクロースでは、冒険者の地位は低い。
そして、冒険者のみが伝承してきた技術、これが合わさらないと魔法は使えない。
魔法の復活に、1000年も時間が掛かるはずだ。 相容れない立場の持つ技術の統合、これが魔法普及のカギか。
「いやぁ、いいもの教えてもらっちゃったな」
上機嫌なバルドゥル様をよそに、俺は一寸驚き疲れた。だけど、魔法普及に必要な因子を知ることが出来た。
この出会いは、決して無駄ではなかった、 いや、寧ろ必要な出会いだった。
この技術、詳しく知っておく必要があるな。
「バルドゥル様、この技術を極めた、そんな方を知りませんか?」
「極めた・・・・・・あ、一人いるな」
「誰ですか?」
「お前らも良く知ってる人さ、ダグラスさんだよ」
え?
「先生ですか? なんで?」
「だって、俺もあの人に教わったし、お前もそうだろ?」
ラインハルトたちを見る・・・・・・首を振っている。
そうだよな、ダグラス先生にあったときは、全員が使える状態だったし。
俺も特別教えてもらったわけじゃないしな。
会って詳しく教えを請う必要があるな。
「バルドゥル様、先生は今どこに?」
「あー、あの人は色んな任務を押し付けられてるから、国内のどこかだと思うんだけど、情報は無いな」
なるほど、じゃぁ一旦帰国しないといけないのか。
まぁ、次の目的地を考えても、帰国の必要はあったし丁度いいな。
「よし! 急いで帰ろう」
「アドルフ、装備を注文しているのに、すぐに帰れないだろう?」
あ。
忘れてた。
「後一寸だろうから、受け取ってからな」
バルドゥル様と別れ、更に2週間後、注文していた装備と翼竜の代金を受け取る日になった。




