92話
暗がりの中、鉄の臭いで目を覚ます。
ここは、・・・・・・どこだ?
「あがっ!」
起きようとすると、両足に激痛が走る。
何があった?
靄の掛かった頭を、必死に巡らす。
魔法・・・・・・そうだ!
3属性の魔法を試していて、自分に使って・・・・・・?
駄目だ、そこから思い出せない。
取りあえず、足は直さないと。
回復魔法を自身に掛ける。
「っっっ!!!」
折れ曲がった足が、逆再生の様に戻っていく。
しかも、痛覚は健在だ。
その痛みが、自分の生を教えてくれている。
良かった、副作用で死んではいない。
痛覚が収まると、自分の股間に不快感を覚える。
・・・・・・。
いやいやいや、それは無いって!
ナイナイ! だって、外だよ? 今まで無かったし。
いや、確かにもう、精通はしてるよ?
だって、16になったしね? でも・・・・・・いや~。
微かに感じる、自分の自分自身の感覚。
完全にアレ後の感覚だ。
嘘・・・・・・だろ・・・・・・?
ズボンの中に広がる粘液ばった感覚。
何だろう、死にたいな。
恥ずかしさで、死んでしまえたら・・・・・・もう死んでいるのに。
「アディ、起きた?」
その声にビクッ! と反応してしまう。
旅の中では、上手く隠していたのに。
何で、2人きりの時にがぎって・・・・・・!!!!
「大丈夫? どこか痛い?」
「ああ、大丈夫大丈夫!!」
微かに顎が痛いが、今はそれどころではない!
臭いは? シミは?
幸い周囲は鉄臭さが充満していて、臭いは気にはならない。
? ・・・・・・鉄の臭い?
周囲を見まわすと、夥しい量の魔物が肉となっていた。
「カチヤ、これは?」
「アディ、寝てたから」
ああ、そうか。
カチヤが、不甲斐なくも気絶した俺を、守ってくれたのか。
「カチヤ、ごめん。 怪我はない?」
「うん、大丈夫」
「そうか、・・・・・・。」
良かった。
カチヤに何かがあったら、耐えられただろうか? いや、無理だ。
最悪な第一印象だったろうに、未だ俺に付いて来てくれる彼女。
彼女より、強くあろうと思って始まった魔法開発。
全部が、無駄になるかもしれない。
弱いと思われた自分を、強くなったと認めてもらいたい。
そんな想いが、俺の中に少なからずある。
・・・・・・要するに、好きな女に認められたいんだ。
なんだ、俺は、この娘が好きなんだ。
誰に押し付けられたわけでもない。
俺が俺として、この子が好きなんだ。
何か、自分の中で腑に落ちる気がした。
でも・・・・・・好きな娘の前で、夢〇してるなんて!!!!!
どうか、神様!! 気が付かれませんように!!!!!!
「アディ? 本当に、大丈夫?」
「あ、ああ、だ、大丈夫さ!」
身を寄せてきたカチヤと、反対方向へと動く。
少しでも距離を取らないと!
臭い、本当に大丈夫か? 意外と気が付かれてるって、前世の何かで読んだ気がするし。
自然に、自然に股間を隠すんだ。
胡坐をかくように座ると、手で脚を掴む。
これで・・・・・・大丈夫か? 俺!!
平静を装い、これまでの状況を確認する。
・・・・・・なん・・・・・・だって?
俺が、カチヤを襲うだと?
何がどうして、そうなった?
15分程度前の状況を聞くに、あの魔法が危険なのは分かった。
待てよ・・・・・・15分前?
自分の下半身を、じっと見る。
大丈夫、シミは無い。・・・・・・では無くて。
アレが出ているってことは、自身が主張していたってことで、気絶するまでにそうなったのか?
ん? 襲うって、そっちか?
いや待て! そんなことあるか?
・・・・・・悔しいが、無いと言いきれない!!
いや、まさか!! ・・・・・・無いと言ってくれ・・・・・・。
「アディ、暗くなったから朝が来たら帰ろう?」
「ああ、そうす・・・・・・るか?」
待て、待て待て待て!!
この状況で、一晩カチヤと2人きり?
ヤバイヤバイヤバイ!! 何がヤバイって、ナニがヤバイ!!!
落ち着け、俺。
大丈夫! 我慢できる子だ、俺は。
「野営なら、俺が外に立つよ。 十分に休んだからね」
「ダメ! アディも休んで!! 危ないから」
いやいや、カチヤさん? 君も十分に危ないよ?
なんて言っても、俺、意識しちゃったからね?
無理無理無理! 間違いが起きるでしょ??
腕にしがみつき、俺を諫めようとするカチヤ。
間違い・・・・・・なのかな?
だって、婚約者だし。
いや~、間違いだよな? 流石に。
ダメダメ。
そう言うことは、ないよ。
建築魔法で壁を厚くした小屋を造る。
これなら、魔物の侵入も無いはず。
2人きりの、閉鎖空間。
駄目だ、意識しないようにすると、余計に気になる。
カチヤと距離を取らないと、本当に駄目だ。
「アディ、どうしたの?」
俺が距離を取ると、カチヤが距離を詰める。
更に離れると、更に詰められる。
それを数回繰り返し、逃げ場を失う。
息を弾ませるカチヤ。
俺はそれに、意識を取られる。
おかしい。
俺もだけど、カチヤも十分おかしい。
カチヤがこんなに、息を弾ませるだろうか?
動けばそうなるだろうけど、この程度の運動で?
いつもなら、まだ十分に余裕があるはずだ。
何故なら、俺も息は上がっているけど余裕がある。
余裕が無いのは、アッチの方に関してだ。
カチヤがおかしいのは、小屋に入ってからだ。
なんだ? 俺がおかしいのは魔法のせいだろう。
何せ、気絶したのにアレした位だ。
じゃぁ、カチヤは?
俺の臭いか? もしくは汗?
何かは分からないけど、俺がカチヤの獣欲を刺激しているのか?
「落ち着いて、カチヤ! 今俺達はまともじゃない」
「何を言ってるの? 普段通り」
カチヤの表情が蠱惑的に見える。
駄目だ、十分おかしい。
「やっぱり、俺、外行く!」
「ダメ、絶対!」
「待て、魔法の副作用で、おかしいんだって!」
「知らない! 私はアディと一緒にいたい!」
話が全然、かみ合わない。
「・・・・・・アディ、置いて行かないで」
悲し気な表情。
駄目だ、目が離せない。
置いて行く? 何を言っているのか分からない。
置いて行かれているのは、俺の方だろ?
オークの時も、いや、もっと前。
出会った時から、俺の前を疾走していたカチヤ。
置いて行くなと言いたいのは、俺の方なのに!
気が付いていたら、俺の手の中にカチヤがいた。
抱きしめてしまった。
良くない、そう分かっているのに。
ああ、駄目だ。
◇ ◇ ◇ ◇
魔法開発のために、街を離れ2日後。
ようやく、街に帰ってきた。
あの後、小屋から出ずに1日過ごしてしまった。
1日経ち、冷静に分析すると。
きっと、副作用が起きた。 そうに違いない。
いや、行動までは魔法のせいにはしないけど。
何から何まで、おかしなことばかりだ。
感情が抑えられないと言うか、生存本能を刺激されたと言うか。
いや、いい訳は良くない。
カチヤには、きちんと言いましたよ?
自分の思いのたけを。
でもね? 我ながらあれは無い。
女の子を、あんな風にしてしまうなんて。
・・・・・・情けないやら、でもどこか嬉しいやら。
俺って、馬鹿だなぁ~。
流石に疲れているのか、カチヤは俺の背中で寝ている。
はぁ、ついに手を出してしまったか・・・・・・。
何時かはこうなるとは、思っていたけど。
今かぁ~! 何でこうなったんだろう?
いや、ああ、でも。
頭が纏まらない。
宿に帰ろうとすると、見覚えのある姿が近づいてくる。
バルドゥル様? まだこの街にいたんだ。
「おお、本当にいた」
「おはようございます、バルドゥル様」
本当に? なんだ? 誰かに聞いたような口ぶりだな。
「昨夜はお楽しみでしたね? だっけな?」
「っぶふぅぅぅ!!!」
何言いだした? 何でそのフレーズ知ってるんだ???
「? ははぁ~ん、そう言ううことか」
????? どう言うことだ?
この人、異世界人だったのか?
「何だ、神様がこう言えって言ったのは、そう言うこと?」
「神・・・・・・様?」
「そうそう、夢の中に出てきて、ここでお前に会ってこう言えって
何でかなぁ~っと、思ったんだけど。意外と下衆なこと言うもんだな? 神様って」
あいつぅうぅぅぅ!!!!
からかう為に、力使いやがって!!!!
殺してやる!! 絶対殺してやる!!
「落ち着けって、アドルフ。こうも言ってたぞ? 魔法の新しい使い方を考えないと、お前死ぬかもって」
え?
「魔法のことはよくわからないど、今お前が使ってる魔法な、お前に掛かる負荷が尋常ではないって。変えられないなら、もう使うなって、神様言ってたぞ?」
なんだって?
負荷が掛かってる?
やっぱり、副作用なの?
即死じゃないだけで、十分危なかったってこと?
もう!! 人づてじゃなくて、直接来いよ!
訳分かんないって!!
「まぁ、伝言は伝えたから。あんまり、気にするな。 多分カチヤ嬢も嬉しいと思ってるって」
あなたも十分下衆ですよ。
気にしてるの、そこじゃないし。
魔法のことだし。
でも、嫌われてないのかぁ~。
それはそれで、嬉しい事だよな。
いやいや、そうじゃない。
魔法の使い方を変える? 出来ることなのか?
これまで通りじゃ、駄目と言われても。
どんな使い方をすればいいんだろう?
きっと、3属性全部のことだよな?
正しい使い方・・・・・・か。




