89話
諸問題はあったものの、当初の目的、砦の隠し部屋に侵入する。
これは、問題なさそうだ。
若干、手の上げ過ぎで、疲れているけど。
ラインハルトの様に、小一時間腹抱えて笑ってないもの。
未だに、立つのも辛そうにのっそりと歩いてやがる。
ちっくしょう!!
後で覚えてろよ? 絶対笑えないことしてやるからな。
ラインハルトを睨むと、俺の視線に気が付いたのか振り向いてくる。
目が合うと・・・・・・、また笑いだしやがった。
さて、笑い上戸は置いておいて。
どこから入ればいいんだ?
何か、仕掛けのカギらしい短剣もあるし、入口から入ったほうがいいのかな?
けど、部屋はもうわかってるんだよなぁ~。
馬鹿正直に、付き合う必要があるのか?
肉体的にも、精神的にも疲れてるし。 早く寝たい。
ラインハルトが、大真面目に入口を探している。
この調子だと、日も暮れるかもなぁ~。
あそこら辺なんだよな、隠し部屋。
瓦礫の下にあったから、そこそこ厚い天井になってるようだけど、爆裂魔法でいけるな。
・・・・・・。
行けるんだよなぁ~。
まだ探してるし、時間かかりそうだよな?
俺は、爆裂魔法を瞬間的に3つ創造し、わずかに残っていた基礎ごと地面を吹き飛ばした。
「おーい! 部屋開いたよー!!」
「おいこら! アドルフ!! 何でロマンの欠片もない行動取ってるんだ!」
「だって、疲れてるし。 見て、キミの婚約者さん。すっかり興味失ってるよ? 野営の準備始めちゃったもの」
捜索は俺達に任せて、一人で黙々と野営の準備に入っているクラウディア。
流石お姉さん、ラインハルトみたいな子供のノリには付いていかないね。
これは、我がセロフィー王国も安泰だ。
舵取りがいるもの。
クラウディアの様子を見て、ブツブツと文句らしき発言をしているが、ここはスルーだ。
早く済ましたいし。
俺の空けた天井から、皆が侵入していく。
流石のクラウディアも、付いて来ている。
まぁ、予想通り。
部屋にあったのは、次の行き先についてだ。
『凍れる河に向かえ』
その文言の隣に、片翼の竜の紋章。
一体、幾つの遺跡を見せられるのか?
「『凍れる河』だって、知ってる? 俺はもう知らないんだけど」
正直原初のエピソードは、魔法の方に気を取られていて、砦以外は記憶にない。
「全く・・・・・・お前は、少しは歴史も勉強しろよ」
うん、ラインハルトの言い分も尤だ。
けど、このノリをする人のことを、これから知りたいと思うかね?
だって、良く考えても見てほしい。
幾ら重要な情報だとしても、わざわざ自分が潰した砦に来て、隠し部屋を創る人だぞ?
どんな理由があったにしろ、自分が攻撃した砦の跡に来て、仕掛けまで作っちゃうんだぞ?
並みの神経じゃやらないだろ?
イカレ・・・・・・悪ふざけに全力かけすぎだろ。
全く。
「ちょっとさ、この部屋の仕掛け見てきてもいいかな?」
ラインハルトが目を輝かせて、部屋を出て行く。
ご丁寧に、出口と書かれた扉の隣に、入口らしきものがある。
しょうがないので、皆でラインハルトの後を付いていく。
入口らしき扉の上に『扉に虹を掛けろ』と、掘ってある。
絶対、楽しんでますよね?
笑顔で創ってますよね?
神殺しの法で、異端認定されたんじゃないのかよ?
しかもこれ、勇者さんも巻き込んでるんだよね?
石板は、勇者さんの家にあった訳だし?
なにこれ? 馬鹿なの?
ラインハルトが扉の溝に沿って、短剣を走らせる。
一瞬、短剣の紋章が光り、扉が開いた。
?
なにこれ?
魔法的な処置をしていたのか?
そんな事もできたの?
魔導の世界とやらは、余程魔法が進んだ世界のようだな。
正直、原初のノリには付いていけないけど、これには感心するほかない。
元の俺の世界で、この大きさの石の扉を開けるには、かなりの機械的装置を作らないと出来ない所業だ。
それを、1000年経っても維持できるなんて、恐ろしいほどの実力を有していたに違いない。
叶うなら、一度会って話を聞いてみたい。
まぁ、それは叶わないけど。
この人がいたら、魔法も今以上に開発が進んでいたかもしれないな。
過去の英雄に想いを馳せていると
「次の場所では、私にやらせてください」
そう、クラウディアが興奮気味にラインハルトに詰め寄っていた。
なんだよ、結局興味深々だったのかよ。
さっきまでの態度はなんだったの?
◇ ◇ ◇ ◇
夜になり、皆が寝静まった頃、俺は一人砦跡に建てた土の小屋を抜け出す。
昼間に創った魔法。
爆発なのか、斥力なのか分からない魔法。
これを実験する方法を、俺は思いついてしまった。
確かに、指向性は持たせることは出来なかった。
しかし、それは訓練でもどうにもできないものなのか?
創ってしまった者として、知っておく必要があるだろう。
そう、知っておく必要があるのだ。
そう言う訳で、小屋からかなり離れて、暗がりの中にいる。
幸い、なだらかな場所を見つけた。
ここまで来れば、音も衝撃も知られることもなく、実験が出来るだろう。
かなり前に使っただけだけど、地面に深い穴を空ける。
爆裂魔法ではなく、土魔法で。
うん、狼戦以来だけど、中級魔法を覚えたことで記憶にあるより簡単に出来たな。
地面に空けた穴に、中が見えるように松明を刺さして行く。
こんなロッククライミングは、今後はやらないようにしよう。
さて、準備は出来た。
穴に魔法を放つ。
イメージでは、壁に向かって衝撃が行くようにしている。
微かな揺れを感じて、衝撃となった穴の中の空気が上に逃げてくる。
・・・・・・ま、まぁね? 知ってた知ってた。
出口が一方向だと、そりゃ空気砲みたいになるよね?
この方法でも駄目か?
案外いい方法だと、思ったんだけど。
さて、次はどうしようか?
名案だと思って、次の方法を考えてないぞ?
あれかな? いったん保留しようかな?
似たような魔法が出来れば、制御できるかもしれないし。
えーっと、・・・・・・土水木と、火土風とやったから、土は休んで風水木でやってみようか?
この組み合わせは、何かさわやかな組み合わせだから簡単でしょ。
何か、木々の揺れる高原のイメージだし。
根拠はないけど。
早速合成してみたところ。
あ、これは駄目な組み合わせだ。
正体不明な火土水と、似た感覚がある。
地上には打てないな。
目線を下げると、暗い穴が未だに空いている。
一度魔力を霧散させると、穴の中の松明に火をつけ直す。
うん、これで見えるな。
再度、危険そうな魔法を合成していく。
穴の中に落とすと、撃ちだしたわけでもないのに、かなりの速度で落ちていく。
底で膨張する魔力の塊を眺めていると、備え付けた松明の火が魔力に向かって引き寄せられる。
真黒な塊に引き寄せられ、光も発しない。
周囲の壁も次第に、剥がれて吸い込まれていく。
辛うじて残った、わずかな光の中でも、危険な光景だと分かる。
咄嗟に火土水の合成魔法を穴に落とす。
瞬間、激しい揺れが襲うが、穴の中は静寂が戻っていた。
ああ、これは駄目だ。
危険なんてものじゃない。
制御できるイメージが湧かない。
なるほど、この二つの魔法が何か、今分かった。
重力魔法だ。
重力魔法、勿論あったらいいなと思っていたし、もしかしてと想像もしていた。
俺が想像したのは、引力だけで物体を押し付けるような魔法だった。
しかし、実際は引力と斥力を分けていて、球体の中心から真逆の反応が起こるようだ。
強力かもしれないけど、使えるのか?
魔力を球体にしなければいいのか?
でも俺、今まで押し固めることしかしてこなかったからなぁ~
3属性の合成は、今までと同じ考え方じゃダメなのかな?
探索は、使い勝手がいいんだけど、他がなぁ~。
まだ、後2パターンあるけど、気を付けて創らないと駄目みたいだな。
さて、そろそろ戻らないと。
ばれない様に、土を戻して・・・・・・。
中で剥がれた分は、凹んでたので、新たに土を作成して小屋に戻る。
よしよし、皆寝ているな。
完全犯罪成功!!
朝になり
「夜中に、どこか行ってたの?」と、カチヤに声を掛けられる。
「いや、どこっも行ってないけど?」
「じゃぁ、何で? 泥だらけなの?」
え?
自分の服を見てみると、あちこちに新しい泥が付いていた。
あ・・・・・・。
穴に降りて行った時か。
ああ、完全犯罪なんて、出来ないんだな。




