85話
デーア山に着いた。
山と言えば、嘗て登ったことのあるヴィルトカッツェ山。
そして、アポステル山。
その何方よりも、高く広大だった。
山と言うより、山脈と言えるのではないだろうか?
「これを、一人で全域の登山は、妨害できないんじゃない?」
「ああ、かなり大規模な、軍隊でもないと無理そうだな」
「やっぱり、スクロース」
「可能性は、高くなりましてよ?」
皆の警戒は、当然だ。
この山脈の全域をカバーするのに、一体どれだけの人員が必要になるだろう?
2万か? 4万か? それとも10万か?
そんな人数と事を構えるなんて、もうこれは、戦争と言っていいだろう。
4対10万。
考えるだけで、必敗確定だろう。
なら、少人数でも対応できるのは、指揮をしているであろう将軍クラスの捕縛だ。
将軍らしき人を、拘束し人質として交渉する。
これしかないだろう。
山脈全域を、闇雲に探しても消耗するだけ。
ならば、霧の探索魔法で、山脈を虱潰しに探すしかない。
出来るか?
今までとは、規模が違いすぎる。
けど、やらなくては。
「俺が倒れたら、後は頼む」
「ああ」
「アディは、私が護る」
「カチヤ、頼んだ。行くぞ!」
「アドルフさん? 私は何も言ってないんですが?」
「クラウディア・・・・・・頑張れ」
「もう、絶対に援護しませんからね!」
さて、馬鹿話をしていたら、大分肩の力が抜けたな。
これまで使用したことが無い、大量の魔力を集中させる。
周囲の魔素では、足りないかもしれない。
不本意ではあるけど、魔素創造魔法でブーストしよう。
平衡感覚が、一時的に失われる感覚。
視界が狭窄していく不快感。
それを一瞬ではあるが、味わうのは肉体的にも精神的にも、宜しくはないだろう。
しかし、勇者と原初の魔法使いの足跡を辿る為、今は最大限に自分を使わないと。
ああ、来た来た。
嘔吐感が押し寄せる。
平衡感覚を、一時的に狂わせているからだろう。
視界が狭くなる恐怖。
それを抑え込み、霧の魔法を発動する。
目の前に広がる山脈。
視界に映る山肌に、霧が立ち込める。
獣の反応、まだまだ無数に反応がある。
いや、おかしい。
少なくとも、万の軍勢がそこに居るはずなのに獣が多い。
人の反応は・・・・・・あった。
けど・・・・・・数十人だな?
それに、一か所に固まっている。
分かる範囲に、人の反応はそこだけだ。
「ぶはぁぁ」
「おい! アドルフ、大丈夫か?」
「ああ、だけど・・・・・・」
知りえた情報を、話していく。
事前の話とも予想とも違う、その情報を。
「もしや、ああ!! やられた」
ラインハルトが、天を仰ぐ。
何か分かったのか?
「皆、よく聞けよ? 俺達は・・・・・・担がれたんだ」
かつがれた?
・・・・・・っ!
「騙されたってこと?!」
「ああ、やられた」
取りあえず、人の反応があった所に急行してみる。
それで、真相は明らかになる。
人の反応があった所、そこは山の中を開拓した村があっただけだった。
「あれま、外から人が来るなんて、珍しいこともあるもんだ」
呆然とする俺達を見つけた老人は、突然の訪問客に驚いているようだ。
俺達も、驚いている。
只ののどかな村だ。
とても、軍隊が偽装しているようには見えない。
老人に話を聞くと
「馬鹿言っちゃいけねぇ、ベニートってのは、この村を開拓した人の名だぁ」
老人に案内された、石碑。
そこには、開拓者の名前があった。
その中に、確かにベニートの名が・・・・・・あった。
石碑の風か具合から、老人の話の方が真実だろう。
マジか・・・・・・小銭欲しさに、冒険者がこんな嘘を付くなんて。
情報が少ないのを、・・・・・・逆手に取られた。
ああ、そう言えば獅子の時も今回も、一人の情報に踊らされてるなぁ~。
もう一回、情報の取り方勉強しよう。
緊張が解けて、その場でへたり込む俺達を、村の人は不思議そうに眺めていた。
「何だ? お前さん方、勇者様の神殿に行きたかったのか?」
「はい、そうなんです」
「それなら、早く行った方が良いぞ? もうすぐ雪が降るでな」
「雪? 本当ですか?」
「ああ、あれ見てみろ」
指さした方を、見てみる。
山の頂上付近にに、厚い雲がかかっているのが見える。
「あれが掛かったら、その下は雪が降っとるで、神殿付近に雪が降るのは、3日後くらいかなぁ」
周囲の人を見ると、頷いている。
これは、本当みたいだ。
「急がんと、神殿に入れるのは、次の春になってしまうな」
「ここから、神殿までは?」
「そうさな、村の者なら半日、慣れてないと1日は掛かる」
捜索には、一日は使いたい。
なら・・・・・・。
「帰りに、また寄らせてもらいます」
「おお、気を付けて行けよ」
すぐさま出立するしかなかった。
騙された後の脱力感を引きずりながら、神殿に向けて歩を進める。
標高が高くなるが、山で出会う獣は大型が多い。
巨大な雄鹿や、猪。
良くぞここまで、育ったものだ。
牡鹿に至っては、角が7又に分かれていた。
幾ら魔物の鹿とは言え、よくこれだけの年数生きられたな。
大きな角が、木々の邪魔になるだろうに。
まぁ、八つ当たり気味に、狩りましたがね。
帰りに村で、振舞おう。
少し進むとガサリと、前の木々が揺れる。
あ、赤カ〇ト。
いやいや、違う。
熊の魔物だ。
冬眠前なのか、血の臭いに誘われたのだろう。
以前、アポステル山で狩った熊よりも大きい。
3・・・・・・いや、3.5メートル位か?
空腹なのか、人にあった警戒心からなのか、興奮しているようだ。
「気をつ・・・・・・」
俺の目の前にいたカチヤが、飛び出す。
熊が威嚇行動をとったその隙に、懐に入り竜鉱の剣を一閃する。
熊の魔物の首が宙を舞い、地面に落ちる所で、首を失った身体も地面に落ちる。
「早く、先を急ぐ」
「あ、はい」
カチヤの目が座っている。
完全にキレた目だ、俺も数回しか見たことが無い。
一連の件に、堪え切れなかったんだろう。
滅多に見せない、剣鬼の娘の一面が、表に出てきている。
早く終わらせて、気分転換させてやらないと。
・・・・・・後が怖い。
それから、少し進むと日が落ちてしまった。
夜間の山を進むわけにもいかず、野営をする。
いや、山の中に小屋を建てる。
土魔法って、あると便利だな。
カチヤの気を静めるために、夕食は豪華に猪一頭分を調理する。
カチヤ自ら調理をして、気分転換になったのだろう。
食事の時には、いつもの目に戻っていた。
これで、夜通し稽古に付き合わなくて済みそうだ。
夜が明け、足早に進んで行くと目の前に、やっと神殿が姿を現す。
ついに、勇者たちの1つ目の足跡を辿ることが出来る。
当たりを引けるのか、それとも無駄足か。
注意深く捜索をしよう。




