81話
「おーい!!」
アスファムの王都に入ってから、暫く歩いているとどこからか、大きな声が聞こえる。
「おーい! ラインハルト!!」
「呼ばれてるぞ?」
「ああ、呼ばれてるな」
どこからの声だろうか?
ラインハルトが、呼ばれている。
周囲を注意深く、観察している俺達を周囲の人たちが、不審がって眺めていく。
お上りさんと思われたのだろうか?
中には、温かい笑みを浮かべた、ご婦人も見受けられる。
「おーい! ラインハルト!! こっち、こっち!!」
相手も近くなったのか、鮮明に声が聞こえる。
あ、いた。
あの人・・・・・・って。
「ラインハルト、兄君様だぞ」
「え? あ、あぁ」
ラインハルトを振り向かせて声を上げていた人を、指さす。
それを視線で追っていた、ラインハルトは脱力と言った感じで、緩めていた。
「ラインハルト、久しぶりだな。どうした、こんなところで?」
ラインハルトと比べても、大きな上背をしたがっちりとした肉体を持つ、この方はラインハルトの実の兄君、前バルドゥル第一王子だ。
今は、出奔したせいで、只のバルドゥル・ベッカーさんだ。
ミドルネームは、・・・なんだったっけ?
久しく会っていないかったし、特に接点もない方なので俺も詳しく知らないのだが。
ただ一つ、兄弟でも第一と第三は、仲が良かった。
そう記憶している。
「お久しぶりでございます、御無事でしたか、兄上」
恭しく、頭を下げるラインハルト。
「よせよせ、俺はもう、セロフィーじゃなくて母方のベッカーを名乗っているし。今はしがない冒険者だ。ああ、俺の方が頭を下げなくてはな」
そう言って、バルドゥル様も頭を下げる。
「止めてください、兄上」
「それで、どうしたんだ?隣国とは言え、この時期に国元に居ないのは珍しいじゃないか?」
そう、何やかんやあって、新年がに近いこの時期に俺達は、国に帰ることが出来ないでいた。
何故なら、ここからだと、山越えをしないと自国に入ることが出来ないからだ。
今は冬、山は雪に覆われている。
勿論、最短のルートを超えなくても入国は出来るが、何方にせよ、新年のパーティーには間に合うことはなくなったのだ。
「はぁ~、大変だなぁ~良かったよ、俺がアドルフと同い年じゃなくて」
これまでの経緯を説明した感想が、これだった。
いや、別に同い年だからとか、関係ないんじゃ?
魔法を使えたから、一緒に行動しているのであって何も、友達だから、一緒にいるんじゃないんだからね!
・・・・・・・気持ち悪い。
最近おかしいな俺?
疲れているのかな?
「それで、兄上はどうしてこちらに?」
「ああ、この国は大型種が多いって、聞いたもんだから仲間と、獲物を狩りにな」
「狩り、ですか?」
「ああ、ここから北に行ったところには獅子がいるらしいし、東に行けば虎がいるらしい。そいつらを、狩れば素材はどこに持って行っても高いからな、20人くらいの編成で来たんだ」
「はぁ、虎に獅子ですか」
「なんだ? もっと驚くかと思ったんだがなぁ~・・・・・・ああ、魔法使い殿がいれば珍しい相手でもないか」
そんなん感じで、ラインハルトは兄との談笑をしていたが
「兄上、我らはこの国の王に謁見せねばなりません。名残惜しいですが、これにて」
「ああ、気を付けて帰れよ」
と、バルドゥル様と別れた。
「俺達だけ行っても、良かったんだけど?」
「そんな訳にもいかないだろう?気を使ってもらって、すまんな」
そう言って、歩き出した。
まぁ、王太子が入国したのに挨拶に来なければ、不快に思うかもしれないしな。
王城に行くと、割とすんなりと謁見出来た。
まぁ、あれだけあからさまに、監視していたんだ。
歓待の用意が出来ていないと、おかしいだろう。
ただ、謁見として、通されたのは謁見の間ではなく。
只の個室だ。
そこには、恰幅の良い男性が、書類と睨めっこしていた。
「陛下、セロフィーの王太子殿下と魔法使い殿がお見えです」
そう声がかかると、書類から目を上げて俺達に鋭い目線を投げる。
そうして、ゆっくりと机を迂回し
「おお、良くおいで下さった歓迎しますぞ、ラインハルト殿下、魔法使い殿」
と、気さくな笑みを浮かべて、対応してくる。
「して? このような所に何様があっていらしたのかな?いきなりのご訪問で、少々驚きましたぞ」
うわぁ~、なんて白々しい。
入国時に、紋章も見せているし、監視も付けていたのにこの対応なのか。
態度とは、裏腹に歓迎されていないな。
「おや? てっきりご存知かと思いましたぞ。何やら、護衛も付けて下さったようですし?」
「はて? 護衛ですか? そのような報告は、受けていませんでしたな。我が国の市井は、王族が珍しいのでしょう。取り入ろうとする輩も居ります故、お気を付けください」
ラインハルトとアスファム王は、お互い笑みを崩さず言葉を交わしている。
王族って怖いなぁ~。
もっと、腹割って話し合うことが、できないものかね?
「それで、どのような御用ですかな?」
「これまで、各国に通達はしたのですが、魔神が現れたことそして、後8年程で、魔族が攻めてくる可能性が出てきましたので、ご報告とご忠告を」
「おお、それはそれは、ご丁寧に痛み入ります」
「それで、我らは魔導の勇者の足跡に状況打開の光明がないか、と思いましてこちらの国に、お邪魔させて頂いたのです」
ちょっと、ラインハルトの話は、核心に近い所が出ていて、危なっかしいけど。
まぁ、気が付いたら、後8年。
勇者の足跡を辿るにしても、時間が足りるのか、不安な所だ。
思案顔のアスファム王は、顔を上げて
「おお、そう言えばここより北に彼の勇者様と魔導の勇者様が、出会った場所がありますな。そちらを尋ねてみたら、いかがでしょうか?」
魔導の勇者と勇者の、出会いの場所?
へぇ~、スクロースで出会ったのもだと思っていたけど、この国で出会ったんだ?
ってことは、魔導の勇者の転移してきた場所ってことか?
いや、そうとは限らないか。
兎に角、原初の魔法使いに所縁のある場所は多い方がいい。
何か、手掛かりがあるといいんだけど。
俺がそんな事を考えていると
「そう言えば、アスファム王陛下この国で、竜の解体が行えるものは、おりますか?」
ああ、ラインハルト。
まだ、盾、諦めて無かったんだ。
「居りますが、・・・・・・あまり大きいのは難しいと思いますぞ?」
ああ、その話も知ってたんだ?
つい、2週間前のことなのに商人の国、侮りがたし。




