75話
法王聖下の話のお陰で、俺の持っていた疑問の大半は解消されたと言ってもいいだろう。
まぁ、何で神は、魔族と人族を分けたのか?
と言う疑問は残っているが、身体強化魔法に付いても知ることが出来たのは、大きな収穫だといっていいだろう。
調べのもが、一段落したと言うことで、俺達は城下町に繰り出している。
これまでの旅のお陰で、観光に使える資金も潤沢だ。
一通り見て回ると
「なにこれ? お面?」
「ん? 勇者の仮面だって、アディ欲しいの?」
「いや、俺は・・・・・・弟たちにはちょうどいいお土産かな?」
「んー、クリスも要らないんじゃない?」
「どうかな、意外と子供っぽい気が・・・・・・。」
いや、そもそもクリスって幾つだ?
まぁ、いいか。
それにしても、お面があるなんて縁日の屋台みたいだな。
遠い前世の記憶を辿ると、・・・・・・あれ?
何時まで行ってたっけ?
あ、胸が痛い。
まぁ、都合の悪い記憶は、思い出さなくていいよな。
前世だと、ヒーローもののお面とかあったけど
この世界だと、ヒーローは勇者になるみたいだ。
ふむ、ヒーローか・・・・・・。
想えば、忙しいのに協力的だった法王聖下と騎士団長に、お返しするものが無いな。
『魔導の勇者様に協力するのも、我が教団の優先事項ですから』
なんて言われてしまったが、貰うだけと言うのも落ち着かない。
素顔を隠すのに、仮面て常套手段だよね?
赤い大佐も、影の忍者も素顔を隠すのに仮面を使っていたし。
「アディ、買うの?」
「ああ、これ使ってさ・・・・・・。」
幸い、ブレーキ役のラインハルト達は、向こうでイチャコラしている。
俺達も俺たちなりの、イチャコラをしよう。
「アディ、・・・・・・それ面白い。」
おお、珍しくカチヤも俺の案に乗り気だ。
「じゃぁ、オジサン勇者の仮面4つもらえる?」
「はいよっ!」
「4つ?」
「妹のヘルガにもお土産は、必要だろ?」
先ほどとは、打って変って渋い表情のカチヤ。
「私もお土産買うから、一緒に持って行ってあげて。」
?
なんか、俺のだけじゃ妹に喜ばれないような言い方じゃないか?
・・・・・・そうなの?
まぁ、もう買ってしまったし、仕方がないか。
◇ ◇ ◇
「きゃぁーーーーーーーー!」
闇夜を切り裂く、悲鳴。
路地に追い詰められた、女性。
女性を追い詰めた影は、凡そ人にはできない口の開き方をしている。
恐怖に怯える女性が
「あ、悪食」
そう呟くと、悪食は嬉しそうに表情を歪めジリジリと、女性に詰め寄る。
この街で、悪食に遭遇すると言うこと。
それは生きていても、自害しても人としての尊厳を剥奪されると言うこと。
女性の脳裏に、数年前に目にした光景が広がる。
男女が関係なく蹂躙される光景を。
生きたまま肉を削がれ、凌辱されていく様を。
凡そ人の最期に一番相応しくないその光景が、呼び起こされる。
先ほどまで、路地は暗く闇が支配していたが、白んできた空から光が差し込み悪食の、その醜悪な表情が鮮明に映し出される。
腰が抜けたその身体では、到底逃げることはかなわない。
しかし、自ら死を選ぶこともできない。
女性が恐怖に支配されようとした時
「待て!!」
その声と共に、二つの影が姿を現した。
勇者の仮面を被った、二人の影。
その人影に、悪食が目を向けると人影は火の剣を手に、悪食の横を通り過ぎる。
女性の目の前に来た、二つの影は
「もう、大丈夫ですよ。」
「この街の、悪食はこれで最後。」
そう言い残し、再び女性の目の前から消え去った。
影の後ろに居た、悪食は首と、胴体が離れ未だにピクピクと、痙攣している。
すると、どこからか飛来した火の玉が悪食の残骸に降り注ぐと、眩い閃光を放ち悪食の残骸は、路地から消滅していた。
日が完全に顔を出し、辺りが明るくなるまで女性は目の前で起きたことを、反芻していた。
翌日、似たような出来事に遭遇した人々が神の遣いに会ったと、興奮気味に話す姿が
街の至る所で、見られることになる。
◇ ◇ ◇
女性が襲われる数時間前。
俺の考えた案。
それは、カチヤと二人で、秘密裏に街に侵入している悪食を、討伐することだ。
あまり派手には行動できないが、仮面で顔を隠してしまえば、俺達がラインハルトにお小言を貰うこともないだろう。
何せ、俺達がやったと言う、確定的な証拠はないのだから。
十分に誤魔化せるだろう。
夜を待って、行動を開始する。
探索魔法で、街中を確認する。
うわぁ、意外と入り込んでるじゃん。
仮面を装着し、反応が有った方角を指さす。
頷き合い、屋根伝いに飛び回る。
俺達に見つかった悪食は、一様に時代劇の悪役の様に狼狽え攻撃してくる。
仮面をして、この反応を見ているとあるフレーズが、頭に過ぎる。
1つ、人の〇の生血を啜り、
2つ、故郷〇にして、
3つ、みにくいハ〇がある
4つ、宜しくお〇さま
・・・・・・やめよう、色々混ざってるし。
そうこうしながら、街を駆け回り空が白んでくるころ。
この街の悪食は、居なくなっていた。
って言うか、居すぎじゃない?
なに、50匹って?
5年前の被害が多かった時って、100以上いたの?
あんな化け物が、50もいたら大問題だろうに騎士団は仕事してるのかなぁ?
・・・・・・まぁ、もう眠いし。
考えるのはやめにしよう。
「じゃぁ、帰るか。」
「うん。」
そう言って、来た道を引き返しこっそりと城に侵入して、ベッドに潜り込む。
翌日、街で神の御使いが現れた。
そのような話が、街のあちこちで聞こえている。
カチヤと目が合い、二人で微笑み合うとラインハルトが無粋にも、割って入る。
「お前、またやったな?アドルフ。」
ほら来た、何かあると、俺を疑う。
「ラインハルトの悪い癖が出てきたな。」
「なに?」
「確かに、俺ならできなくもないよ? でも、俺がやったと言う証拠はないだろ?」
本当は俺達がやったけど、仮面で顔隠してたし。
「ほう、火の剣を使える奴が、お前以外に居ると?」
「だって、俺達皆、・・・・・・クラウディア以外は使えるじゃん? 情報は、公開しているんだし、いきなり使えても不思議じゃないんじゃない?」
いや、十分不思議だ。
そんな奴居るなら、魔法省にスカウトしたいくらいだ。
「爆裂魔法に似た魔法が、使用された目撃情報もあるんだが?」
「へー、偶然てあるもんだね。」
ある訳無い。
そもそも、俺が使った爆裂魔法だし。
しかし、今回のことはあくまで、神の御使いがやったこと。
そうしないと、法王聖下と騎士団長に恩返しできないしあれだけ侵入を許していた、騎士団の面目にも係わる。
「だから、やっぱり、神の御使いだよ。な? カチヤ。」
「きっと、そう。」
「カチヤ、お前もか?」
「神様の使い、そうに違いない。」
まぁ、ラインハルトには、街を後にした時に本当のことを話すとしよう。
だけど、今は秘密だ。
法王聖下と騎士団長も、追及したがっていたが俺とカチヤは、神の御使いと言うことで
押し切った。
少し苦い顔をされたが、人相が分からない手前それ以上の追及はされなかった。




