74話
「どうですか? 捗っておられますかな?」
あの一件から、法王聖下や騎士団長は俺達に目を掛けてくれているのか、事あるごとに俺達の籠っている
書庫に顔を出してくれるようになった。
「法王聖下、御心遣いありがとうございます。」
俺達は皆、聖下に頭を下げる。
本当にありがたい。
この書庫に入ることが出来るのは本来なら、法王聖下以下3人の枢機卿の連名の書類が無いと入れない。
そんなところに、入室を許可してくれるどころかこうして、自ら足を運んでくれるなんてこの国を嫌う奴の、気が知れないよ。
全く・・・・・・。
「よいのじゃ、よいのじゃ。」
法王聖下の顔も、初めて会った日からだんだんと、柔らかな表情になり今では好好爺と言った雰囲気すらある。
しかし、残念なこともある。
魔族に関する情報が、やはり少ないのだ。
何時まで経っても、これと腑に落ちる情報が無くより、魔族の姿に靄が掛かる。
そんな印象で、もう1週間になる。
俺達がうんうんと、頭を悩ませていると
「やはり、魔族に関して分かりませんか?」
「ええ・・・・・・」
思わず、正直に頷いてしまった。
慌てて、聖下に振り向くと手で俺を制して、うんうんと頷いている。
申し訳ないが、正直煮詰まっていて周りが見えていなかったのだろう。
やはり、木竜に教えを請いに行かないと・・・・・・。
いや、木竜の報酬が・・・・・・。
確実な手段があるのに、使えないもどかしさ。
付き合わせている皆にも悪い気がしてきた。
大体、人族と魔族は何故、戦争になったのか?
これが見えて来ない。
書架を背に、天井を見上げる。
もう何回、こうしているのだろう。
天井には、前世にもあったような
宗教画らしきものが、描かれている。
まぁ、暗くてほとんど見えないんだけど。
「魔導の勇者様は、あの絵が気に入ったのですかな?」
「あ、いえ。・・・・・・あの絵って何時からあるものなんですか?」
俺の奇行に法王聖下が、付き合ってくれるらしい。
まぁ、他国でこんなにゆっくりするのは初めてだし。
絵画鑑賞もたまには、良いだろう。
「あの絵は、この国が建国された頃に描かれたものだと言われています。」
へぇ・・・・・・。
それは随分と古いものなんだろう。
勇者たちの話が、1000年前。
それより昔か。
想像もできないな。
「この部屋は、その昔、礼拝堂として使われておりました。信徒が多くなり、手狭になったので今の礼拝堂に場所を移したのですがほら、あそこにまだ、燭台が残っているでしょう? あれに火を灯すと何とも荘厳な雰囲気になるのですよ。」
ほう、そこまで言われたら、是非とも見てみたい気がする。
蝋燭、蝋燭は・・・・・・と。
無いな。
「カチヤ、蝋燭ってそっちにない?」
「・・・・・・これなら。」
カチヤに手渡された蝋燭を手に法王聖下を見る。
笑みを浮かべて、頷いてくれたので少し高いが、燭台に蝋燭を取り付ける。
え・・・・・・っと
火はどうしよう?
火打石なんて・・・・・・魔法でいいか。
圧縮していない火を、蝋燭に近づけ火を灯す。
天井付近の暗がりが、引いていく。
はぁぁぁぁ。
これはすごい。
見事な絵画が浮かび上がる。
書かれているのは、人族と神様だろうか。
神様の威光で、繁栄していく姿が描かれている。
火が灯った側の天井に、目が奪われる。
皆も上を見上げている。
・・・・・・ラインハルトは口を開けて見上げている。
こうなると、反対側も気になる。
反対側に移動すると、クラウディアが蝋燭を渡してくる。
何で、何本もあるんだ?
まぁ、いい。
こちら側も火を灯す。
さぁ、どんなものが描かれているのか・・・・・・。
「な! ・・・・・・なんで?」
そこに描かれていたのは、人族と同じように神に祝福を受けて繁栄していく、魔族の姿。
勘違いかとも思ったが、頭に生える角。
明らかに、人族にはないものだ。
同じ神に同様に祝福を受ける、両種族。
中央では、お互いに手を取りあっている。
法王聖下の方を向くと、含み笑いをしている。
知ってたんだ、最初から・・・・・・。
「聖下、これは・・・・・・どう言うことですか?」
「やっと、見つけてくれましたな。女神が説得のわけ、これで分かりましたかな?」
魔王討伐を止めようとしていた女神。
人族に厄災をもたらしたと言われる魔王に肩入れした女神。
「女神さまは、この事実を忘れた両種族に愛想をつかしたのかもしれませんな。」
魔族と人族はともに手を取りあっていた歴史が存在していた?
じゃぁ、何故?
「では、爺の昔語りに付き合ってもらえますかな?」
法王聖下は、ポツポツと語り始めた。
始めは些細な言い争いだった。
人族と魔族、何方が神に愛されているか。
人族は、数を増やすことに長けた自分たちこそ神に愛されていると主張。
魔族は長く生きられる自分たちこそ神に愛されていると主張した。
永い言い争いは、次第に激化し手には武器を持ち、互いを殺し合うまでになった。
元々共に暮らしていた両種族の身体強化魔法は、互いに互角。
数の少ない魔族は、人族の攻勢を防ぐために9段階を創造した。
人族もそれに対抗しようと、9段階の解明に躍起になっていた。
9段階の身体強化魔法。
それは、魔族の有する永い寿命を魔力に転換し、影から生まれた獣に命を吹き込む魔法。
到底、人族の寿命では使用することが出来ない。
人族は9段階を諦め、組織力の強化に励む。
再び拮抗する両陣営。
そうすると、元々の数が少ない魔族が不利になる。
そして開発された、10段階。
生み出した獣を生贄に、更に爆発的な身体強化をその身に施す禁断の法。
10段階は圧倒的だった。
使用できる人数に限りがあるものの、人族の組織力を遥に上回るその威力。
3人で、万の軍勢を葬ったと言われている。
神は自分の子が、互いに傷つけあうことに深く悲しみ、10段階を使用したものにわが身を移し両陣営を止めるべく、説得を続けたと言う。
神の言葉を受け、形だけは和解した両種族。
だが、肉親を殺されたその恨みまでは溶かすことが出来ず、度々衝突が起きた。
1000年前、魔王は10段階を曲解し、魔族こそが真の信徒だと神の名の下に戦争を仕掛けた。(エルの言葉が本当なら、この時すでに、魔王は狂っていたのだろう。)
人族は長い戦争に疲弊し、勇者が立ち上がることになる。
そして、女神の不興を買い悪食が生まれる。
それからは、両種族とも悪食とそれぞれの種族の攻撃で戦争困難に陥り、勇者と魔王が戦い勇者が勝利。
だが、悪食はその数を増やしたため、巫女を呼び使徒を起て、父神に結界を張ってもらったそうだ。
それからも種族が回復すると、それぞれが神の名を使い戦争を起こすことになる。
300年前、不毛な争いをやめようと各国と魔族が会談を行い、不可侵を約束する。
それから、人族は種族として回復を見ることになるが魔族がどうなったのかは、誰も知らない。
「これが、歴代法王に伝えられる人族と魔族の歴史です。」
法王聖下はそう話を締めくくった。
元日本人の感覚を持っている俺に言わせれば大変在り来たりで、くだらない、胸糞悪い話だ。
しかし、実際に触れ合える神が存在するこの世界ではより神に愛された方が、繁栄する。
そう幻想しても不思議はないのではないだろうか?
あぁ、それを理解しても尚、馬鹿らしい。
そう思う俺は、やっぱり異端なのだろうか。
皆を見ると、口々に
「馬鹿らしい。」
「本当にそれだけの理由で?」
「興味ない。」
「全くです。」
と、法王聖下も馬鹿馬鹿しさに嫌気がさしている様子だ。
良かった、俺だけじゃないんだ。
「大体何で神は、魔族と人族とを創ったんですか?」
「さぁ、それは伝え聞いてないのですが木竜なら、その答えを知っているのかもしれません。」
分からない所は分からないまま。
分かった所は、とてもくだらない。
真実って言うのは、こんなものなんだろうか?
或いは、また別の見方があるのだろうか。
天井に掲げられた絵画を見ていると、そんな事どうでもよく感じるから不思議だ。




