72話
案内されたテラスから下を見ると。
おー、いるいる。
わらわらと、集まってるよ。
何人くらいいるんだ? あれ、少し多いかな?
「あの者を発見次第、処刑して構わん!! あの者は、異端者だ。」
ははは、見~付けた。
さて、法王聖下が見ているからあんまりひどい光景は見せられないぞ。
死者もいない方がいいだろう。
俺はテラスの手すりに立ち、眼下に集まる騎士団に風をぶつける。
以前ワイバーンにしたように、ただただ下に吹き降ろす風を起こす。
「な、何が起きた?」
俺を尋問しようとしていた男が慌てている。
そんなに魔力を込めていないのに、騎士団の誰もまともに立ってはいない。
あれ?
ドラゴン討伐した騎士団ですよね?
ちょっと、ヤバイかな?
ここから狙撃していこうと思ったのにこれじゃ、死人が出るかも。
思ったより、この騎士団練度低いな。
うーん。
仕方がない。
テラスの手すりから足を踏み出す。
「何を!!」
法王聖下が、俺に手を伸ばす。
大丈夫、大丈夫。
落ちながら、上昇気流を作り落下速度を落とす。
落・・・・・・ちないか?
あれえええええええええ?
地面に落ちる瞬間、数回前転して衝撃を殺していく。
あああ、怖えええええええええええええ!
ふぅ、慣れないことはするもんじゃないな。
うん、どこも痛いところは無い。
よし! 予定通り!
誰が何と言おうと、予定通り。
「貴様! どこから現れた!!」
見知った顔が驚愕の表情を浮かべる。
「驚いたぁ~?」
俺の方も驚いた。
もう、今後はカッコつけるのは、やめよう。
「さて、騎士殿? 法王聖下は大変お嘆きになっていましたよ? 栄えある騎士団ともあろう方々が嫉妬で、こんな騒ぎを起こしたことをね。」
「貴様! 法王聖下に何をした!!」
「何もしていませんよ? 少しお話をしていただけです。」
おー、顔は勇ましいのもに変ったな。
顔だけは。
姿は相変わらず、地面に抱かれてるけど。
「誰か! この者を斬れ!!」
その声に誰も反応する人はいない。
風に押し付けられているし、法王聖下には知られてるし。
一人を除いて、その表情は優れない。
「この腰抜け共が!!」
いや、寝そべりながら言っても・・・・・・。
「あなたに機会を上げましょうか?」
「なにぃ?」
「一対一で勝負しませんか? あなたは真剣でも構いませんよ?」
「俺を愚弄するのか?」
「いえいえ、お互い気が収まらないでしょう? 分かりませんか? 俺は俺の手であなたを殴りたいと言っているんですよ。」
男の近くにいる騎士から剣を拝借する。
地面に剣を刺し、少し離れる。
「ちなみに、あなたが見た魔法の威力はこんなものです。」
水の弾を剣に向けて放つ。
水の弾が当たると、短い金属音がして剣が宙に舞う。
落ちてきたのは、柄の部分のみ刀身は地面に刺さったままだ。
激しく歪んでいるが。
「これを俺はあなたに向かって放ちます。いいですね?」
風を解いたにもかかわらず、騎士団は誰一人起きてくるものはいない。
「いいですね?」
再度男に確認を取ると、表情が青くなっていることに気が付く。
あれ?
脅しすぎたかな?
「さぁ、立ってください?」
促すが、一向に立ち上がらない。
え?
あんなに、殺気立っていたのに?
俺のイライラはどこにぶつけるの?
渋々立ち上がる男。
明らかに闘志が萎えているのが分かる。
「さぁ、やりますか?」
そう言ったところで、俺の目の前に矢が刺さる。
まだいたのか?
周囲を見回すが、いない。
隠れるのうまいなぁ。
まぁ、俺には関係ないけどね。
探索魔法を行使する。
かなり広範囲に探索を掛ける。
いた。
居た・・・・・・けど
なにこれ?
目の前に立つ男の後方に控える人物に、明らかな魔石の反応がある。
嘘だろ?
人に魔石?
反応が有ったのは、騎士団の一人だ。
探索魔法は、魔石の有無で人か獣かを判断する。
魔石に反応した所を注視することで、反応が有った物を判断する。
けど・・・・・・俺が見ている者は明らかに人の姿をしている。
「おい、あんたそこを・・・・・・どいてくれないか?」
青い顔をした騎士は、俺の顔を見て怪訝な表情を浮かべている。
「もう、これまでのことは・・・・・・水に流す、頼むからそこを避けてくれ。」
魔石を持つ人影はゆっくりと立ち上がる。
周囲に寝ていた騎士団員も、その人物を見上げて不思議そうな表情を浮かべている。
「全員・・・・・・この場を離れろ。」
俺の発する声に、少しずつ距離が出来てくる。
何かがおかしい。
姿も表情も人のそれに見える。
しかし、注視すると違和感が生じる。
「おい、あんたらの国で魔石を持つ人っているのか?」
違和感の答えが分からず、呆然と立ち尽くす騎士に問を投げかける。
「そんなの・・・・・・はっ、皆離れろ―――――――――!!!」
その声に他の騎士達は一斉に走り出す。
一人を除いて。
顔を上げたその表情は大きく歪み、口は昆虫のそれのように大きく開いていた。
何かは分からないが、明らかに人ではない。
牽制なのか一つの矢が、目の前の人のようなのもに見舞われる。
昆虫のような口は、飛来する矢を器用に受け止め鏃ごと咀嚼し始めた。
久々に感じる恐怖。
今までのような命が掛かった恐怖ではない。
ホラー映画を見ているような、得体のしれないものに対する恐怖がこみ上げてくる。
矢を飲み込むと、俺の方を向きニヤリと表情を歪める。
駄目だ、もう見ていられない。
腰の袋から矢玉を握れるだけ握り無心で撃ちだす。
目標が着弾の衝撃で左右に揺れる。
尚も打ち出していくと身体を左右に揺らしながらもこちらにゆっくりと、歩を向けてくる。
ああああああああああああああ
無理無理無理。
こっちくんなぁぁああ!!!!!
縮地で目標の周囲を距離を取りながら駆けまわる。
矢玉で倒れないなら、魔法しかない。
周囲を周回しながら、初級魔法を無数に撃ちだす。
ダメージを受ける度、その姿は醜悪なのもになっていく。
正直、正視できないくらいになってきている。
もう、こうして相手をしていること自体に耐えられなくなってきている。
しかし、得体のしれないのもだからこそ攻撃の手を休めるわけにはいかない。
もう、周りの被害なんて考えたくない。
と言うか、もう終わりにしたい。
目標に爆裂魔法を打ち込んでいく。
避ける動作もなく、目標は弾けていく。
何発撃ち込んだだろうか?
気が付くと、目標の上半身は完全に消失していた。
足を止める。
目標だったものに目を向ける。
腰から上がない状態なのにそれでも足が動いている。
ズリズリと、地面を這っている。
その光景に気が触れたように叫びながら魔法を撃ちつける。
大きく肩で息をしていると
キンッ!
と、音がした。
目を向けると、そこには一片の肉片もない代わりに一つの魔石が落ちていた。
何なんだ、何だったんだ?
あれは?
終わった安堵で、足から力が抜けてその場にへたり込む。
避難していた騎士団が、こちらに近寄ってくる。
探査魔法を掛けてもその集団に魔石の反応はなかった。
もう、この国、本当に嫌いだ。
帰りたい。




