66話
全く、あいつらは、モノを開発するって言う苦労を分かっていない。
どんなに危なそうなものでも、どう危ないかを説明出来ないと、開発その物の信憑性に疑問を持たれてしまう。
そう! これは、決して好奇心から行う行為ではない。
先を見越して行う禁忌設定の為の行為だ!
よし!
言い訳はこれぐらいでいいかな?
とは、言うものの実際問題、魔法を封印するにしろ、使うにしろどの程度の威力で、効果範囲はどの程度で、対応策はどうする? なんてものを考えなくてはいけない。
これは前から考えていたことだし、俺には使いこなすことが出来なくても、いずれ誰かが必要とするかもしれない。
技術ってそういうものだろ?
未来の誰かのために、俺は喜んで泥をかぶろう。
・・・・・・こっちの方が良い話かな?
ラインハルトには、散々言い訳をして折れさせた。
他の冒険者の猟場を荒らすことには変わりがないためかなりの遠出をすることになったが。
「もうそろそろ、見えてくるころだ。」
「また来ることになるとはなぁ~」
「アディが言いだしたことだから、仕方がない。」
「ですわね。」
俺達がここに来るのは、2度目だ。
ヴィルトカッツェ山。
猫と言う、冒険者にとって厄介な魔物。
最悪全滅しても、支障がない魔物。
それを目指して再びこの山に来た。
今回ははっきり言って、ただ働きになる可能性が高い。
何せ、腐敗の魔法を試すのだから。
それでも知らなくてはいけない。
それが開発者の責任だろう。
しかし、季節は宜しくない。
冬山に好んで入っていかないといけない。
・・・・・・いやいや、新年のパーティーまでには帰らないといけない。
さっさと行かないと。
中々見当たらない。
猫は冬眠しないと思っていたけど。
山に入ってはみたものの、一向に猫に出会わない。
警戒しているのではなく、猫そのものの気配がしない。
今回は空振りかな。
中腹あたりに差し掛かるが、やはり猫は見当たらない。
さて、どうしたものか。
今回はあまり時間もない。
引き返すのなら、早い方がいい。
「居ないな。」
「ああ。」
「帰る?」
「・・・・・・」
クラウディアの表情が険しい。
無駄足につき合わされて、御立腹なんだろうか。
クラウディアは道を逸れて、獣道らしき道を進む。
いたのか?
俺達はクラウディアの後に続く。
クラウディアの進んだ先に有ったもの。
それは山猫の死骸だった。
この山で最強の生物である山猫。
その亡骸が無残に打ち捨てられていた。
「どういうことだ?」
「分からん。」
皆、警戒態勢に入る。
カチヤは山猫の死骸に近寄り、死骸を調べるようだ。
俺は、探索魔法で周囲を警戒する。
感知できるところには、生物は俺達だけだ。
死骸の中にも、生物らしき反応は無い。
「これ見て。」
カチヤが何かを見つける。
観察してみると、それは明らかに刃物で切られた痕だった。
ならばこの山猫は、ヒトに殺されたと言うこと。
しかし、毛皮など売れそうなものはそのままに放置されている。
普通の冒険者ではない。
と言うか、冒険者ではこんなもったいないことはしない。
軍隊でもこんなことはしないだろう。
では、いったい誰が?
「もしかして・・・・・・魔族か?」
「可能性は十分にある。」
ヤバイ。
今回は山で簡単な散策と決めていたので、装備は不十分だ。
防寒に偏り、戦闘に見合う装備は王都に置いて来てある。
幸いなのは各々の武器は、いつもの装備を携帯している。
しかし・・・・・・。
「アドルフ、今回は涙を飲んでもらうぞ。」
「仕方がないね。」
「そうと決まれば、早く退却しましょう。」
「ああ。」
兎に角、早くに下山しないと。
このまま、魔族との遭遇戦なんて勘弁してほしい。
それにしてもまた、魔物が居ない所に魔族の影か。
キメラなんだろうか?
いや、そうそういてたまるか、あんな者。
けど、警戒する必要は十分にある。
下山したら、軍に知らせた方が良いんだろうか?
それとも、俺達だけで戦った方が良いか?
悩むところではあるな。
すると、カチヤが立ち止まり
「あれ。」
そう言って山のある場所を指さす。
洞穴だ。
「また穴の中か?」
「2回とも穴の中だったしな。」
「嫌な気配がする。」
「どうします?」
どうしよう?
さっきり言って、仮に居たとしても出来れば関わりたくはない。
だって、エルの仲間の可能性が高いし。
エル自身は居ないだろうけど。
あいつの仲間だったら、かなりの高位魔族だろう。
「・・・・・・行くぞ。」
意を決したラインハルトは、洞穴に歩を進める。
魔族がいるなら、放置は出来ない。
「行くの?」
ただ、現状はあまり芳しくない。
けど・・・・・・。
洞穴の入口に立つ。
確かに嫌な気配が漂っている。
本当に魔族なんだろうか。
慎重に探索を始める。
壁は不均等に傷が付いている。
明らかに自然の穴ではないようだ。
最近になって掘られた穴かもしれない。
魔族の可能性が高くなったな。
足音を殺し、先を進むとやはり大きな広間があるようだ。
広間は光もなく、暗闇が支配していた。
気配はするが動く気配はない。
何故だ?
向こうも俺達に気が付いても不思議はないはずなのに?
ラインハルトが目で合図をしてくる。
探索魔法で広間を調べる。
いる。
明らかにいる。
獣の反応ではない。
ヒトの反応だ。
しかし、探索魔法を使用しても向こうの反応は無い。
謎ではあるが、こうしていても始まらない。
松明に火を灯し、広間に投げ込む。
松明に照らされ、広間の様子が見えてくる。
ヒトが倒れている。
ゆっくりと近づくと、やはり魔族だった。
何故か虫の息だが・・・・・・。
「おい、魔族よ。ここで何をしていた。」
声がかかると、魔族は顔を向けてニヤリと
笑みを浮かべる。
もう、話すこともできないのだろうか?
「言い残すことはあるか?」
これでは情報も引き出せないだろう。
楽にしてやろう。
「・・・・・・」
魔族はゆっくりと、弱弱しく首を振る。
「そうか。」
俺は剣を魔族に振り下ろす。
魔族はあっさりと事切れる。
周囲を探索してみるが、手掛かりにあるようなものは何もない。
何もないけれど、山の状態を考えると恐らく10段階を使用したのだろう。
その副作用で魔族はこうなったのだろう。
エルは、10段階が成功率の低い魔法だと言っていた。
なのに、この魔族はリスクを承知で使用したのだろう。
何がそうさせるのか?
魔族にとって10段階は神を下す以外にどんな意味を持つのだろう?
何故、魔族は単身ここまで来て10段階を使用したのだろう?
考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ。
一体、魔族とは何なんだろう?
疑問の中に言いようのない不快感が広がった。




