62話
父上に手合わせを申し込む。
稽古ではなく、『手合わせ』を。
決して見下している訳でも、反抗期な訳でもない。
強くなるためには、必要なんだ。
いつもの木剣ではなく、刃引きの摸擬剣を構える父上はいつもよりも威圧感を感じる。
駄目だ、飲まれるな。
意を決して踏み込む。
中伝位も、皆伝位もそこには無かった。
純粋な剣技としての踏み込み。
当然のように真正面から潰される。
それを数回。
結果は、父上に俺の剣は届かず、一方的に叩きのめされた。
もっとできるはずなんだ。
いや、出来なくちゃいけない。
なのに、俺は・・・・・・。
万能型の凡人。
そう言われた前世とは、比べられないほど努力はしてきたはずだ。
なのに・・・・・・。
「アドルフ、何を思い悩んでいる?」
そうだ、父上には魔神のことは話していない。
軍人とは言え、父上に話していいものか。
分からない。
でも、父上の目を見ていると
「じ、実は・・・・・・」
トムーギ王国でのこと、魔神のこと。
洗いざらい全てを話していた。
「ふははは、そうか、そんな事で悩んでいたのか? そうか、そうか。」
「笑いごとではないんです! 対抗手段もないのに、皆を巻き込んでしまうかもしれないのに!」
「ああ、すまんすまん。」
まったく、何で笑っていられるんだ?
「アドルフ、魔法開発に使っているメモを見せてみろ。」
なんだ? いきなり。
いつも使っているメモを渡す。
パラパラと捲っていって、最近書き込んだ原初の魔法使いの記述のあたりを指し
「やっぱりか、お前は少し見ない間に頭が固くなったなぁ~」
そう言ってきた。
何が言いたいのかわからない。
「何を言っているのか分からない、そんな顔だな?」
あれ?
顔に出てたか?
「はい。」
分からないことは、聞くしかない。
ここは、正直に答えておこう。
「魔法を開発し始めた時には、あんなに自由にやっていたのに、原初の魔法使いが書いたことを見つけたらそのままそっくり模倣するのだな?」
いやいや、パクったみたいに言われても。
いや、ん~。
確かに方法論が原初の魔法使いに寄ってたかな?
・・・・・・理論の根拠が確かに原初を基にしてたな。
「大体、再来だ、生まれ変わりだ。なんて言われても、お前がアドルフなのには変わりがないんだぞ?」
?
「なんですか? それ?」
「お前と原初の魔法使いは別人だ。なら、同じ魔法を使う必要ないんじゃないか?」
確かに、それはそうだ。
よくよく考えれば、例え近い魔法を使っていても身体の構造が違う可能性を、木竜にも指摘されていたじゃないか。
なら、違っていていいんだ。
「確かに、それはそうですね。」
「そうだろう。」
「はい! ・・・・・・で、それと魔神の件関係ないですよね?」
「え?」
「父上、論点をズラしても皆を、家族を守るには戦うしかないんです。」
「この・・・・・・愚か者が!!」
「ひっ!」
「家族を守る? 父を守るだと? うぬぼれるな!!」
「己惚れてはいません、私が勝たねば、皆魔神に殺されてしまうんですよ?」
「それが己惚れていると言うのだ! 父を守るなど・・・・・・この技を防げるようになってからほざくがいい!!」
そう言うと、父上の体が揺らめく。
これはルフトシュピーゲルングか!
迫ってくる指弾であろう指弾に身構える。
構えていると父上の分身が俺を取り巻く。
突然、摸擬剣の切っ先が目も前に迫る。
前に出していた剣で辛うじて防ぐ。
通り抜けた父上の体は、分身の中に紛れてどこにいるのかを見失う。
6段階を視覚野に掛けて、居所を探るが歩法の緩急に惑わされて、見つからない。
どこだ?
辺りを見回しながら、気配を探る。
どこにいる?
「「「では、行くぞ!!」」」
分身の中から、複数の父上の声が響く。
声でも判別できないなんて。
これが父上の本気なのか。
俺の周囲を取り囲む分身から、複数の切っ先が俺に向かって突進してくる。
なるほど、着弾を同時にされるとどれを防いでいいのか、分からないから硬直してしまうのか。
そんな嘗てリーズベルト男爵のアドバイスの真意を体感する。
同時に振るわれる剣を受け、身体が左右にはじけるが直ぐに反対方向から衝撃を受け、倒れることもできない。
「これが父のアルムブラストだ!!!」
その言葉を聞くと、意識が暗闇に落ちていく。
気が付いたら、自室のベッドに横たわっていた。
父上の本気があんなにも痛いものだとは。
父上の本気があんなにも怖いものだったとは、知らなかった。
家族を守る?
馬鹿馬鹿しい。
俺が護るような、弱い人じゃないじゃないか。
またか、また俺は思い上がっていたのか。
恥ずかしい。
決めた。
俺は俺のために神殺しの方法を探そう。
護る云々はそのあと考えればいい。
よくよく考えれば、俺は俺の知る人たちの中で最弱に等しいじゃないか。
アホらしい。
俺がダメでも他の人がいるじゃないか。
なら、俺が全責任を負う必要もない。
魔神も言っていた。
賭けだと、余興だと。
そこから先は知らん。
要するにエルを名乗っていた魔族に喧嘩を吹っかけられた。
それだけだ。
上等だ!
魔法使いに喧嘩を売ったんだ。
10年の猶予が仇になることを思い知らせてやる。
やってやる・・・・・・やってやるぞ!!
母様の怒号が下の階から聞こえてくるがそれも知らない、父上は守らなくって良い存在なんだから。
弁明も不要だろう。




