51話
迷宮内の袋小路でキャンプの準備をしていると、
「何か異様な圧迫感を覚えますわね」
クラウディアが誰ともなく話し出す。
「どこかで感じたことのある、異様な雰囲気なんですが・・・・・・」
クラウディアも気が付いたようだ。
俺とカチヤが初日から感じている威圧感。
洞窟と言うシチュエーションがそう感じさせているのだろうか?
状況は全くの逆ではあるが、それを思い出さずにはいられない。
高位の魔族の存在を。
恐らく勘違いではないだろう。
俺とカチヤ、クラウディアは魔族の力や執念・・・・・・怨念にも似た、あの威圧感を覚えていた。
決着まで昏倒していたラインハルトは、今一腑に落ちない表情を浮かべているが、エルも楽観的なことを言わなくなっていた。
今は迷宮の奥、滞在時間は5日目、松明も40本を消費したところだ。
キャンプを張りながら5時間の睡眠休憩。
他の時間は食事も手軽に済ませて、内部の調査を早めている。
これが普通に魔物と遭遇するなら、まだ気も楽に思える。
しかし、いつ遭遇するかもわからず、結果一度も遭遇戦を行わないと言う精神的疲労感は、連続で遭遇戦をするよりもキツイ。
木竜に会いに行った山での戦闘よりも、大分消耗するようだ。
予定ではこのキャンプの後は、帰還する予定にしていた。
「このまま進んでしまった方が良いんじゃないか?」
ラインハルトの言葉も尤もらしく聞こえる。
ここ1か月ほど迷宮と街を往復し、時には予定を伸ばして迷宮内で滞在もしてみたが、いずれも空振りに終わり、未だに続く迷宮攻略に神経をすり減らす生活をしていた。
一応は物資的には、迷宮内で1か月滞在できるくらい持ちこんでいるが・・・・・・。
どうする?
魔族の行動が両極端であってくれるなら、このままキメラまで突撃すればいい。
だが、もしこの状況を踏まえて全てが罠だったら?
最深部から入口までだけ、魔物を出現させ消耗戦狙いなら?
そもそもの大前提としてキメラは生きているのか?
この攻略自体が、全くの無駄であったときの精神的ダメージは計り知れないものになるだろう。
・・・・・・やはり、迷ったら
「このまま一気に最深部まで行ってみよう!」
魔族の思考が読めないなら、全部あるものとして突貫してしまった方がいい。
閉塞感から来る精神的ダメージが、身体に出てくる前に取りあえずの目的を果たしてしまった方が、消耗も少なくていいのではないだろうか?
俺個人は分の悪い賭けは大嫌いだ。
なら、罠を想定して生還の可能性を上げた方がいい。
皆も同じ考えなのか全員が頷く。
うん、中々良いパーティーになってきたな。
5時間の休憩後は速さを優先することになった。
見つけた縦穴を降りまくり、入口からどれくらい降りたのだろう。
ひたすらに下を目指す。
何回か縦穴を降りたところで、威圧感が今まで以上に感じられる場所に来た。
「なんだ? これは?」
「気配が濃密すぎて、何体いるか分からない」
ラインハルトとカチヤが呟く。
エルは自分の体を抱いて、若干震えているようだ。
周囲を注意深く観察していると、縦穴から光が漏れているのを見つける。
丁度良く足場になる岩棚もあるようだ。
俺達は足場から下を覗き込む。
いた!! ・・・・・・キメラだ。
想像していたよりも醜悪な風体をしている。
距離があるから正確な大きさは分からないが恐らく前世の象よりも大きいか?
背面を見るだけでも蝙蝠も様な羽根。
獅子の頭、虎の身体。
尻尾は無数の蛇になってる。
そして所々毛が無くなり、地肌がむき出しになっている。
腐敗のような痕跡が見られないから、ゾンビ的な生き物ではないだろうけど・・・・・・。
目を凝らすとむき出しの皮膚が、何やら脈動している錯覚に陥る。
あまりに衝撃的な姿を見てしまい、逃げるようにその場を離れる俺達。
大分光の漏れる縦穴から離れてラインハルトが口を開く。
「なんだ? 何なんだあれ? あんなのが生き物だと呼べるのか?」
「落ち着け、相手にばれる」
「これが落ち着けるか? あれがキメラだと言うのか? 英雄譚に出てくるキメラはもっとましな風に書かれていたぞ!」
「分かったから、落ち着け!」
ラインハルトが荒い息のまま押し黙ると、皆は俯き口を開こうとしない。
「うっ!」
短く呻いてエルが岩陰に走り込む。
吐き戻しているようだ。
あの場所は何故か魔素も濃いように想えた。
それに当てられたのか?
・・・・・・まぁ、見た目もよろしくなかったし、気持ちも分からなくはない。
戻ってきたエルにクラウディアが水を渡し、全員が取り敢えず落ち着いたようだ。
「さて、これからなんだけど・・・・・・」
「これ・・・・・・から?」
エルは信じられないものを見るように俺を見る。
気持ちは分からなくもない。
出来れば俺も放置して帰りたい。
けど、神託は【キメラの討伐】だ。
ここまで来て帰る選択肢は俺達にはない。
「どうする?」
ラインハルトも落ち着いたようで、もう戦闘状態に頭を切り替えたようだ。
「かなり大きそうでしたわね正面から行きますか?」
「出来たら、奇襲したい」
「賛成だ、目測より大きかったら流石の俺でも受け止めきれないな」
「岩棚ってあそこだけかな?」
「いや、どうだろ? 確認してみるか・・・」
状況を整理しながらどう攻撃が出来るか話し合う。
今までの戦いを考えればこうして、一方的に情報を取れるなんて幸運としか言いようがない。
あ~でもない、こうでもないと話し合い、取りあえずは決まった。
クラウディアは、あの場所にある3か所の岩棚から移動を繰り返しながら、魔法を交えて狙撃を行う。
俺達は正面からキメラの気を引きながら誘導を行い、クラウディアの攻撃がしやすい位置に持っていく。
あれだけ濃い魔素に覆われた場所なら魔法も使い放題だ。
大きければ動きが遅いのは、決まり切ったことだしね。
攻撃に気を付けていれば、大きな損害もないだろう。
正面の入口になるところは全員で確認をする。
光が漏れているから捜索は簡単に終わった。
万が一のため、エルはクラウディアと一緒に行動してもらう。
物資も裕に3週間分は残っている。
万全を期すために、6時間の睡眠休憩をはさみ行動開始とした。
一つ気がかりなのは、未だ魔族の影が見えて来ない。
その一点だろう。
キメラのそばに居ないことを願い、休憩を取ることにした。




