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43話

「北での活躍は、聞かせてもらっています」

朝早くから町の外、平原に俺達は並んで直立していた。

俺達の前を悠然と、今回の趣旨を説明しながら歩くダグラス先生。


「たが、魔族相手に二人が戦闘不能。一人はとどめの前に戦闘不能。最後の一人はとどめをさせたからいいものの死亡確認をする前に昏倒」

ダグラス先生には、俺達と魔族の戦闘が御不満のようだ。

「三人には、以前から言っていたが一戦闘に死力を使うと言う意味が、伝わってなかったようですね?」


ダグラス先生の言う一戦闘と言う単位。

これは、かつて子供の頃さんざん言われた言葉だ。

要するに、索敵から会敵し戦闘になり、撃破の後残敵の確認、行軍開始迄が一単位と言う意味だ。


ダグラス先生の指摘の通り、対魔族戦は一単位を全う出来なかった。

もっと言えばワイバーン戦も残敵の確認を怠ったと言えなくもない。

ダグラス先生を発見出来なかったのだから・・・・・・。


けどなぁ~、どっちも仕方なくないか?

とは、思っても絶対に口に出してはいけない。

ほぼ初対面のクラウディアも我慢しているんだし。


「大体全員が、身体強化の五段階を使えないのは何故なのですか?」

全員が息を飲む。

そう、俺達は誰も五段階を修得していない。

・・・・・・心当たりがありすぎる。

みんな魔法の開発に協力してくれていた。

そのせいで、身体強化に取り組む時間が取れなかったのかもしれない。


対魔族戦の苦戦も、クラウディアの怪我も俺のせい・・・・・・なのかもしれない。

「先生・・・・・・自分のせいかも、しれません。」

考えると恐ろしくなるが受け止めないと。


「どう言う意味ですか?」

恐らく青くなった俺の顔を見据えて、先生が聞いてくる。

「魔法の開発に、付き合ってもらっていたから・・・・・・」

「そうなんですか?」

先生は、皆に向き直りといかける。

皆の顔が見れない。


俺の仲間たちは、俺とは違い非凡な才能の持ち主だ。

可能性の域を出ないが、もし魔法開発に係わって居なければ、それぞれの流派で若くして師範になるなど活躍したことだろう。

魔法に係わり、流派本来からは亜流に変化してしまっただろうし。

何よりダグラス先生に教えを受ける期間も、今よりも確実に多かったはずだ。


魔法開発にを理由に身体強化を軽く見ていた罪悪感が、今更ながら込み上げてくる。

戦闘の殆んどが肉弾戦なのを見落としていた。

明らかな俺の過失だ。


「それはないですね」

ラインハルトの言葉に思わず顔を上げてしまう。

え? なんで?

「確かに手伝っていたけど、楽しい方に流れたのは俺たちの選択だったし」

「そう、いずれ突き当たる問題。遅いか早いかの違い」

「ですわね」

皆が笑顔で答えてくれる。


明らかに、俺が魔法開発に引きずり込んだ結果なのに。

「でも、俺がいなかったら・・・・・・」

「アドルフ、お前がいなかったら俺はカチヤと知り合っていないし、ダグラス先生に教えを受けることもなかった。・・・・・・そりゃ、うちの流派の師範に教えを受けて今より腕が上がった可能性はある。だけど、身近に競える同年代の相手がいなかったから、今より弱い可能性も当然ある。」

「それに、こうして外の世界で冒険できなかった可能性の方が大きかったわけですし、ね?」

「何より、アディがいないとつまらない」

「そうそう、木竜にだって会えなかった訳だしな!」


皆、ありがとう。

何故かこみ上げてくるものを感じていた。

「では、原因はそれぞれにある。と言うことでいいですね?」

「「「はい!」」」


仕切り直して訓練が始まる。

身体強化の訓練は、自分の最大限の魔力を体内で循環させる方法が一般的だ。

5段階は4段階を部分的にも掛けることが出来るようになる。

デチューンに思えるが、3段階より効果は大きいし何より4段階の効果が重ねる事が出来る。

全身に3回身体強化が掛けられれば、元々の筋力の3倍程度は軽く出せる計算になる。


恐らく知覚も上がり、これまで見えなかったアレも見えるようになるかもしれない。

それを考えれば先生に怠っていた、そう言われても仕方がないのかもしれない。


それに幼い自分に誓った魔法の中にはもちろん、身体強化も含めていた。

何で今まで思い出さなかったのだろう?

自分に誓った約束は違えることはない。

そう思って行動してきたつもりなのに。


今こうしてダグラス先生に再会できたのが、過去の自分からの戒めなんだろう。

初心を忘れないと言うことの難しさを、思い知らされる。


「では、もう日も暮れますし、どの程度出来るようになったか確認させてもらいますね」

そう言うと先生は全員にアレを打ち込んでいく。


草原に伸びた長い影が一つ、また一つと短くなっていく。

地面に蹲りながら、初心を思い出したからって何でもうまくいくものでもないと言う、前世の教訓を思い出していた。


2週間もすると身体強化が得意な2人、ラインハルトとカチヤがアレの防御に成功する。

詳細は教えてもらえないが、次第にボディー・ブローの系統であることは理解出来てきた。


残るは俺とクラウディア。

5段階の手ごたえは感じている。

それで防げないのは、元々の才能に寄るのかもしれない。

ならば先に進んで才能の差を埋めなくてはならない。

などと考えていると、おもむろに眼球、と言うか視神経に強化は出来ないだろうか? と、考えた。


前世の漫画でも格闘系で見る力の重要性は、解く作品は多い。

実際、この世界でも人間の知覚のほとんどが見ることに頼っている。

そのことに違いはないだろう。

ならば視神経の強化は有効ではないか?・・・・・・いや、視神経だけではなく視覚野の強化も必要か?


前世の記憶を頼りに視覚野を強化してみる。

確か大脳の後ろ、後頭葉のあたりだったよな?

確か脳って胡桃を半分に割って、そうそう小脳を付けた感じで・・・・・・。

あ、いけるかな?

イメージは電気信号を高速化する感じで・・・・・・。

見えないものは処理落ちのイメージを補完するイメージで補っていけば・・・・・・。


今まさに、クラウディアの腹部に先生の掌底がめり込んでいく。

その映像が俺の目に飛び込んでくる。

レバー・ブローに角度を付けて鋭角に打ち上げる様子も、スローモーションの様に認識できた。

不意に、既視感に囚われる。


何回かこの速度の視界を見た経験が次第に甦ってくる。

そうか。

虎と魔族に襲われて、死を直感した時。

死を回避するためにもがいた、あの感覚。

知らず知らずに知覚の速度を上げていたのか。

理解をすると腑に落ちることもある。


なるほど。

これを意識的に使えれば戦闘が大幅に楽になるな。

グッ!

使い慣れていない能力の負荷に寄るものなのか?

強めの頭痛に襲われる。


周囲の速度が急速に戻る。

「うぐっ」

と、短いうめき声を上げて地面に突っ伏すクラウディア。

俺の頭痛も次第に収まってくる。

これならもう一度くらいは使えるかもしれない。


「さて、次はアドルフ。いきますよ?」

「はい!」

先ほどのように知覚速度を上げていく。

レバー・ブローなのは分かっている。

先ずは両手を交差し腹部を守る。


予想通り!

深く沈みこんだ先生の体勢を見て、予想通りの軌道に手を置くことが出来た。

やった!

と思ったら先生の口角が上がるのを見てしまう。


すると、スローモーションの世界で、先生の動きだけが普段の速度のように動き出す。

え?

そこまで早いのか?


構えをスイッチして右足を踏み込む先生。

手を重ねているのだから腹部は全面的に守れているはず。

見えてはいるが先生と同じ速度で動けない俺は、ただ防御に打ち込まれるのを待つだけとなった。

左わき腹の隣を先生の拳が通り抜ける。


急に変化させて当たらなかった

そう思い刹那の更に一瞬、気が緩んだ感じがあった。

同時に嫌な予感も感じていた。

ガードが緩くなった右のわき腹に鋭角に打ち込まれる拳。

それを確認した直後、視界が急速に速まり地面に到着する。


「汚い・・・・・・ですよ、・・・・・・先生」

何とか言葉は出た。

「まぁ、及第点と言ったところでしょうか」

打たれた所がようやく分かった。


明らかに笑っていた先生。

あの速度で、フェイントを織り交ぜてくるなんて聞いていない。

と言うか、俺だけ扱いがひどくないか?

声には出せない思いが心の中に渦巻いてくる。


一しきり心の中で、悪態をついてその日の訓練が終わる。

街に帰る途中、膝が笑って歩くのが一苦労だったが、カチヤの肩を借りてなんとか変えることが出来た。


及第点を貰えた俺を含め3人は、それぞれ身体強化を体に馴染ませるため模擬戦を行い、クラウディアは引き続き身体強化の訓練を行い日々が過ぎていく。

更に2週間が過ぎ、クラウディアも合格がもらえ全員が十分に身体強化に馴染むことが出来た。


「では、迷宮攻略はくれぐれも気を付けて。無理はせずに引き返す勇気も持ちなさい。」

先生に別れの言葉を貰い、改めてトムーギ王国に向かうことにした。

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