42話
「それで、支部長? 私の報告では3匹以上いることを2か月前に報告しておきましたよね? その後の確認はどうしたんですか?」
俺たちに短い挨拶を済ませると、支部長に向かい説明を求めるダグラス先生。
「ダグラス君、それはだな・・・・・・」
言葉に詰まる支部長。
明らかにやましさを顔に出している。
周囲の冒険者も不満顔だ。
「番かもしれないとも、報告しましたけど?」
はぁ?
俺たちにはそんな報告されてないぞ?
キッと支部長を睨むと、明らかに目を背ける
怪しい・・・・・・。
これは問い詰めないと。
この地域に甚大な被害が出るかもしれない。
そう思うと、いつもより頭に血が上ってしまう。
ダグラス先生が俺を手で制して
「支部長、あちらで詳しく話を聞きましょうか」
そう言い奥の部屋に二人が消える。
ダグラス先生なら、しっかりと訳を聞きだしてくれるかもしれない。
俺達3人にとってそれぞれの身内以外で、唯一全幅の信頼を置ける大人なんだから。
だけれども周囲の冒険者にはそうは映らないらしく
「なんだぁ? あいつはよぉ? 後から出てきて気に入らねぇー」
などの声がちらほら聞こえる。
「アドルフ・・・・・・俺達は後ろに下がって居よう」
ラインハルトも相手が見えなくなったおかげで、頭の血が下がったようだ。
「アディ・・・・・・アレが来るかも・・・・・・」
ダグラス先生・・・・・・。
アレ・・・・・・。
カチヤに言われて思い出す。
無言で人の輪の最後方に場所を移す。
出来れば、この建物から出ていきたいくらいだ。
次第に周囲の人たちのダグラス先生への不満が大きくなる。
駄目だぁ~!
絶対アレが来るゥ~!!
何も知らないクラウディアだけが、キョトンとした表情を浮かべている。
ラインハルトもカチヤも青い顔で若干震えている。
・・・・・・いや、俺が震えているのか?
「ここから逃げたらどうなると思う?」
「アディ、アレより怖いあれがくる」
だよなぁ~。
ガッチャと先ほどの扉が開かれる。
後ろにいるからよく見れないけど、出てきたのはダグラス先生だけのようだ。
・・・・・・ダグラス先生支部長にアレやったのかな~。
出てきた先生に冒険者たちが思い思いに罵声を浴びせる。
「後から来たくせにしゃしゃり出てんじゃねぇーよ!」
何人かが動いた気配がする。
思わず出口に駆け出そうとする俺を、ラインハルトとカチヤが必死に取り押さえる。
「うぐっ」
「ガッ」
「ブッ」
思い思いのうめき声が上がる。
その光景に数人が後ずさりをしたために、俺の逃走経路が閉ざされてしまった。
「元気があるのは大変結構。ですが、少し血の気が多すぎますね」
先生の声のトーンが一つ上がる。
俺は恐怖のあまり歯の根がかみ合わず、カチカチと耳障りな音を聞いていた。
カチヤはその場に座り込んで自分を抱いている。
ラインハルトはクラウディアに抱き着き
クラウディアは顔を赤らめて満更でない様子。
俺は視線を回し、新たな逃走経路を探していた。
「当事者がこんな後ろで何をしているんです?」
不意にビクン! と、反応してしまう。
自分の体が上手く使えない。
出来るだけ早く動かしているつもりなのに、視界がゆっくりと動いて、先生を捉える。
笑顔の先生、しかし目が笑っていない。
アレだ、アレがくる。
身構える前に衝撃が伝わる。
「ぐぇ!」
潰れたカエルのように呻いて崩れ落ちる。
後から3つのうめき声が聞こえ、喧騒が収まる。
ヒュー、ヒューと
一人を除き全員の痛みを逃がすための呼吸が聞こえる。
信頼出来る大人のダグラス先生ではあるが、極度に騒がしいのが嫌いであり話が進まないことをこよなく嫌う先生。
俺達が子供の時、子供らしく集中力がない時期に指導係を任されて以来、その傾向が大変強くなり
鉄拳? 制裁で良く指導をされていた。
まぁ、森で騒いでいたら命の危険がある訳で、俺らを思っての愛の鞭だとは理解しているが・・・・・・。
認識できない打撃(多分)を受けると、正直防御のしようもなく、結果だけが同じになると言う事態になる。
故に〝アレ”としか表現できない何かを、俺達生徒一同は恐れている。
因みに発動前にアレから逃げようとすると、強制的に意識を手放してしまう“あれ”が待っている。
周囲からでも認識できない何か。
昏倒すると言う事実だけしか残らない何か。
打撃痕すら残らないので予測もできない。
ラインハルトも受けきれなかった何か。
魔法を使っていると言われても信じてしまう、そんな技を先生が使ったのだ。
この建物に立っているのは先生一人だろう。
因みに、そんな先生ですらリーズベルト男爵には手も足も出ない。
強さに上限はないのかもしれない。
暫くして全員が話を聞けるようになり、事の経緯を説明してもらった。
要するに支部長とこの町を治める領主が結託し、税収を上げるために情報の一部を握りつぶした。
そんな話で合った。
確かに最果ての町で税収を高くしようとすると、何かしらの不正をしなくてはならない。
それに領主は、自分の治める町の公共事業をある程度は私財で行わなくてはならない。
トムーギ王国と積極的な交易もしていないようだし、限られた私財をやりくりしていても、底は見えている。
そこで今回のワイバーンの情報が出てくる。
飛龍とは言え竜種の素材は大変高価だ。
周囲に持ちだせばかなりの金額になる。
まして20匹分だ。今までの持ち出しを考えても十分な利益になる。
ただ、軍が討伐すると素材は軍が持って行ってしまう。
軍への要請事態に金はかからないが、国も軍の維持には金がかかる。
そこで討伐した魔物の素材を国が金に換えることになっているのだが、領主の思惑とは外れてしまう。
なので俺達・・・・・・と言うか俺の名前を聞き、噂で一軍にも匹敵する。
と言うデマに踊らされて、今回の騒動になったようだ。
「なので今回の件は酌量の余地があると考え、ギルドマスターへの報告のみとします。」
先生への異議を唱えたい周囲の冒険者もいるようだが、先ほどの惨状を思い出し口には出せず全員が押し黙ることになった。
俺たちに払う報酬は取りあえず、素材代だけ。
後から報酬と追加の報酬が払われることで決着した。
異論が出ないのでこの場は解散となった。
俺達も宿に逃げようとしたが。
「アドルフ! カチヤ! ラインハルト! こっちに来なさい。」
呼び止められてしまった・・・・・・。
「はい! 先生何の御用でしょう」
いつもより丁寧な口調で答えるラインハルト。
姿勢もいつもより正されている。
それに倣う俺達。
「随分と、怠けていたようですね?」
ビクついてしまうが、怠けていたつもりはない。
「いえ、お言葉ですが、そのようなことはないと思います。」
つい言葉に出してしまった・・・・・・。
「ほぅ、ワイバーンにあのざまで? 草原で私に気が付いたのがアドルフ一人。アドルフは気が付いたのに周囲の探索もせず、黙々と作業をしていましたねぇ?」
・・・・・・あの視線は先生だったのか。
ラインハルトは恨めしそうに俺を見てくる。
言わなかった俺も悪い。
だけど気が付かなかったラインハルトに、そんな目を向けられるのは心外だ。
目でけん制し合っていると
「ラインハルト? アドルフ? 後にしなさい?」
「「はい!」」
再び俺達は直立不動の姿勢に戻る。
「成人したのに弛んでますね? 今日はもう遅いので明日から訓練を受けてもらいます。」
え?
訓練?
「最低限、私の攻撃に防御姿勢が取れるようになってもらいます。いいですね?」
アレに防御姿勢をとれ?
無理無理無理!
「いいですね?」
「「「「・・・・・・はい」」」」
何故かクラウディアも返事をしていた。
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