40話
カチヤに教えを受けて早2週間。
身体魔法の操作と言うのは、前世でのスポーツの理論によく似ていると感じる。
野球、テニスやボクシングなどで腰を回す。
前世ではよく聞いた言葉だ。
要するに、起点から発生した力をどのように効率よく終点に伝えるのか?
それに発生した力だけでなく、補助する魔法も同時に伝える。
それを無意識に出来るようにすること、これが最終目標だ。
以前書いた、身体強化魔法の項目から考えれば脳にだけ掛けていると言うのは厳密には違いがありそうだ。
無意識で行えるなら、小脳だけではなく神経にも掛かっていそうだ。
反射で行動を行う際、神経信号は脳を経由しないと何かで読んだ覚えがある。
反射神経の速度を上げることもできるようだ。
実際身体強化魔法が得意なカチヤ・ラインハルトは、魔族に攻撃を受けても目立ったダメージはなかった。
俺やクラウディアがダメージが大きかったのは、そう言うことが原因だろう。
これを克服するためにやること。
ひたすら反復練習をするこれだけだ。
素振りから始まり、ランニング、シャトルランらしきもの異世界でもやる事、変わんないなぁ~!
「アディ、そろそろ桶持って」
「あ、はい」
ついつい考え事に逃げてしまう、この癖どうにかならないだろうか・・・・・・。
歩法ヴァンデルン。これに似た歩法はリーズベルト流にもあるらしい。
カチヤは俺ほど移動距離を出せないが、切り込む際に何回か使っていたようだ。
全く気が付かなかったけど・・・・・・。
なので、歩法の説明は的確で分かりやすかった。
今まで俺は蹴り脚に意識を集中していたが、正確には蹴り脚の親指。
そこに力を揉めることで、地面に凹みを作らない本来のヴァンデルンが出来るとのこと。
水の入った桶を手に実家の訓練場を跳ね回ること2週間。
未だ溢さずには移動できないが、以前より確実に桶に残る量は増えている。
「おお、大した進歩だ」
笑みを浮かべ、訓練場に入ってきた父上が声を掛けくる。
「そうでしょう!全部こぼれていた時と比べればまだ半分も残っていますからね」
そう、半分は残るようになったのだ。
0点から50点、大した進歩だと俺自身思う。
「義父様、甘やかしてはダメ。」
「いや、進歩したのは本当だし、な?」
「そうですよね、0から考えたら・・・・・・」
「ダメ。」
「「はい・・・・・・」」
うーん、母様に言い含められている時と同じ顔をしているな。
俺も同じ顔をしているんだろう。
親子ってやっぱり、似るんだなぁ~。
ちょっとした休憩を終え、訓練は続いていく。
それから数時間、父上・カチヤによる指導を受け7割は桶に水が残るようになった。
カチヤに言わせれば、まだ操作が甘いところもあるが及第点は貰えるようだ。
明日から皆伝位の訓練に入っていく。
翌日、俺と父上だけが訓練場に来ている。
流派の秘伝だからカチヤが来ていない。・・・・・・訳ではなく。
カチヤ自身も実家で、高弟達に混じってリーズベルト男爵の教えを受ける、そう言っていた。
また、強くなるのか・・・・・・俺の婚約者は。
冒険者仲間としては嬉しいことなんだが、男としては複雑だな。
「では、これからヴェルマー家流弓術皆伝。ベシュッスを伝授する」
「はい!」
父上は俺に向かい合う。
距離は5メートルほどだろうか?
右手には剣を、左手には矢玉を握っている。
嫌な予感しかしない。
「いくぞ!」
気合の乗った声を掛け父上は矢玉を撃ちだす。
迫りくる十数発の矢玉を剣で撃ち落とすと目前に父上の剣が迫っている。
数合撃ち合うと、至近距離での指弾を織り交ぜて来て、痛みによる刺激で剣に対する反応が遅れる。
次第に捌ききれなくなり・・・・・・、首筋に剣を押し当てられ
「これがベシュッスだ」
うん、これあれだな。
「父上? 私これできます。」
「え?」
うん、リーズベルト男爵に発動前に潰されたけどほとんど一緒だ、これ。
「ちょっとアレンジ入ってますけど・・・・・・」
先ほどと同じように、父上と3メートル位はなれて先ずはボーゲントルッペを開始する
周囲360度から父上に向けて矢玉を撃ちだす。
父上は難なく弾いていくが、視界の端で明らかに俺に背を向ける瞬間を捉える。
そこで周回をやめ、父上に切り込む。
当然、予測できている父上は俺の剣を受ける。
片手で剣を振るいながらカチヤに良くやられるように、太刀筋に強弱を織り交ぜながら上段、下段と的を散らしていく。
合間に父上の足元に矢玉を撃ちこみ体勢を崩して、矢玉を撃ったら引いてみたり、太刀筋を変えてと考える限りの虚実を織り込みながら連撃を加えていく。
身体強化の運用が効いているのか、いつもより早く剣も矢玉も打ち出せている。
対ラインハルトように考案しておいた、全てを出しつくす。
足元にめり込ませておいた、矢玉を狙い跳弾した矢玉に脚を取られ父上が膝をつく。
肩口に剣を置いて一連の技を終える。
俺流のベシュッスだ。
入りこそ違うがほぼ一緒といっていいだろう。
「どうですか?」
「これを自己流で考えたのか?」
「はい。」
うちのパーティーメンバーの剣士二人には、これでも一本取れるかどうか厳しいところだが初見の時は無事に一本取れている。
ふむ、と黙り込む父上。
重い空気が流れるが、膝をパン!と、叩き
「アドルフ! お前の皆伝位を認めよう」
と一言。
・・・・・・免許皆伝。良い響きではあるが、これでいいのかなぁ?
何故か釈然としない気持ちではあったが、これで魔法も旅立ちも解禁だ。
正直、直ぐラインハルトに報告をしても良かったのだが、依然見せた技が皆伝位でしたぁ~!なんてちょっと恥ずかしい。
他に有効な技はないだろうか?
その日は遅くまで、父上と皆伝位の技を訓練したのだった。
さらに翌日、ある技を身に着けラインハルトを尋ねる。
「アドルフ、ちゃんと訓練終わったのか?」
近くでクラウディアがへばっている。
こちらに気が付いたようだが、声も出すのが辛いのか視線を向けてくるだけだ。
若干恨みがましい視線のような気がしたが、身体強化の運用が下手だったのはお互い様だ。
何時かやらなくてはいけないことが、今だっただけだ。
やる気を出させるため、にんまりとほほ笑んでやった。
無事皆伝位を習得したことを告げる。
「ほう、じゃぁ見せてもらおうか」
ラインハルトは剣と盾を構え俺を見据える。
ほら、やっぱりこうなる。
俺も剣を構えお互いに対峙する。
新しく習得した技。
皆伝位、ルフトシュピーゲルングをお披露目してやる。
この技はボーゲントルッペの歩法部分に緩急を付けることで、あたかも居ないところから矢玉を撃ちだしているように錯覚させる。
正に虚実の技と言うべき、ヴェルマー家弓術の指弾最高峰の技だ。
父上のように7・8段階の速度で行うと、ほぼ分身の術と言った恐ろしい技だ。
俺に出来るのは緩急によって、相手の視界からわずかに逸れる程度だが初見殺しのこの技を、ラインハルトが見切れるわけもなく立ち位置に釘ず付けだ。
これに耐えるようならベシュッスに移行する。
「どうだ? ラインハルト、俺もやればできるだろう?」
「やるまでが遅かったけどな。」
負け惜しみを言っているが、納得はしたようで残るはクラウディアのみとなった。
「カチヤが教えてくれるって言ってたけど、どうする? クラウディア?」
俺の顔を苦み走った顔で睨んでいたが、後ろのラインハルトの方を見ると諦めたように
「お願い・・・・・・いたしますわ」
そう呟いた。
遅れてきたカチヤに引きずられて、クラウディアが剣鬼である義父のいるリーズベルト邸に消えて、1週間。
無事(?)クラウディアも身体強化の運用に及第点を貰え、期限の一か月がたつ頃には全員で王都の門を潜り、トムーギの迷宮に向け旅立つことが出来た。




