39話
カチヤと森に行った翌日。
朝から父上の下を訪ねた。
「父上! ご相談が」
「まだ、家を出ることは許さんぞ?」
以前、一人暮らしだ! イヤッフウ~!!
と、思ってた時と同様に釘を刺された。
・・・・・・もっと真剣な話なんだけど、顔にでないのかな?
「そうではなく、稽古を着けて欲しいのですが」
「なんとも珍しい!」
そう、正直魔法を開発していることで、剣の稽古が疎かになっている。
たが、元々剣を捨てるつもりはないし、指弾が相手の力量を測るのに便利だから多用していただけで、我が家の奥義を修得するまでやるつもりではいた。
・・・・・・正直仲間達があまりにも、武芸に秀でていて不貞腐れている傾向に在るのは認めよう。
しかも、最近は完全に置いてきぼりをくらっている。
せめて勝てないまでも、リーズベルト男爵に一泡吹かせたい!
いい加減負けるのも飽きた。
この先の事も考え、体術を強化しなくては魔族に殺されてしまうかもしれない。
何せ相手は侵攻=戦争を仕掛けている。
そう言っていたのだから。
俺が足を引っ張るわけにはいかない。
何とか魔族を捉えることぐらい・・・・・・いや、何とか魔族の攻撃に反応できるくらいにならないと。
「お願いします。父上!」
父上は椅子からゆっくりと立ち上がり
「付いてきなさい」
そう、神妙な面持ちで応えてくれた。
家の裏にある訓練場で水の入った桶を渡される。
「なんです、これ?」
「桶以外に見えるか?」
桶に見えるから聞いてるんだけど・・・・・・。
「桶で何をするんでしょうか?」
父上は、足元に置いてあった別の桶を持ち
「真似してみなさい」
と、桶を持ったまま縮地で訓練場を飛び回る。
「こんな感じだ。やってみなさい」
?
意味も分からず、取りあえず桶を持ち縮地を行う。
一歩ごとに手や服を濡らす。
冷って!
訓練場を一周する頃には桶の中には、水は残っておらず全て訓練場か俺の服にこぼれていた。
「これでいいですか?」
「はぁ~、真似をしろと言っただろう? 父の服が濡れているか?」
・・・・・・え?
良く見ると桶の中には水がたんまりと残っていて、服はおろか手も乾いたままだ。
「これが出来たら、皆伝位の技を教えてやろう」
そう言うと訓練場を後にする父上。
皆伝・・・・・・なんて甘美な響きだろう。
免許皆伝素晴らしい。
前世では滅多に聞かない憧れの言葉だ。
俺に水を貯め、再度挑戦する。
テンションは上がっているが、またも全部ぶちまけてしまった。
意外と難しいな・・・・・・。
数回続けるが何回やってもこぼれてしまう。
大体、縮地は急発進・急制動の動きだ。
地面に凹みが出来る位、地面を蹴るのだからあたりまえだよな?
・・・・・・地面に凹みはあるが、いくつか普通に走った後のような地面が擦れた後を見つける。
これ、父上の縮地の後か?
もしかして、ヴァンデルンって凹み残らないのが本当なのか?
今まで普通に凹ませまくってたけど。
混乱する頭を必死に落ち着かせる。
移動の度に凹みが出来たらどうだろう。
家の武芸は弓兵、すなわち戦場で使うための技と仮定してみよう。
移動の度に凹みを作ったら・・・・・・騎馬が転ぶな、敵味方両方。
歩兵の陣形も崩れるだろう。
だけど、弓兵が縮地を使わなければいけない状況って負けてるよな・・・
いやいや、またやらない理由探しか?
中々直らないな、この性格。
可能性があるならやってみないと。
先ずは、桶を持たずに縮地の練習だ。
凹んだところを均して、練習していく。
凹みを作らないようにすると移動距離が足らず、移動距離を意識すると地面が凹む。
かなり難しいな。
何回も試していくと、ある事に気が付く。
うん、・・・・・・俺、身体強化魔法苦手だわ。
そう言えば、前から言われていたな。
操作が出来ていないって。
身体強化は、階位も大事だけど運用も大事だって。
今まで何となくで使っていたツケが回って来たな、こりゃ。
なるほど、皆伝以上では運用に重きを置くのか。
・・・・・・確かにこんな無駄な力が入っていたら、遅れを取って当たり前だな。
更に数時間、訓練を続けているとカチヤ・ラインハルト・クラウディアの三人が尋ねてきた。
「アドルフ、何やってんの?」
「見れば・・・・・・分かるだろう」
ひたすら短距離の縮地を続けていた。
「クラウディアは分かる?」
「いえ、さっぱり」
「カチヤは?」
「身体強化魔法の、訓練?」
「正解」
ラインハルトは驚愕の表情で
「分かっちゃうのかよ!」
などと大げさに驚いている。
「で、何で今更?」
心底分からないと言う表情のラインハルト。
今更・・・・・・だと?
「今までおろそかに、していたからな」
流石に喋りながらだと、キツイ・・・・・・。
「疎かって、武芸するときの基本じゃん?」
「そう、だな・・・・・・」
「え? 出来ないの?」
ラインハルトいい加減にしてくれないか。出来ないんじゃない、
「する必要がなかったの、今までは。」
・・・・・・あれ?
カチヤとラインハルトの視線が冷たい?
「もしかして出来て当然?」
2人が無言で首を縦に振る。
あれ?
そうなの?
キョトンとしていると、ラインハルトはフゥーと息を吐き
「アドルフ、お前の非常識さ加減には慣れていたつもりだったけど、これは異常だ。もしかして未だに4段階とか掛けっぱなしで旅してたのか?」
「・・・・・・はい」
ラインハルトの表情が、呆れを通り越して怒りに変ってくる。
「ダグラス先生にも散々、注意されていたな?」
随分と昔に感じるなぁ~、先生元気かな?
「おい!」
「はい! 注意されてました!」
「何で今更だ?」
近い近い
「魔法開発に忙しくて?」
はぁ~と、深いため息をつかれ
「カチヤ、見てやってくれ」
「うん」
そこから数時間、カチヤ教官にみっちりとしごかれ、ラインハルトには
「取りあえず、その皆伝位を習得するまで旅も魔法も禁止だ」
と言われ、明日もカチヤ教官の下訓練をすることになった。
一先ずの期限を一か月に設定し、各々訓練と調整を行うことにして
旅立ちの日を伸ばすことにした。
俺が怒られている間、必死にラインハルトの死角に逃げていたクラウディアも、ラインハルトに訓練をしてもらうようだ。
やっぱり流派の違いじゃないだろうか?
そんな事を考えていると、無表情になったカチヤが次のメニューを俺に言い渡してきた。
頑張ろう。
カチヤが元に戻ってくれるように・・・・・・。




